日本でも一部エリアでは試用提供が開始された5G。通信速度の改善により、IoTの普及と各社の新たなアプリサービス展開が見込まれていることから、マーケティング戦略に関しても、Webサイトとアプリにおける顧客分析や管理の観点からの見直しが必要と考えられています。本記事では、今後の分析の備えとしてアプリ分析指標の整理から見直しに役立つポイントとツールについてご紹介します。
Webサイト分析とアプリ分析の違い
そもそも分析をするうえで、Webサイトとアプリはどのような違いがあるのでしょうか。Webサイト分析ではページビュー数やコンバージョン率などの指標はもちろん、どこから流入してきたか、起点、終点、線形などどこにコンバージョンポイント を置くかなども指標として見ることができます。一方で、アプリ分析においてはダウンロード数やダウンロードされた後にアプリの利用継続率や課金率などの指標を見ることができます。アプリではダウンロードした後の顧客行動に重きを置くことが多く、売上に注目した指標が多いことが特徴です。(図1)
(図1: Webサイト分析とアプリ分析の違い)
そのためアプリではユーザー離れを防ぐためのマーケティング手法が多くあります。アプリの重要な機能や使い方を伝えるような仕組みはもちろん、ユーザーに合わせたプッシュ通知機能やアプリ内のメッセージ機能によりエンゲージメントを改善することが可能であり、顧客ロイヤリティを向上していくことができる点もアプリの特徴といえます。したがって、これらの改善を効率良く行うためにアプリの継続率や課金率(PUR)、平均購入単価(ARPPU)といった指標を確認することが必要でしょう。
次にアプリを分析していく上で重要な指標について詳しく見ていきます。
さまざまなアプリがリリースされていますが、そのほとんどの最終的なゴール(KGI)は売上を上げることだと思います。売上をKGIとする場合のプロセスの評価指標(KPI)は、一般的な販売指標として用いられる「客数」と「客単価」をもとに算出されることが多く、これはアプリにおいても同様の考え方であると言われています。
ただし、ビジネスモデルごとにその「客数」「客単価」を構成する指標が異なってきます。その指標を詳しく説明するため、まずアプリをビジネスモデルごとに下記の4種類に分類します。
① 課金タイプ
ユーザーによる課金売上が収入源のもの。無料から始めてユーザーの意思で課金できるため、ダウンロードのハードルは低い。ソーシャルゲームアプリはこのタイプが多い。
② 広告収入タイプ
アプリ内に設置した広告による収入が収入源のもの。ダウンロードから使用まで無料のため、ダウンロード数は増やしやすい。SNSアプリやキュレーションサイトアプリが多い。
③ 売り切りタイプ
アプリダウンロードによる販売売上が収入源のもの。現在リリースされているほとんどのアプリがこのタイプである。加工カメラや目覚ましなど便利ツールアプリが多い。
④ クーポンタイプ(店舗送客タイプ)
クーポン配信による実店舗への送客が目的のもの。通常、実店舗やECサイトのある小売業や飲食の企業がリリースする。クーポンの他、店員のコーディネートLOOKなどで来店、購買を促すものもある。
上記タイプ別に指標を当てはめていくと下記のようになります。
【課金タイプ/広告収入タイプの場合】
この2つは基本的な考え方は同じで、下記となります。
売上=アクティブユーザー数×ARPU |
・アクティブユーザー数とは
アプリをダウンロードしてから使用しているユーザー数のことで、ダウンロード数×アクティブ率で算出できます。
・ARPUとは
Average Revenue Per Userの略でユーザー1人あたりの平均売上を示す指標であり、商品やサービス販売の場合の「客単価」の部分にあたります。
このARPUを構成する指標はタイプごとに少し異なります。
・課金タイプの場合
ARPU=PUR(課金ユーザー率)×ARPPU(課金者1人当りの平均利用金額)
ARPPUとはAverage Revenue per Paid Userの略で、商品単価×平均購入数×購入頻度で算出することができます。ARPUと似ていますが、ARPUはアプリをDLしているすべてのユーザーに対しての平均売上、ARPPUはDLしているユーザーの中のさらに課金をしているユーザーに対しての平均売上を指しています。
【広告収入タイプの場合】
ARPU=CPC(クリック単価)×CTR(クリック率)または
CPM(広告単価)×エンゲージメント率(スクリーンビュー数/時間など)
【売り切りタイプの場合】
売上=ダウンロード数×アプリ単価 |
基本的に1デバイスに対し同じアプリを2つ入れることは不可能のため、1人当たりの単価はアプリ単価と一致すると考えられます。そのため「客単価」の部分はアプリ単価となります。
【クーポンタイプ(店舗送客タイプ)の場合】
売上=クーポン利用数×店舗・ECサイトでの平均客単価 |
クーポンを利用した=店舗やECサイトで購買を行った客数と考えられます。そのため「客数」がクーポン利用数となります。
これらをさらに細分化すると、上記タイプのアプリにおける注目すべき指標はこのようになります。(図2)
(図2:アプリ評価指標詳細)
このようにKPIを設定するためにはビジネスモデルを理解したうえで、そのアプリに合った指標を設定することが重要となってきます。また、KPI設定にはそもそもその指標の計測ができているかの確認も非常に重要となってきます。そこで、アプリにおける指標計測の方法をWEB計測との違いをベースに詳しく確認していきたいと思います。
アプリ計測の仕組み
各指標を計測するためには、計測環境を整備する必要があります。せっかく新たな指標軸でマーケティングをしようと思っても、計測環境の不備により正しい値が取得できていないということがよくあります。Webサイト とアプリでは計測の仕組みは大きく異なるので、ここで確認しておきましょう。下記にWeb計測とアプリ計測の違いをまとめてみました。(図3)
(図3:Web計測とアプリ計測の違い)
Web計測ではブラウザごとに埋められたタグとCookie情報を用いてユーザー行動を測定するのに対し、アプリ計測ではアプリに埋められたSDK(Software Development Kit)というツールとデバイス単位で取得する広告ID(広告識別子)を使用する測定方法が一般的です。
広告IDとは、特定のOSがインストールされたデバイスに付与される固有のIDです。Appleが発行しているiOSにおける広告IDはIDFA(Identification for Advertisers)、Googleが発行しているAndroidにおける広告IDはAAID(Android Advertising ID)といい、これらのIDを使用することでSDKでの効果測定を可能にします。(図4)
(図4:アプリ広告の計測の流れとSDKの役割)
他にも、広告IDを利用できない場合にFinger Printingという技術でダウンロードしたデバイスを類推する測定方法や、アプリ起動時にGoogle Playに遷移する際のリファラを使用するAndroid限定の分析手法もあります。このように多くの手法が存在するため、それぞれの測定条件を知り、それに合わせて手法を使い分けることが重要です。
最後に、実際にアプリ計測実施の流れをご紹介します。まずは、アプリにSDKが導入されているかを確認しましょう。SDKが導入されていない場合は、SDKの選定から始める必要があります。今日では、さまざまなベンダーがSDKを提供しています。計測したい内容や連携先の広告、予算に合わせて適切なものを選びましょう。計測環境が整ったら、ダッシュボードの構築をおすすめします。KPIをもとにデータを可視化することで、メンバー間で共通認識を持ち、迅速な意思決定を可能にするとともに、課題発見にも繋がります。課題を発見した場合は色々な視点を持って要因分析を試し、KPI達成に向けてPDCAを回していきます。
アイレップではSDKの導入サポートをはじめとし、ダッシュボード構築・課題分析コンサルティングサービスなどさまざまなソリューションを提供しています。お気軽にお問い合わせください。
共同執筆者
渡邊 花乃子(株式会社アイレップ ソリューションビジネスUnit データドリブンビジネスDivision データドリブンビジネスグループ)
川端 文乃(株式会社アイレップ ソリューションビジネスUnit データドリブンビジネスDivision データドリブンビジネスグループ)
この記事の著者
内山 恵美
Web媒体社にて約7年のマーケティング経験を経て2017年度にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社に入社。現場目線でのデータシステム最適化の提唱者としてDMP基盤連携・解析を担当。現在は株式会社アイレップに出向し、主にマルチチャネルのデータエンジニアリング・解析、サービス開発案件を担当。
趣味はマリンスポーツ。
Web媒体社にて約7年のマーケティング経験を経て2017年度...