Google I/O 2025から紐解く検索の未来

2025.07.11

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5月20日~21日にGoogleの大規模イベント「Google I/O 2025」が開催され、多数の生成AI関連の発表を一気におこなったことで話題となりました。

Geminiモデルのアップデート、新たな動画生成モデルVeo3、コーディングエージェントJulesなど注目のトピックはさまざまありますが、今回は特にGoogleのメインの収益源となっている検索と広告に関係する発表について深堀りしていくとともに、今後の検索ビジネスの行く末についても考えていきたいと思います。

参考:検索における AI : 情報を超えた知性へ|Google

生成AI時代における検索の変化

2024年に開催された「Google I/O 2024」でAI Overviews(AIによる概要)が発表されました。元々Search Labsというテストプラットフォームに登録したユーザー向けにテストしていましたが、2024年5月に米国全ユーザーへの展開され、そのわずか3か月後には日本でも展開されました。

これにより、検索結果ページの上部である従来の検索結果よりも先に目につく位置にAI検索による回答が表示されるようになりました。さらにここ数カ月でその表示頻度も増加しているなどの報告もあがっています。

回答にあわせて参照元のWebサイトも表示されるため、AI Overviewsの登場によってインプレッションが増加するケースもあるものの、AIの回答でユーザーが満足して元のWebサイトまで閲覧しないいわゆる"ゼロクリック検索"が増加、CTRが30%ほど減少することを示す調査結果もいくつかでてきており、特にパブリッシャーにとってはAI Overviewsがネガティブな影響をもたらしている可能性があります。

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なぜGoogleが検索でここまで大きな変更を加えようとしているのか。背景にはGoogleのビジネスモデルと生成AIの登場が関係しています。

Google親会社であるAlphabetが公開した 決算(2025年Q1)では、全体の売上902億ドルのうち検索広告が507億ドルと大半を占め、Google検索のトラフィック数やシェアはGoogleのビジネスモデルにとって重要な要素となっています。

そのGoogle検索の新たな脅威として近年頭角を現しているのがAI検索です。従来は、検索ワード(クエリ)に関連するWebサイトをアルゴリズムに基づいて表示する形式でしたが、AI検索ではユーザーからの質問に対してAIがクエリを生成して検索し、集めた情報を1つの回答として表示するというフォーマットになっています。

2023年ごろからAI検索ツールのスタートアップとしてPerplexityが注目を集めましたが、ほどなくしてOpenAIもAI検索ツールに参入するなど、新しいAI検索の利用が浸透し始めました。

GoogleもAIアプリのGeminiでAI検索機能を提供していますが、AI検索の利用が広がるにつれてGoogleのメインの収益源である検索の利用率が低下するのでは、という懸念が続いています。

直近2025年5月には、米国でおこなわれているGoogleの独禁法裁判でAppleの幹部が証言した際、「SafariにおけるGoogle検索の検索ボリュームが22年ぶりに減少した」「OpenAIやPerplexityといったAI搭載の検索エンジンを導入してSafariを刷新することを検討している」と述べたことで、Alphabetの株価が下落、Googleが急いで声明を出す事態となりました。

GoogleはSafariのデフォルト検索エンジンにGoogleが採用されるよう、Appleに対して年推定200億ドルもの契約を結んでいます。それだけAppleデバイスユーザーからのトラフィック獲得は重要であり、AI検索によってそれが失われる可能性が示唆されたこともGoogleのAI検索強化の動きに拍車をかけている可能性があります。

そうした背景を踏まえ、Googleが打ち出した新たな動きが、2025年3月に発表したGoogle検索のAI Modeです。AI OverviewsはAI検索の回答"だけ"をGoogle検索に組み込んだのに対し、AI ModeはAI検索ツールを"丸ごと"Google検索に導入しています。

検索結果にAI検索専用のタブとしてAI Modeを設置し、画像などのビジュアル付きで説明、下部のチャット欄から追加で質問をすることも可能になるなど、PerplexityのようなAI検索ツールと遜色ない機能がGoogle検索上で提供されることになりました。

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そして2025年の「Google I/O 2025」ではこのAI Modeにおける大規模なアップデートを発表し、Google検索ではなくAI検索を使うユーザーの取り込みも図っています。

Google自身がAI検索を専用タブとして取り入れることで従来のGoogle検索を利用するユーザーが減り、広告売上が減少するリスクもある中で、それでもこうした動きを取ってAI検索に舵を切った(切れた)ことはこのイベント一番のサプライズと言ってもいいのかもしれません。

Google I/O 2025におけるAI Modeの進化

ここからGoogleが2025年に発表したAI Modeのアップデートについて紹介していきます。

まず前提としてAI Modeの提供範囲が拡大されています。3月の発表時には米国のGoogle Labsにオプトインしているユーザーのみでしたが、米国全ユーザーへと展開されることになりました。日本での提供時期は現状不明ですが、AI Overviewsも「Google I/O 2024」で米国全ユーザー展開を発表してから3か月後に日本で展開されたことを踏まえると、AI Modeも夏ごろに日本で利用が開始される可能性があります。

今回の公式リリースでは以下のような言及がありました。GoogleとしてAI Modeを重視する姿勢の表れとも捉えられます。

今後、Gemini の最新機能はまず AI Mode に導入します。フィードバックを得ながら、AI Mode の多くの機能や性能を中核的な検索体験に組み込んでいきます。今週から、Google の最も知的なモデルである Gemini 2.5 のカスタム バージョンを、米国の AI Mode と AI による概要の両方に導入します。

また以下のような新機能も発表されました。

▸Deep Search

ChatGPTやPerplexity、GeminiといったAI検索のツールでは今やスタンダードとなったDeep Research系の機能。時間はかかるものの、多数の検索を実行し数十~数百の情報源から大規模に情報を収集、それらの情報をまとめてレポート化してくれます。

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先ほど「AI ModeはAI検索ツールを"丸ごと"Google検索に導入したもの」と説明しました。Deep ResearchというAI検索のコア機能をAI Modeにも取り入れることでAI検索ユーザーのニーズをつかもうとしているのではないかと思います。

スポーツや金融関連のクエリでデータを分析する際にグラフ等を用いてビジュアライズする機能も発表されましたが、それも同じくサーチよりもリサーチのニーズに向けた機能といえます。

▸エージェント機能

質問への回答や商品の検索といった情報の処理だけでなく、商品の購入といった実際のアクションまで実行するAIエージェント。AI Modeでもユーザーに代わってアクションを実行するエージェント機能を導入しています。

イベントのチケット購入やレストラン予約、ローカルの店舗・サービスの予約といったシーンにおいて、ユーザーが日時やロケーション、人数などの条件を指定すると、AI Modeが各種予約・購入サイトで希望条件にマッチする商品・サービスを検索して購入画面まで進み、ユーザーは購入の最終確認ボタンを押すだけでタスクが完了します。

Ticketmaster、StubHub、Resy、Vagaroといった企業のチケット、レストラン予約サービスなどと連携しながら、昨年12月に発表したブラウザ操作型のAIエージェントProject Marinerの技術を活用することで今回の機能を実現しています。

222176019172_04ユーザーの指定に基づいて検索をおこない、チケット購入画面まで自動でたどり着く

従来のGoogle検索でもフライトやホテルの検索に特化した機能がありましたが、エージェント機能によって検索以降のタスクも代わりに実行し、ユーザーのアシスタントとして利便性を高めています

▸パーソナライズ機能

OpenAIやPerplexityなどをはじめとした新興ツールへの対抗という意味では、既存のGoogleエコシステムを活用して利便性を高めることでユーザーの囲い込みも狙っています。

今回、過去の検索履歴などからユーザーのコンテクストを把握することでAI Modeにおける提案をパーソナライズする機能を発表しました。例えばGoogleのフライト検索を通じて飛行機を予約すると、AI Modeを利用する際に目的地周辺のイベントを紹介してくれます。

参照する情報は検索履歴やフライトやホテルの予約確認情報、そしてGmailとも連携するとのことで、今後おそらくGoogleカレンダーやGoogleマップなどとも連携を拡大していくのではないでしょうか。Geminiでも似たような機能を以前からテストしていましたが、AI ModeにおいてもGoogleのアプリエコシステムを活用した独自の価値を提供しようとしています。

▸Searchライブ

スマホ向けの機能では検索のユースケース拡張も図っています。2024年の「Google I/O 2024」で発表したリアルタイムのマルチモーダルAIエージェントProject AstraがAI Modeに「Searchライブ」という名前で搭載されることになりました。

カメラを向けて写っているものについて音声で質問すると、回答に加えて参考となるWebサイトやYouTube動画も提示してくれます。リアルタイムの視覚理解によってユーザーの日常生活のアシスタントとしての能力を高めています。

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今回の新機能は米国Labsユーザー向けとのことで、日本で利用できるようになるのはまだ先にはなりますが、AIによる検索体験の変化を把握する上で、ある種のベンチマークとしてAI Modeは重要になっていきそうです。

▸マーケティング関連の動向

Googleは早速AI Modeに広告やコマース関連の機能を追加することも発表しています。「Google I/O 2025」の直後に開催されるGoogle Marketing Live 2025の基調講演でもAI ModeやAI Overviewsの広告が真っ先に紹介されており、AI検索時代における収益源獲得に向けてGoogleがこの領域を重視していることが伺えます。

AI Modeでは、質問や回答に関連する広告が回答内に表示されます。AI Overviewsの場合はそもそもAIによる概要が表示されるクエリとされないクエリがあるといった前提がありましたが、AI Modeの場合は従来の検索とは別の専用タブとなっているため、①従来の検索とAI Modeを利用するユーザーの比率②従来検索とAI Modeの主なユースケース(クエリのタイプ)の違いが広告価値を測る上で1つのポイントになってくる可能性があります。

公式リリースではWebサイトの構築方法を調べている際にWebサイトビルダーの広告が表示されるという例を紹介していました。仮にAI Modeでは問題解決に向けてより個別具体的な方法を調べる傾向があるとすると、広告のコンテンツとしてはユーザーの特定の課題を解決する方法として商品やサービスを訴求する方が広告効果が高まる可能性もあります。

222176019172_06回答内の「Sponsored」セクションで広告を表示

広告以外にも、AI検索で自社のWebサイトが表示されるように従来の検索とは異なるコンテンツ戦略を取る、AI版のSEOとしてAIO(AI Optimization)やGEO(Generative Engine Optimization)と呼ばれる領域が立ち上がってきています。GoogleのAI Mode推進によってこの領域への注目が高まっていくことも考えられます。

ECの商品検索においてはその兆しが既に現れています。今回AI ModeとGoogleショッピングの連携も発表され、ショッピンググラフに登録されている商品をAI Modeから検索できるようになりました。AI Modeに表示されるような商品説明の充実化などの施策がカギになるかもしれません。

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また、条件に合致する商品の価格を追跡し、セール時に通知して購入確認ボタンを押すだけで購入が完了する「Buy for me」機能も発表しています。レストラン予約などと同様に、ECの商品購入においてもエージェント機能が導入されて利便性が向上することで、ユーザーの利用が加速する可能性もあります。

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検索ビジネスの展望

ここまで2025年の「Google I/O 2025」で発表されたAI Modeの大規模アップデートについて紹介してきました。冒頭でGoogleが自身のコアであるGoogle検索とコンフリクトするAI検索に舵を切ったことは驚きに値すると述べましたが、ユーザーの維持・獲得はできたとして、その上でAI検索でどのように収益を上げるのかは課題として残されています。

AI Modeにおける広告への取り組みも今回発表していますが、AI検索の広告が従来の検索広告と同様に効果を発揮するのかは未知数な部分も大きく、広告以外のアプローチが必要になる可能性も十分にあります。

実際、Sundar Pichai CEOが「サブスク事業の重要性が増す」と発言しており、今回GeminiやVeo 3、NotebookLMなどのAIプロダクトのサブスクプランとして、以前から提供していたGoogle AI Pro(月2,900円)に加え、ハイエンドプランのGoogle AI Ultra(月36,400円)を追加しました。これらのプランに現状AI Modeは含まれていませんが、今後プレミアム機能が組み込まれ、検索が広告+サブスクのハイブリッドモデルへと移行する可能性も残されています。

広告・マーケティングを支援する立場としても、AI Modeでの広告効果が見込めない、あるいはサブスク中心のモデルへと移行が進む場合、AI検索では広告からAIOへと主戦場が移っていく未来もあり得るため、Googleの検索ビジネスがどう変化していくのかは注目ポイントです。

(例えばAI Modeや周辺サービスのAIエージェント化が進むことで、AI Modeが旅行プランニングをおこないながら、別のフライト・ホテル予約エージェントに予約を依頼し、予約エージェントのサービス利用料金を支払う、そしてその分の料金がユーザーに転嫁されるなどのビジネスモデルが登場するシナリオが実現したとして、AI Modeに信頼されタスクを依頼されて売上をあげるAIエージェントのサービスを構築することが事業者にとって重要になるかもしれません。)

※2025年7月時点の情報です

まとめ

今回は「Google I/O 2025」から検索に大きな変化をもたらしうるAI Modeの動向について紹介しました。

直近の法規制やAI検索の登場によって外部からのプレッシャーに晒され続けているGoogle検索。今回のAI ModeによってGoogle自身がその姿を変えようとしており、それに伴って今後ビジネスモデルやエコシステムも一変する可能性があります。

まずは先に展開される米国の動向を注視しながら、日本での展開に備える必要がありそうです。

 

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この記事の著者

藤丸 紘馬

2021年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)入社。広告技術研究部では新卒時から先端テクノロジー領域の調査を担当し、直近では生成AI領域で注目のトレンドやAIツールについて調査をおこなう。

2021年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現 株...

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