前回の連載では、「自社の企業体力が他社に劣っている場合はどうすればいいのか。」という問い対し「同じと思われなければいい(独自化)。」と独自化の重要性について説きました。今回は独自化とブランドについて、筆者の考えを描いていきます。
第二回はこちら。
独自化の重要性
人間の意識には「同じ」にする働きがあり、この働きのおかげで等価交換が可能となった。
経済活動は、この「同じ」にする働きのおかげで成り立っている。
その一方で、この「同じ」にする働きは多くの企業にとっての問題であるコモディティの要因にもなる。
あの商品も、こっちの商品もほとんど同じ、だったら少しでも安い方、お得に思える方を選ぶ。
自社が提供する財やサービスがこのような状況に置かれている場合、値引きなどいわゆるインセンティブを活用することで消費者の購買選択を自社へ誘導することは理にかなっていると言えるし、その成果も上がるでしょう。
ただし、競合がインセンティブを活用しなければ。
もし、競合もインセンティブの活用が理にかなっていると判断すれば、その先の結果は目に見えていますね。
値引き競争。
競争に勝つために、互いに本来得られたはずの利益を削りあう。しかもそのサイクルは(等価とみなす主体である)消費者も含めたものだから、理屈のうえでは無限に続いてしまう。
このような状況では企業体力がある方が生き残る。
もし自社が、競合が耐えられない状態までインセンティブを活用できると判断できる状況ならば、競争優位を保つうえでインセンティブを活用するという判断は間違ってはいないでしょう。
ランチェスター戦略における、ナンバー1主義や足下攻撃の法則、いわゆる強者の理論です。
でもそんな戦略をとることができる企業は、ほんのごく一部。
自社の企業体力が他社に劣っている場合はどうすればいいのか。
答えは簡単。同じと思われなければいい(独自化)。
これが前回までのお話。
独自の存在となるために
では、意識に同じと見做されないために、どうすればいいのでしょうか?
コモディティと独自化された状態、その違いを等価交換の仕組みから説明すると以下のようになります。
コモディティの状態:
AとBとCは同じ(等価)、そしてAとBの金銭価値は〇〇である(交換)。
独自の状態:
AはBやCと同じではない(等価ではない)、そしてAの金銭価値は〇〇である(交換)。
※Aは自社、B/Cは競合
コモディティではなく独自の状態をつくるプロセスは、①「他と等価と認識されない状態をつくる」。そのうえで、②「金銭との交換条件を設計する」。
インセンティブは金銭との交換条件を操作することですから、認識の問題ではない。結果コモディティへの対策とはなりえない。
大切なことは、他と等価と認識されないことです。
「iPhone」という気づき
6〜7年前、ソーシャルリスニングにハマっている時期がありました。
(ソーシャルリスニングとはSNS上でどんな会話がなされているのかをツールを使って分析する作業のことを指しています)
日々様々な呟きを分析している中で、これは面白い!と思った発見のひとつに、スマホに関する呟きがあります。
Androidのユーザー=自分の端末を "スマホ" と呼ぶが
iOSのユーザー=自分の端末を "iPhone" と呼ぶ
Androidのユーザーは「スマホ落とした」や「スマホ水没」と書く人が多いのに、iOSのユーザーは「スマホ落とした」とは書かずに「iPhone落とした」「iPhone水没」と書く人が圧倒的に多かったんです。
つまり、iPhoneとはプロダクトの名称でもあり、(スマホと同様)カテゴリーの呼称でもある。
iPhoneというカテゴリーが存在する場合、ガラケーのユーザーが機種変更を検討する際のカスタマージャーニーは以下のようになります。
①:カテゴリーの選択=iPhoneかスマホかガラケーか
②-A:iPhoneを選んだ場合=iPhone一択
②-B:スマホもしくはガラケーを選んだ場合=多くの端末の中から選択
カテゴリーとは、等価とみなされるものの集団の呼称です。
iPhoneはスマホではなく、iPhoneというカテゴリー認識を獲得することで、他と等価と見做されない環境をつくった。これが日本市場におけるiPhone成功の要因と言える。
日本市場においてiPhoneは、現在でも大きな市場シェアを持っています。
つまり、意識が他と等価であると見做さなければ、決してコモディティに陥ることはない。
iPhoneがアメリカではじめて販売されたのは2007年。当時の日本はガラケー全盛の時代。docomo、au、softbank、いわゆる3大通信キャリアが熾烈なシェア争いをしている、そんな市場環境においてsoftbankはiPhoneの日本における独占販売権を取得、2008年に日本でもiPhoneが発売されました。
(当時apple好きで新しい物好きでもあったミーハーな僕は、もちろん速攻入手したことを覚えています)
これに焦ったdocomoやauは、翌2009年にGoogleが開発したAndrid OS搭載端末、いわゆるスマートフォンを発売します。
つまり日本市場ではスマートフォンよりも先にiPhoneという端末が発売されたという背景があり(アメリカや英国も同様)、この様な国ではiOSのシェアが高い傾向があります。
(3G規格を採用したiPhoneは通信環境の整備が遅れた国では投入できず、結果Android OS搭載端末と同時期の発売となったため、このような国ではアメリカや日本と比べて相対的にシェアが低い傾向にあります)
独自化のあれこれ
他と等価と思われないためにやるべきこと、ひとつはiPhoneのように独自のカテゴリーとして認識されること(一橋大学の経営学者、楠木建さんのいうカテゴリーイノベーションがこれに当たります)。
あるいは昨今注目されているパーパス。これも他と等価と思われないために有効です。
企業の存在意義(目的)を明確にし、目的を達成するために全ての企業活動を設計し実行する。
企業が提供する財やサービスの独自化ではなく、企業の存在そのものを独自化していく。
Patagoniaがパーパスドリブンであることは広く知られていますね。
人はひとりひとりが異なる存在である。これは常識ですね。
すべての企業は、人が起業し、人が経営し、人が働いている。つまり人の集まりです。
そして人は、ひとりひとりが異なる存在である。
とすれば、企業も1社1社が異なる存在であるのは明らかですね。
例えある業種にカテゴライズされている状態にあっても、そこに属する企業はそれぞれ異なる存在である。
同じと思われない、他と等価と思われないために。
すべての企業の問題であるコモディティへの対策として独自の存在を確立するための、いちばんの近道は、パーパスを見つめ直すこと、と言えるかもしれません。
顧客を創造し維持するためのマーケティング
P.F.ドラッカーは、企業の(真の)目的は「顧客の創造と維持」にあると言いました。
P.コトラーはドラッカーの考えに共感したうえで、マーケティングとは「価値を創造する交換過程をつくる活動」であると定義しています。
では、創造すべき顧客とは、どんな人たちか?
少なくともインセンティブによってのみ創造される顧客でないことは明らかでしょう。
カテゴリーそのものを創造する、あるいはパーパスによって企業の存在そのものへの共感を得る。
いずれにしても、他と等価である、という前提を覆すことなくして顧客の創造は不可能と言えます。
顧客の創造と維持を図るために、企業の存在意義(目的)をどう定義するか=パーパス
あるいは、カテゴリーそのものを創造する=カテゴリーイノベーション
先に述べた、独自の状態をつくるプロセスは
①「他と等価と認識されない状態をつくる」、そのうえで、②「金銭との交換条件を設計する」でした。
①に該当する取り組みがパーパスやカテゴリーイノベーションと言えます。
この前提があって、②「金銭との交換条件を設計する」とき、それはコトラーの言うマーケティングの定義「価値を創造する交換過程をつくる活動」そのものとなります。
第四回は、価値を創造する交換過程をつくる活動としてのマーケティングを深掘りしていきます。
この記事の著者
鈴木 智之
2021年2月アイレップ入社。CSV/カテゴリイノベーションの実現を支援する戦略をテーマに活動。広告会社のストラテジックプランナーとして、さまざまなクライアントのマーケティングや事業支援に従事。ブランド資産を活用した戦略構築に強み。
MarkeZine 連載
https://markezine.jp/article/corner/792
2021年2月アイレップ入社。CSV/カテゴリイノベーション...