テレビCMを公開すると、指名検索や非指名検索をおこなう生活者が増加します。検索した生活者を効率的にサイトに流入させるには、並行してSEOをおこなうことが重要です。この記事では、テレビCMと指名検索の関係、テレビCMによる認知施策の成果を最大化するためのSEO、行動を促すクリエイティブを作るポイントを解説します。また、難しいとされるテレビCMの効果測定の方法についても紹介します。本稿は、2023年3月28日に開催された「テレビCMの効果可視化 解説ウェビナー~テレビCM×SEO~」での講演内容をもとにしています。
テレビCM×SEO
冨田
テレビCMの効果指標として、最近のトレンドになっているのが指名検索です。
指名検索とは、自社ブランドや商品名を含むキーワード検索のこと。その量は、企業の競争力を示すバロメーターでもあります。
生活者が企業名、ブランド名、商品名を知っていれば、関連するニーズが発生したときに指名検索をしてくれる可能性があります。企業からすれば、無競争で顧客を獲得でき、CPAも低く抑えられます。
逆に、企業名、ブランド名、商品名を知らなければ、一般キーワードで検索されます。企業としては、そのキーワードをSEOやリスティング広告で他社と奪い合うため、CPAは高くなります。
(図1:指名検索数の向上はCPA低減に繋がる)
一般的な「認知×検索」施策の場合、それによってどれぐらい指名検索が増え、コンバージョンに至ったかをモニタリングしていくのが基本です。
(図2:認知施策を実施すると検索リフトする)
認知施策による検索リフトは、非指名検索にも影響します。認知施策後に発生するあらゆる検索需要に対応してSEOを実施すれば、認知施策の成果を最大化させることができます。
(図3:認知施策の実施は指名検索だけでなく非指名検索の検索リフトも促す)
認知後に生じる「検索」について
SEOを実施することで認知施策の成果最大化が狙える
登
図4は、ある企業がテレビCMを公開した後の指名検索数の推移を、Googleトレンドで調べたグラフです。指名検索である「サービス名(カナ)」(青線)が増加しています。
(図4:テレビCM公開を契機に指名検索が急激に増加する)
テレビCMを見てサービス/ブランドを認知した生活者は、興味関心を持てば、検索(指名検索または非指名検索)をおこないます。検索した生活者を効率的にサイトに流入させるには、セットでSEOをおこなうことが重要です。
ではSEOをおこなう場合、キーワードは「ブランド・サービス」の指名クエリだけでいいのでしょうか?図5は、ある企業のCM公開後に発生した検索クエリを分類した表です。
(図5:生活者は、指名検索だけでなく、さまざまな検索クエリを実行している)
表から分かるように、生活者はさまざまなバリエーションで検索しています。認知施策の成果を最大化するには、単ワードの指名クエリだけでなく、指名クエリと非指名クエリにバリエーションを持たせた、多くの検索クエリでSEOをおこなうことが重要になります。
※セミナー本編では、特定のCMを対象にしたクエリサンプル(指名・非指名)を紹介
認知施策によって副次的なSEO効果が期待できる
テレビCMを公開すると、指名検索キーワードだけでなく、非指名検索キーワードの順位も上がることが、われわれの調査から分かっています。
(図6:テレビCMとSEOには一定の相関性が見られる)
なぜ、そのような現象が起きるのか。認知施策によって大量のトラフィックが集まることで、ユーザーから求められているサイトである、とGoogleから評価されたのではないかと考えられます。
「テレビCMで検索順位が上昇するのであれば、SEOをしなくても良いのではないか」と考える人がいるかもしれません。
結論から言うと、SEOはやるべきです。SEOに取り組んでいると、認知施策によるSEO効果を最大限に活かすことができます。図7は、SEOに取り組んでいる/取り組んでいない状況を比較した図です。
(図7:認知施策前のSEO実施が、認知施策の効果最大化を促す)
SEOを実施していない企業が認知施策をおこなっても、キーワード順位上昇の恩恵は限定的です(図7左)。一方、SEOを実施している企業の場合、多くのキーワードで順位上昇の恩恵を受けられます(図7右)。このような状態を、アイレップでは「マルチエントランス化」と呼んでいます。
ただし、認知施策をおこなえば必ずキーワード順位が上昇する、というわけではありません。効果の有無は、サイトに流入したユーザーの行動次第です。Webサイトの質が悪いせいでユーザーが不満を持ち、それが行動データに表れると、SEO効果は得られません。図8で、ユーザーの行動データ例をGoodとBadに分けて紹介しています。
(図8:Good/Bad別ユーザーの行動データ例)
多くのユーザーにGoodな行動をしてもらうには、顧客体験が高まるようにWebサイトを整備する必要があります。例えば、ユーザーに役立つ情報を掲載する、UI改善によって使い勝手を向上させる、などが挙げられます。
認知施策とSEOは相互作用する関係にあります。テレビCM等の認知施策をおこなう場合、SEOをセットでご検討いただくことをおすすめします。
(図9:認知施策とSEOは相互作用する関係にある)
行動をつくるクリエイティブ
小野
テレビCMとSEOの成果を最大化させるには、クリエイティブの内容も重要なカギを握っています。ユーザーの理想的な「行動をつくるクリエイティブ」を制作するためのポイントを順番に説明します。
共視聴を前提に作る
一般的に、テレビはリビングなどに置かれ、複数の人が同時に視聴します。この「共視聴」を前提に作るのが1つ目のポイントです。
クリエイティブ企画においては、個人のインサイトを突いていくことも重要ではありますが、もっと大きな成果を得るには、家族単位のインサイト、家族の習慣を変えるようなクリエイティブを作ることが大事です。
(図10:テレビCMのクリエイティブは共視聴を前提に企画する)
また、共視聴を前提にしたフォーマットに、「L字バナー」があります。CM本編が流れる外側のL字型のエリアにキャンペーン情報を載せることで、2つの要素を一気に訴求することができます。例えば、CM本編では全世帯向けに訴求し、L字バナーでは主婦層をターゲットにした情報を流す。そんな作り方も、今は主流になってきています。
(図11:L字バナーはセグメント単位での訴求に最適)
音声視聴を意識して作る
テレビCMは音声視聴が前提です。例えば、音だけの訴求と、映像+音の訴求では、意向度の上昇は4倍近くの差があります。また、映像だけの訴求と、映像+音の訴求でも、意向度の上昇には1.6倍の差が出ました。この結果からも、映像と音声の組み合わせこそが、クリエイティブの大きな力になることが分かります。
(図12:映像×音声の掛け合わせが利用意向度を大きく向上させる)
テレビCMにおける音としては、出演者の声やナレーションなどCM映像に付随する音声、BGM、サウンドロゴなどが挙げられます。ユーザーが最初に耳にしたときに、感情が動き、その気持ちの揺れ動きが記憶の定着に寄与します。それが、その後の広告態度、ブランド態度に、直接的/間接的に影響していきます。
弊社の手がけた事例では、音声視聴を意識したクリエイティブによって、指名検索キーワードが3.4倍のリフトを計測したこともあります。
(図13:テレビCMの音声は記憶定着に大きな役割を果たす)
指名検索されやすいように、記憶定着・行動意向を促進する
生活者に指名検索をしてもらうには、あらかじめ生活者に記憶されていることが前提になります。何らかのニーズが発生した瞬間に、生活者の記憶の中に残っている情報が、純粋想起の元になるというわけです。
(図14:ニーズが発生した際に生活者の記憶に残っている情報が指名検索の源泉となる)
一般論ですが、人は1日で60%の記憶を失うといわれています。生活者の記憶に残り続けるには、一定の間隔で複数回情報を摂取してもらうことに加え、生活者の印象に残るフレーズや音を含んだクリエイティブが有効です。
(図15:複数回のキャンペーン実施は認知率の低減防止に効果がある)
アイレップでは、記憶定着を促すクリエイティブ制作をフレーム化しています。まず、記憶定着に繋がる構成を持った動画フォーマット3パターンの中から最適なものを選び、オリジナルの訴求シートを使って、訴求内容を確定させていきます。この訴求シートは、複数の調査を挟みながらブラッシュアップしていき、最終的にはかなり解像度の高い状態に仕上げていきます。ウェビナーで紹介した事例に関しては、個別にお問い合わせいただければ、詳しくご説明させていただきます。
(図16:アイレップの記憶定着を促すクリエイティブ制作のフレームワーク)
AIによる注視を担保する
アイレップでは、クリエイティブのどの部分に人間の目線が集中するのかを予測し、ヒートマップ形式で確認できる独自開発のAI注視分析ツール「H-AI EYE TRACKER」を開発し、実際に活用しています。
デモ画面(図17)の濃い赤の場所が、生活者の視線が集まると予測されている部分です。このツールをクリエイティブの仮編集段階で使うことで、キャンペーンコピーやキャンペーン名のうち、視線を集める可能性が高いのはどのキーワードか分かります。
(図17:H-AI EYE TRACKERのデモ画面)
テレビCMと効果測定【冨田】
アイレップのメディアプランニング
冨田
アイレップはメディアプランニングをおこなう際、経験や勘ではなく、データをもとに意思決定をしています。その上で、博報堂DYグループの歴史と体制で広告枠の買い付けをおこなえることが、アイレップのメディアプランニングとメディアバイイングの強みです。
(図18:アイレップのメディアプランニングの特徴)
また、アイレップでは、検索行動をベースにして出稿量を設定しています。予算ありきではなく、過剰投下にならないポイントをデータから算出して投下量を設定します。
(図19:アイレップでは検索行動をベースに出稿量を設定している)
どの業界でも、認知率と指名検索数には正の相関関係があります。このようなデータを重要視しながら、業界ごとに最適なプランニングをしていきます。
(図20:アイレップではさまざまなデータを駆使してメディアプランニングをしている)
指名検索の計測方法
デジタル広告と違い、テレビCMの効果計測が難しいのは事実です。アイレップでは、3つの方法によって、デジタル広告並みの効果計測を実現しています。
(図21:アイレップでは指名検索の計測を3つの方法で実施している)
①時系列統計モデル
時系列統計モデルでは、因果推論という統計的手法を使って、指名検索・サイトセッションの純増リフトを算出しています。テレビCM投下時のアクチュアル指標を計測し、投資判断に活用しています。
(図22:時系列統計モデルの概要)
②インプレッション換算
インプレッション換算とは、テレビCMの視聴率をデジタル広告のインプレッションに換算することです。テレビCMとデジタル広告の成果を横並びで評価し、適切なメディアアロケーションを実現できます。
(図23:インプレッション換算の概要)
③短期間スパイク
「スパイク」とは、テレビCMを放映後の瞬間的な認知増加、Webサイトへの流入増加、ブランドリフトの上昇を意味するアイレップ独自の用語です。
短期間スパイクとは、テレビCMを最小単位である個別枠まで分析することで、効果を正しく評価する手法です。短期間スパイクは、アイレップがオリジナルに開発した専用ツール「x2 supported by TV Aaas」を使って評価します。
(図24:短期間スパイクの概要)
今回紹介した内容については、ウェビナーでも紹介したような事例も豊富にありますので、ご興味のある方は個別にお問い合わせください。
また、この3つの計測方法に関しては、「運用型デジマス広告」の「#2 アイレップのテレビCM効果測定」「#4 アイレップが考えるテレビCMの新指標」で詳しく説明しています。ぜひ併せてお読みください。
※x2(DOUBLE SCORE)サイトへ遷移します
この記事の著者
冨田 真吾
2007年にDACに入社。媒体社向けのソリューション営業、アクセス解析の事業推進を経て、運用型広告の責任者として業務に携わる。2017年からの3年間、コンサルティング会社でテレデジ広告ソリューションを推進しさまざまな広告主企業へ導入。2020年11月にアイレップにジョイン。
2007年にDACに入社。媒体社向けのソリューション営業、ア...
登 章良
2010年からさまざまな業界における大規模サイトのSEOを中心に経験。SEOエンジニアとしてサイト制作の経験を積んだのちSEOコンサルタントへ転身。サイト制作の工程から集客に至るまでの体系的なスキルを保有し、伴走型コンサルティングの実績が豊富。米国PMI®認定資格、Project Management Professional(PMP)® 所持者。
2010年からさまざまな業界における大規模サイトのSEOを中...
小野 洋平
O2Oメディアのスタートアップ企業(現東証プライム)を経て、2010年アイレップへ入社。ロワー、ミドル、アフターファネルまでを担当した後に、アッパーファネルの取り組みに参画。ソーシャルリスニング、モデリング等を用いた事前検証を組み込んだ制作プロデュースに取り組む。
O2Oメディアのスタートアップ企業(現東証プライム)を経て、...