AI Prompt Director / AI Filmmaker Miho Kinomuraにきく動画生成AIのいま 「アート性のあるクリエイティビティにこそ活用を」

2024.12.04

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2024年以降、目覚ましく進化する動画生成AI。広告制作の現場でも活用が進んでいます。今回、Hakuhodo DY ONEでクリエイティブを担うメンバーが、AI Filmmaker としてロサンゼルスを拠点に活躍するMiho Kinomuraさんと対談。
動画生成AIの現在地や、広告における活用の展望について語り合いました。

木之村 美穂 Miho Kinomura
STUDIO D.O.G GK 代表
Creative Director / AI Prompt Director / AI Filmmaker

山口 尚久
株式会社Hakuhodo DY ONE
Executive Creative Director

米田 雄史
株式会社Hakuhodo DY ONE
Creative Director/CM Planner

※本記事は博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しています
元記事:https://seikatsusha-ddm.com/article/15149/

ファッションデザイナーからプロデューサー、ディレクター、AI Prompt Director / AI Filmmakerへと転身

米田:
私と山口はHakuhodo DY ONEのクリエイティブ部門で広告の企画、制作に携わっていますが、いまクライアントからも生成AIを活用した企画をしたいという声を多くいただいていて、実際に制作の現場で生成AIに向き合っています。日々試行錯誤しているところなので、今日はぜひ最先端の生成AI事情を聞かせてください。まずは簡単にMihoさんの経歴を教えていただけますか?

Miho:
はい、私はもともと日本でファッションデザイナーをやっていたのですが、ニューヨークに渡って世界でもトップクラスのファッションフォトグラファーを集めた、フォトグラファーエージェンシーを立ち上げました。

撮影を専門領域としながら、クリエイティブ領域まで携わるプロデューサーというちょっと変わったポジションです。メインのクライアントがファッションブランドや大手化粧品メーカーだったこともあって、感度の高いクリエイティビティを求められる広告を多く手がけました。そのうちに映像のお仕事をいただく機会が増えて、ファッション系の動画クリエイティブをつくるようになって。仕事がだんだん大きくなっていき、拠点をロサンゼルスに移すことになりました。

もともとファッションデザイナーだった私が、いきなりプロダクションの社長になり、プロデューサーになってしまったわけですが、やはりクリエイティブの仕事に戻りたいという思いがあり、2000年にプロデューサーからディレクターに転身しました。そこからはファッションとビューティーに特化した仕事をしています。

米田:
いまはAI Prompt Director / AI Filmmaker という肩書きで活動されていますが、生成AIの領域に進出したきっかけは?

Miho:
2021年にWeb3の大きな流れがあって、NFTやブロックチェーンという言葉が広まりました。私はあまり詳しくなかったんですが、一緒に仕事をしているフォトグラファーやディレクターがNFTで作品を売ると言い出して、それってどういうこと?という状態から一気に勉強しはじめたんです。そうこうするうちに、生成AIという言葉も出てきて、生成AIでファッションのビジュアルをつくる人も出てきた。私もやりたいなと思ってはじめたのがきっかけです。

生成AIクリエイティブならではの表現とは?コンセプトメイキングから化粧品の「シズル」まで。作り手と使い方次第で、表現の幅は無限に広がる。

米田:
2022年からは「NFFT」というイベントも開催されていますよね。

Miho:
NFFTは「New Future AI Fashion Technology」の略で、生成AIとファッションとテクノロジーを掛け合わせたクリエイティブを発信しています。2022年から毎年百貨店でイベントをおこなっていますが、AI作品をデジタルモニターやパネルディスプレイで、実際の会場を使ったリアルの体験として展示をするというのは、メタバースイベントとは違いデジタルの世界ではあまりないことです。それを東京ではじめることを、みんなおもしろがってくれています。

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NFFT Official Web Site https://www.nfft.jp/
NFFT2025_SS_Teaser Movie https://vimeo.com/1013912966

作品は2023年まで静止画でしたが、今年に入ってからは映像に。動画生成AIの進化はすごく速いんですよね。Midjourneyや、Stable Diffusionでプロンプトからベースになる画像を作り出し、さらにその画像を入れて、「Text-to-Video」というテキストプロンプトを入れるとAI映像ができる。OpenAIのSoraやRunwayのGen-3 Alpha Turbo、他社でもLuma Dream Machine やpika labosなどの動画生成AIが発表され、開発競争が加速しています。2023年のNFFT2023 AI Fashion Eventは、動画ではなく、静止画像1枚のビジュアルを中心に2023年10月に開催したので、今年も10月にイベントは開催予定でしたが、今年に入ってからあまりに動画生成AIの進化が早いので前倒して6月に開催しました。あえて早いタイミングでおこなうことで、トップレベルの動画生成AI作品をいちはやく世界に発信したいと考えました。

米田:
開催時期を早めるほど技術の進化が著しかったわけですね?

Miho:
今年に入って、映像をつくる、ナレーションをつくるという技術は飛躍的に伸びましたね。あとは音楽。のんびり待っているわけにいかないですし、早く触れておいた方がいいと思います。これは私がGen-3 Alpha Turboでつくった新作です。こんなふうに「シズル」もつくれるんです。実際に撮影するとなるとかなり難しいですが、特殊で専門的なテキストプロンプトを入れることでスムーズな動きの動画が生成されます。

※シズル:広告表現で、消費者の五感に訴えて購買意欲をそそる手法のこと

安く簡単につくれるだけが魅力じゃない。映像制作のプロフェッショナルだからこそアプローチできる生成AIクリエイティブとは?

山口:
これは想像を上回りますね。

Miho:
もちろん、何度もやりなおして膨大な数から素材を選んでいますが、こういった質感まで表現できるようになったのはすごく新しい。リアルなんだけど、現実世界ではありえないことを映像に起こせるのがおもしろいですよね。これってもう、つくり手の言葉のセンスや今までの撮影やディレクションのビジュアルづくりの経験値が必要になってくるんですね。何を入れれば何が出るかは、勉強していないとわからない。

私が皆さんにお伝えしているのは、生成AIが映像の世界に参入したいまだからこそ、映像のプロが活躍できるということ。プロンプトにはカメラのアングル、レンズ、ライティング、すべての要素を入れているわけで、それをわかっている人だからつくれる。まったくの素人がやろうとしても、ここまでのものはできません。この映像も、私がこれまで化粧品の広告をやり続けてきたからつくれるものなんです。

ゴールドの液体が垂れてくるシズル部分のプロンプトの一部を紹介したいと思います。プロンプトは、すべて英語の専門的な撮影方法を入れた文章で構成されています。各シーンごとにプロンプトを入れて、Midjourneyで生成されたオリジナルの画像を入れて、さらに追加で以下のようなプロンプトを入れて動かしたり、そのままテキストだけを入れて動きを出すなど、いろいろと工夫をしています。

▼ゴールドの液体が垂れてくるシズル部分のプロンプト(一部分)

The camera was used with a macro close-up lens, and the studio background was a simple black color . The bright, strong lighting, like that used for photographing liquid foundation in a cosmetics advertisement, was used to pour strong light into the liquid from the diagonal front. A gold-colored, viscous, thick, metallic, glossy liquid dripped randomly, slowly and at high speed, from the top and diagonal sides of the screen, towards the center, creating an unrealistic, mysterious movement. The liquid drips in a random flow and does not solidify in one place. A sparkling effect was added to the end of the movement, completing the 10 seconds in which the liquid dripped and permeated the entire screen. The sparkling shine has a gorgeous, sticky feel. 16:9 horizontal format

山口:
今後の広告クリエイティブにおいて、生成AIをどう活用すべきだと思いますか?

Miho:
いま見ていただいたように、リアルの撮影では難しいシズルの部分だけ生成AIを使ったり、部分使いしてもいいんじゃないかと思いますね。

ただ、広告業界の方とお話ししていると、効率よく、安くやるための道具として生成AIを使おうと考える方も多いように感じます。それはそれでいいと思いますが、私はもっとアート性の高い使い方をしたいし、クリエイターの才能を伸ばすツールとして使ってほしい。生成AIのおもしろさは、実際の世界にはないようなものが偶然に生み出されること。これまで通りのものを生成AIでやるのは、全然おもしろくないんじゃないかなって。

山口:
生成AIによって偶然に生み出されたものからインスピレーションを得ることもありますか?

Miho:
ありますね。もちろん、こういうものをつくろうという構想はありますが、実際にはすごく変なものも出てくる。それを、バグっぽくておもしろいよね、といって採用するケースもあります。通常の概念にとらわれず、頭の中を自由にしておくことが大事かもしれません。

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「人間の形をしたロボットが猫のぬいぐるみを持っている」クリエイティブを作成する過程で「人間の形+猫の顔をしたロボット」が完成。バグッぽいクリエイティブだったが、かわいいので作品に採用した。

山口:
おもしろいですね。生成AIの活用は、どうしても早く、安く、たくさんつくる方向に走りがちかもしれません。でも僕らとしてもクリエーションにおいてどんな未来が起こり得るのかということに興味があるんです。Mihoさんの最新の作品を見せていただいて、すごく驚いているところです。

Miho:
生成AIを「簡単に安くつくるツール」として見ているのはすごくもったいない。生成AI技術では日本は遅れをとっていますし、広告の分野でも早めに取り入れることが大事だと思います。

米田:
フォトグラファーなどクリエイター自身が生成AIを使って表現を尖らせていくというお話がありましたが、日本の広告業界では、まだまだ生成AIエンジニアがコストカットのために生成AIを活用しているのが多いというのが現状です。やはり今後は、クリエイター自身が知見を活かして表現していく方向を目指すべきなんですよね。

Miho:
そう思います。もちろん、技術を持った生成AIエンジニアが自己表現のために使うのもいいですが、やっぱりクリエイティブディレクターやフォトグラファー、映像ディレクターがこれまでのスキルを活かし、生成AIを使うことでさらにクリエイティビティを高めてほしい。逆に、まったくバックグラウンドがない人も、その人独自の感性ですごくおもしろいものができるかもしれないから、誰でもウェルカムなんです。国も年齢も一切関係なく、誰でもできるクリエーションなので、やらない手はないんじゃないかと思います(笑)。

取り入れるなら“早め”が吉。広告クリエイターこそ、チャレンジ精神を持ってとりあえず触れてみることが重要

米田:
クリエイターとしての知識もあって、英語も使えて、プロンプトも書けてというMihoさんのような人と、ちょっとプロンプトがわかるという人では出てくるものがまったく違うわけですよね。でも多くの人は生成AIに対して今はまだそこまでの知識がないので、どちらも「生成AIをやっている人」という認識になってしまう。広告の現場ではそのあたりのズレを埋めるのが難しいという現実もあります。

昨年、Mihoさんが手がけた百貨店とのクリスマスキャンペーン事例を拝見しましたが、一見生成AIと気づかないくらいのクオリティでしたし、作品自体がかっこよかったです。

Miho:
ありがとうございます。

山口:
これまでは生成AIらしいちょっと不思議な世界観がインパクトとなっておもしろがられていました。でも本来のクリエーションというのは、どのツールを使っていても、いいものはいい。しかし、あのレベルまでもっていくのは相当の苦労があったのではないですか?

Miho:
そうですね、制作期間だけでも6ヶ月くらいかかりました。途中で、普通に撮影した方がよかったんじゃないかと思うくらい(笑)。でもあの仕事は、まだ誰も見たことのない新しい広告表現へのチャレンジだったので、結果的に素晴らしいキャンペーンができてよかったと思っています。

米田:
生成AIで広告と聞くとちょっと未来の話のようですが、NFFTのイベントも8ヶ月で次のフェーズに進んでいる。クリエイターも事業者も、1年後くらいにやればいいかな、という気持ちでは遅いわけですよね。

Miho:
それは遅いと思いますね。開発に関しては1週間単位で進化してしまいますから(笑)。1年後には相当変わっている可能性がありますし、もう生成AIでつくりましたと言わない世界になっているかもしれない。日本の法律もいま整えている最中だと思いますが、それを待っていたら海外の開発の波にはついていけません。

海外で台頭する「生成AIプロンプトディレクター」という新しい肩書き。
AIで映像を生成することは、今後、広告クリエイティブの専門職になるかもしれない。

米田:
技術の進歩に適応してクリエイターも進歩しないといけないということですよね。それは広告会社の課題ですし、これから差が出るところだと思います。

山口:
生成AIの世界は、どんどん総合格闘技化していますよね。企画力、映像演出力、さらにそれを判断する審美眼が必要。一方で我々クリエイターは、さまざまなスペシャリストをアサインしながら広告を制作しています。そのあたりはどう考えますか?

Miho:
海外でももちろんチームで制作していますし、AIプロンプトディレクターという新しい肩書きもできました。AIプロンプトディレクターは、分業で仕事をする際にチームを統合する役割も担っています。

専門性が非常に高いので引く手あまた。お給料もすごくいいですよ(笑)。クリエイティブディレクター自身はAIを完璧に使いこなせなくても、この技術を使って何ができるか、実際に触って理解していることは大事かなと思います。

米田:
AIプロンプトディレクターという肩書き、おもしろいですね。

当社にも近しい役割を担うメンバーがいますが、たしかに引く手数多ですね(笑)。ちょっと前まで、広告クリエイティブはコピーライターとアートディレクターがふたり一組で企画をつくるのが主流でした。でも今後は、例えばアートディレクター×AIプロンプトディレクターとか、コピーライター×AIプロンプトディレクターみたいな生成AIありきのチーム編成が普通になったりもしそうですね。

最後に、広告は不特定多数に発信するものなので「受け手の感情」というものを大切にしていますが、生成AIだからこそ生み出せる感情や感動というものはあると思いますか?

Miho:
個人的にはあまり意識していないですね。できあがったものがすべてですし、それをどう捉えるかも見る人それぞれなので。生成AIだから生まれる違和感や不思議な世界観をおもしろがることはありますが、生成AIは表現手法のひとつに過ぎないと考えています。

クリエイティブ制作のプロセスをも変える。共創力のカギを握る生成AI

米田:
生成AIはあくまで手法ということですよね。僕らも制作で生成AIを使っているときに感じるのが、クライアントとチームで共創するときのツールとしてすごく役にたつということ。いくつか案を出したり、その案の検証をしたり、クライアントと対話をしながら制作が進められます。「これまで見たこともないものをつくりたい」というのはクライアントからも多く聞かれるオーダーですが、それを実現しやすくなったという意味でも生成AIの活用には可能性を感じますね。

Miho:
本当にそうですね。生成AIを活用することで、クライアントの夢を叶えやすくなっている。やはり私としては、これからもアート性のあるクリエイティビティに生成AIを活用してほしいと思います。

 

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木之村 美穂
STUDIO D.O.G GK 代表
Creative Director / AI Prompt Director / AI Filmmaker

 

元ファッションデザイナー。広告制作会社の代表として、Los Angeleを拠点に世界のトップクリエーター達とファッション広告や映像制作に関わる。 2022年からWeb 3.0デジタルメディアに特化した新プロジェクトNFFT(New Future AI Fashion Movie)のAI xFashion 映像イベントのファウンダーとして、世界で活躍するAI Creator 達を集めたイベントを開催。自らもAI Filmmakerとして、海外のAIフィルムコンテストに参加しAIショートフィルムを海外で発表。2023年12月に発表したPARCO Happy Holidays AI 広告キャンペーンのクリエイティブディレクターとして、日本初のAI 広告を制作した。Generative AI 関連イベントやセミナーにはアバター miomio として数多く登壇。

STUDIO D.O.G GK
https://studiodog.jp/
AI Fashion Event NFFT
https://www.nfft.jp/

 

183082024726_04山口 尚久
株式会社Hakuhodo DY ONE
Executive Creative Director

 

博報堂のクリエイティブディレクターとして100社以上の企業を担当した後、2022年にアイレップ(現Hakuhodo DY ONE)に参画。ブランド認知から獲得まで、事業成果にコミットするフルファネルでの統合型クリエイティブを設計、実践している。画像生成AIについても昨年ハロウィン向けのOOH広告を制作するなど、単に効率化だけでない、発想拡張とクリエイティブのクオリティ向上のための使い方を探求中。
受賞歴:カンヌGold、IBA部門最高賞、Ad Star金賞、読広グランプリ、毎広グランプリ、ACCなど、上方漫才大賞審査員

 

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米田 雄史
株式会社Hakuhodo DY ONE
Creative Director/CM Planner

 

広告映像制作会社を経て、アイレップ(現Hakuhodo DY ONE)に入社。 ミドルファネル施策・運用型動画広告における、戦略・企画から設計まで広くプランニングを手がける。
Hakuhodo DY ONE内では、AIの広告クリエイティブ活用を研究・推進するプロジェクトを進めている。
受賞歴:YouTube Works Awards2023 Action drive部門 Grand prix
YouTube Works Awards2024 Breakthrough Advertiser部門ファイナリスト

この記事の著者

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