これまで、テレビCMの効果測定はアンケート調査による認知度・好意度のリフト効果で語られることが主流でした。しかし、最近は指名検索数などのデータを用いて、よりKGIに近い指標で評価をすることが増えています。本記事では指名検索リフトを可視化し、テレビCMの運用PDCAを実現する考え方を解説します。
1.テレビCMの効果測定手法とは?
これまで、テレビCMの効果測定といえば、アンケート調査による意識指標(認知度・ブランド好意度など)での評価が主流でした。しかし、実際に売上にどれだけ貢献したか?が見えづらい意識指標だけでの評価は、売上までの貢献度が可視化できるデジタル広告が普及した今の時代において、疑問視されることが増えています。そのため、最近では、サイト流入数や指名検索数のリフト率によって、テレビCMの効果を分析する企業が増加傾向にあります。
本記事では具体的にどのようにWebデータを活用して分析することが可能かについてご紹介します。
2.指名検索リフト分析によるテレビCM効果の可視化
(図1:GRPと指名インプレッションの時系列グラフ)
2-1.利用するデータについて
まず、分析にあたって、数あるWebデータのうち、どのデータを分析に用いるか決める必要があります。基本的には、カスタマージャーニーの中でユーザーがコンバージョンに至るまでにどのようなプロセスを踏むかをヒントに、売上と最も相関の高い指標を選択します。ここでは指名検索リフトを用いた分析方法を紹介します。
指名検索リフト分析では、リスティング広告の指名インプレッションのデイリー時系列データを用いることをおすすめします。データの用意が比較的簡単且つ運用調整による影響を受けにくいためです。他には、Google トレンドのデータを用いることも可能ですが、検索数の推移を表すデータとなり、実数値ではないため、可能な限りリスティング広告のデータを使用してください。但し、指名インプレッションのデータが、リスティングのアカウント構造の変更などによって、運用によるノイズを受けてしまっている場合は該当期間のデータの使用を避けるようにしてください。
その他、サイト流入数を中間KPIに用いられるケースは多いと思いますが、テレビCM放映と同時期にデジタル広告の出稿を強化していると外部影響のノイズが含まれてしまい、正しい分析ができなくなる場合があるため、注意が必要です。
2-2.分析方法について
次に分析方法についてご説明します。指名検索リフト分析は、上記で説明したリスティングの指名インプレッションのデイリー時系列データに加えて、テレビCMの出稿GRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)のデイリー時系列データを用意するだけで分析が可能です。図1のように指名インプレッションとテレビCMの出稿量の時系列推移グラフを作成したり、テレビCMの出稿前と出稿後のインプレッション数を期間ごとに集計したりして、前後比較することで簡単に効果を把握することができます。(図1)より精緻に分析する場合は、統計ソフトを使ってトレンド・シーズナリティデータを排除した時系列分析(図2)をおこないます。過去2年分以上の指名インプレッションデータを用意し、長期的に変動する要素(トレンド)と一定の時間で周期的に変動する要素(シーズナリティ)を取り出して分析をおこなう方法です。
※出典元:株式会社セールスアナリティクス 2021年1月19日「(R編) 時系列データをサクッとSTLでトレンド・季節性に分解」
(図2:時系列分解 ※出典元の図版をもとに筆者が作成)
3.テレビCMの運用PDCA
では、分析結果をどのように次に活かすことができるでしょうか。ひとつは、テレビCMを実施した結果、どのくらい指名検索リフトに効果があったかを可視化することで、次の出稿時に指名検索リフトをもたらす最適な出稿量の算出ができるようになります。(図3)
(図3:(イメージ)GRP(週)毎の指名検索リフト率シミュレーション)
指名インプレッションとGRPのデータを用いて、回帰分析をおこない、近似曲線を描くことで、GRP量と指名リフト率の関係性を明らかにする方法です。さらに、指名インプレッションとコンバージョン数の関係性も同様に回帰分析で明らかにし、どのくらいの出稿量を出せば、どのくらいの指名検索がリフトして、その結果、指名流入によるコンバージョン数が何件増える、という予測を立てることも可能となります。
また、前回の出稿時と比較して指名検索リフト率がどう変動したかを分析することで、メディアの買い付け方法の改善ができたのか、クリエイティブの改善ができたのか、PDCAの評価の示唆につなげられます。
4.まとめ
テレビCMの効果を、Webデータを活用して明らかにすることで、前回と比べてテレビCMの改善ができたのかどうか、次回どのようにさらに改善していくべきか、議論が広がり、PDCAを回すことが可能になります。
一方で、指名検索リフトへの跳ね返りばかりを気にしていると、短期的効果にばかり目が向けられてしまい、場合によってはブランドエクイティが向上していることに気づかず、テレビCMの効果を過小評価してしまうことも起こりえます。なぜなら、検討期間が長い商材か短い商材かによっても指名検索リフトへの跳ね返り方は変わってくるからです。ゆえに、意識指標での評価とWebデータでの評価をケースに応じてうまく使い分けながら、テレビの運用PDCAの実現していくことが重要だと考えます。
この記事の著者
藤原 くるみ
2015年より広告運用コンサルとしてキャリアを築き、数々の大型案件を歴任。その他、社内勉強会講師を担当したり、レポートシステムの開発に携わるなどクライアント業務に関わらず社内の運用品質向上にも貢献。2019年からストラテジックプランナーとしてデジタル×マスの統合プランニングおよびコミュニケーションプランニング領域に従事。
マイブーム:タトゥーシール、銭湯、ネオンサインをフィルムカメラで撮ること、BTS
2015年より広告運用コンサルとしてキャリアを築き、数々の大...