ミドルファネル攻略への道 #後編Meta広告運用の3つのカギ

2025.08.04

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ミドルファネル攻略とは、認知向上と顧客獲得の施策を統合し、生活者とのエンゲージメントを強化するための手法です。このアプローチは、単に広告運用のKPIを達成するだけでなく、企業の実際の成果に結びつけるうえで重要です。Meta広告はミドルファネル攻略において有効なプラットフォームの一つですが、いざミドルファネル施策を実施しようとすると、直面する課題が少なくありません。後編では、ミドルファネル攻略の課題をどのように乗り越えるべきかを聞きました。

▼前編

ミドルファネル攻略におけるKPI設計のコツ

- 前編では、ミドルファネル施策で直面する課題の一つとしてKPI設計の難しさを挙げていただきました。ミドルファネル攻略におけるKPI設計のコツは何なのでしょうか。

Hakuhodo DY ONE 高橋佐世子:ロワーファネル施策とアッパーファネル施策のKPIが分断する要因の一つには、ミドルファネル施策で設定したKPIが事業成果に紐づいていないケースが挙げられます。たとえば、あるクライアント企業では広告運用のKPIを視聴完了数に設定していました。しかし視聴完了数は目標達成しているにもかかわらず、クライアント企業が最も重要視するブランドリフトにつながっていませんでした。そこで、ブランドリフトから逆算して広告運用のKPIを設定し直したところ、ブランドリフトのみならず、商品の購入数も増加し、事業成果を拡大することができました。

また、適切なコミュニケーション戦略を実施し、事業成果に結びつけるためには、KPIに対する解像度を高めることも重要です。別のクライアント企業ではZ世代の新規顧客獲得が事業課題でした。KPIは「Z世代の獲得数」と定めたものの、担当者によってZ世代の具体的な特徴や獲得すべき層のイメージがさまざまでした。そこで、ワークショップを開催し、Z世代の解像度とKPIの理解を高めたところ、広告クリエイティブの品質が上がり、Z世代へのリーチ・獲得を得ることができました。このように、KPIをただの文字列として把握するのではなく、事業成果に結びつかせるためには、KPIを高い解像度で理解することも重要です。

広告クリエイティブの制作支援ソリューション

- 前編では、ミドルファネル攻略においてクリエイティブ制作のリソース不足が課題となっていることも聞きました。

Hakuhodo DY ONE 鈴木良太:これまでMeta日本法人Facebook Japan(以下、Meta)と当社では連携して、クリエイティブ制作に関する知見を高め合ってきました。

Meta 河村拓氏:その取り組みの一つが、当社主催の広告会社向けクリエイティブセミナーです。このセミナーの目的は、Meta広告のクリエイティブを使った広告主の課題解決です。

広告主のみならず、広告会社にとってもクリエイティブの量産の負荷は小さくありません。そこで注目したのがUGC風動画です。商材の利用シーンが分かりやすいことから成果改善につながりやすく、加えてほかのクリエイティブに比べると、制作負荷が小さいという特徴があります。Hakuhodo DY ONEの社員に参加いただいたUGC風動画制作のセミナーでは、前半で、Meta広告におけるクリエイティブのベストプラクティスを紹介しました。後半では、参加者全員が手持ちのスマートフォンで商品のデモ動画を実際に撮影するというワークショップをおこないました。すると、すぐにでも広告配信できそうなクオリティの高い動画が数多く制作されました。

鈴木:当社社員からも「UGC風の縦型動画を作る際のハードルが下がった」と評判でした。このようなMetaの知見は、当社が広告主にご提供するクリエイティブの本数や質の高さの担保につながっています。

後編2

 

- インフルエンサー広告のクリエイティブ制作に便利なソリューションがあれば教えてください。

河村氏:当社ではCreator Marketplaceというソリューションを提供しています。「自社プロモーションに最適なクリエイターを効率的に探せない」という広告主のフィードバックを受け、開発されました。Meta Business Suite内のツールで、年齢や性別、コンテンツのジャンルなどの条件をソートしながら、自社プロモーションに適したクリエイターを検索できます。さらに、過去の配信内容を参考に、ブランドとの関連性が高いクリエイターをレコメンドする機能があるのも特徴の一つです。

※Meta Business Suite...Metaが提供する無料ツールで、FacebookとInstagramの運用を一元的に管理できる。アカウント切り替えなしに両プラットフォーム上の投稿や広告を作成・管理し、その成果を確認することが可能。

後編3

河村氏: Creator Content Recommenderというソリューションもあります。これはオーガニックのクリエイタータイアップ投稿を効果的に広告化するためのレコメンド機能です。これまでタイアップ投稿においては、クリエイター起用のコストがかかったり、コンテンツ内容の充実に注力したりするあまり、オーガニック投稿にとどまり、広告配信化まで手が回らないケースが多くありました。しかしオーガニック投稿だけでは機会損失が生まれてしまうかもしれません。Creator Content Recommenderは、どのタイアップ投稿を広告化すれば高い効果が期待できるかをレコメンドすることで、効率的かつ効果的なクリエイター施策を実現します。

後編4

高橋:クリエイティブ制作は、ブランドのレギュレーションなど広告主ごとにさまざまな事情があり、それぞれの広告主に合わせた制作をおこなう必要があります。Hakuhodo DY ONEでは、Metaと共に開発・蓄積してきたツールやクリエイティブ制作の知見を生かし、広告主の事情と課題に寄り添ったクリエイティブ制作を実施しています。

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ミドルファネル攻略の効果検証をおこなうには

- ミドルファネル攻略における課題の3つ目として挙げていた効果検証はどのようにおこなえばよいのでしょうか。

鈴木:前編において、Meta広告の管理画面では、インフルエンサー施策の効果を可視化できないという話をさせていただきました。しかしMetaと当グループが連携して開発したAaaS with Metaではインフルエンサー施策の効果を検証することが可能です。AaaS with MetaとはSNS上でのブランド構築を支援するソリューションです。MetaのデータクリーンルームであるAdvanced Analyticsに、当社の生成AI技術や生活者データを組み合わせることで、より深い分析とクリエイターのアサインが可能となりました。

※Advanced Analytics…広告効果の計測・分析をおこなうことのできる安全でプライバシーに配慮した分析環境のこと。

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AaaS with Metaを使用したパートナーシップ広告の効果分析で有効なメニューとして挙げられるのは、選定したインフルエンサー同士のリーチの重複率や、インフルエンサー広告と通常のキャンペーンの重複率を可視化する分析です。これにより、インクリメンタルリーチを確認したり、各インフルエンサーと相性の良いターゲットを分析したりできます。

こうした分析結果は、次回のキャスティングやクリエイティブの示唆出しに有効です。分析結果をもとにキャスティングの幅を広げることで、これまで配信できていなかった潜在ターゲットの発掘にも役立てられるでしょう。

- 効果検証といえば、近年、Instagram広告において新しい計測ソリューションが登場したそうですね。

河村氏:その通りです。ブランド効果と相関のある「会話量(バズ)リフト」と呼ばれる新しい効果測定が誕生しました。Instagramのエンゲージメント指標といえば、フォロー数や「いいね」などがありますが、社内研究の結果、こうしたエンゲージメント指標の中でも「会話量」※1がブランドエクイティ※2に結びつきやすいということが分かりました

※1会話量…UGC投稿やコメントなどInstagram上の会話のこと。
※2ブランドエクイティ…消費者の認識やブランドのイメージによって生じる、そのブランドが持つ無形の価値のこと。これにより、企業は商品に高い付加価値をつけ、市場で競争力を維持することが可能になる。

会話量のリフト結果をそのままミドルファネル施策の主要指標として用いるのは難しいですが、二次KPIとしての活用が可能です。最近では、広告施策から生まれた発話内容をもとに、ミドルファネル効果の結果分析をおこなったうえで、コミュニケーションプラン段階から入り込み、クリエイティブ制作やオンラインとオフライン連動(ポップアップ)施策を実施する事例も出始めています。

※オンラインとオフライン連動(ポップアップ)施策…オンラインとオフラインを連動させたシームレスな購買体験を実現するために、ポップアップストアを活用する事例が見られている。

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- ほかにミドルファネル攻略に有効な指標はありますか。

高橋:当社ではView Through Navigation Query(以下、VTNQ)という指標を提供しています。これは当社が2019年に開発した指標です。Meta広告などのWeb広告に接触したユーザーが、その後、指名キーワードで検索し、リスティング広告経由でウェブサイトに訪れた数を測定するものです。これはVTNQ用のコンバージョンタグを企業サイトに設置することで計測が可能になります。

これにより、従来の調査ベースでの評価に加えて、「指名検索数」や「指名検索単価」といった実行動ベースの評価ができるようになりました。意識調査だけでは実現できなかった粒度での広告評価やPDCAの実行に有効です。SNS広告のみならず、検索連動型広告での実績が豊富な当社だからこそできるMeta広告の効果検証だといえるでしょう。

後編6

Hakuhodo DY ONEとMetaが目指す未来

- ミドルファネル攻略をはじめとして、Hakuhodo DY ONEとMetaでは連携してMeta広告の効果的な運用方法を模索してきたそうですね。

鈴木:Metaと当社は、Meta広告を通して、Web広告の成果にとどまらず、広告主全体の成果拡大を目指したいという共通の目標をもって協業を続けてきました。

その一つが、Metaと当社が共同で実施している「Hakuhodo DY ONE Meta Award(以下、アワード)」です。これは、Metaの運用における当社の先駆的な事例を創出したチームを評価する表彰制度です。

アワードにおいて最も重視しているのは、Meta広告の成果が実際の事業成果にどれだけ結びついたかという点です。アワードの本質的な目的が、企業の事業課題に真摯に向き合うスキームを形成することにあるからです。

河村氏:このアワードでは、Hakuhodo DY ONEと当社、双方の経営層と現場のメンバーが一堂に会し、最高の運用方法から、今後私たちに求められていることまで、目線合わせをすることができました。

当社は広告主にさまざまなプロダクトやメニューを提供していますが、それらを効果的に活用し、企業の課題解決につなげるためには、パートナー企業との協力が不可欠です。このアワードを通じて最前線の現場の生の声を聞くことで、Meta広告の知見や事例の蓄積をベースに、パートナーとして両社が一蓮托生で提案し、実現するに至った熱量を共有できたのは大きな成果でした。

このアワードを契機として、当社のイベントにおいてHakuhodo DY ONEや広告主に登壇していただき、事例を広く共有いただいています。アワードが単発のイベントで終わるのではなく、業界全体に広く波及効果をもたらしているのは特筆すべきことです。

- 今後、Meta広告の活用において注力していきたいことは何ですか。

河村氏:今後、当社において注力していきたい主なテーマは、クリエイティブ開発、データ連携の推進、そしてAIベースの配信強化です。こうしたテーマに対して、これからも最先端の取り組みを横展開していくためのスケーラブルなサポートをおこなっていきたいです。加えて、各広告主の課題にきちんと根差した細部の取り組みも重視していきます。広告会社パートナーシップチームとして質の高い提案につなげる丁寧な仕事を心がけていきたいです。

高橋:広告主の事業課題に根差した広告運用は、当社でも重要視しています。広告会社として専門性を活かした運用知見の蓄積と独自ソリューションの開発を続けていくのはもちろんのこと、そうした知見やソリューションをどうすれば各広告主に適した方法で活用できるかを考えていきたいです。

鈴木:生活者の行動やタッチポイントとなるメディアは刻々と変化しています。今回の対談を通してお伝えしたMeta広告におけるミドルファネル攻略も、Metaと当社が変化する生活者行動を深く研究したからこそ確立した広告運用手法です。今後もMetaと協業しながら、時流に合った最適なアプローチ方法を先駆けて開拓し続けていきます。

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<プロフィール>

Meta日本法人Facebook Japan
エージェンシーパートナー
河村拓

Meta河村さん

 

 

 

 


2016年に電通入社、ストラテジックプランナーとして活動。その後、外資系の事業会社を経て、Facebook Japan (現Meta)に入社。Metaでは、ブランド領域のソリューション担当としてプランニングを経験したのち、異動。現在は、代理店パートナーシップチームに所属し、代理店とのMetaを活用した事業戦略の構築や事業開発、クリエイティブやAIに関するソリューション導入のサポートに従事。

この記事の著者

DIGIFUL編集部

「DIGIFUL(デジフル)」は、株式会社Hakuhodo DY ONEが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。

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「DIGIFUL(デジフル)」は、株式会社Hakuhodo ...

高橋 佐世子

2014年、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)に入社。メディアコンサルティング担当として、ソーシャルメディア、出版メディア等を担当。専門的な知識や経験を軸に、サイトコンサルティングや広告商品開発などにも携わり、未来を見据えてビジネスチャンスの拡大を目指す。特にSNS領域においては、メディアコンサルティング領域の立ち上げをリードし、グループ全体のビジネス推進に寄与。現在はインフルエンサーマーケティング領域において、各プラットフォーマーとの連携によるサービス開発を遂行している。

2014年、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会...

鈴木 良太

ネット専業広告会社でのクリエイティブプランナーを経て、株式会社アイレップ(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)へ入社。入社後はメディアプランナーとして従事し、メディアを横断したフルファネルの企画立案や調査設計をおこなってきた。メディアそれぞれの特性に合わせた細やかなユーザーコミュニケーション設計を得意とする。

ネット専業広告会社でのクリエイティブプランナーを経て、株式会...

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