AIエージェント元年の2025年 - マーケティング組織が直面する3つの論点

2025.02.03

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2025年は「AIエージェント元年」だと、よく耳にするようになりました。私たちもこの新しい技術の活用に取り組む中で、これが単なる技術の導入ではなく、組織のあり方や人材育成、さらには企業間の関係性にまで及ぶ重要な経営課題だと実感しています。本記事では、AIエージェントとは何かという基本的な解説から始め、この変化に向き合う企業の一員として、マーケティング組織におけるAIエージェントの意味を、皆様と共に考えていきたいと思います。 

AIエージェント元年、何がどう革新的なのか? 

2025年は、「AIエージェント元年」と呼ばれています。2024年に主要テック企業が相次いで発表した大規模言語モデルの進化等を背景に、「AIエージェントの時代が来る」と囁かれています。その動向を以下に簡潔にまとめます。

そもそもAIエージェントとは何でしょうか?リサーチ大手のGartnerによれば、「デジタルおよびリアルの環境で、状況を知覚し、意思決定を下し、アクションを起こし、目的を達成するためにAI技法を適用する自律的または半自律的なソフトウェア」とのことです。 

百聞は一見に如かず。AIエージェントとは何か?を直感的に理解するためには、OpenAIが今年1月に発表したAIエージェント「Operator」のデモ動画を見るのが最適です。OperatorはWebサイトを見て操作するAIエージェントですが、ユーザーがタスクのゴールを伝えるだけで、あとは何をしなくてはいけないのかを自分で考えて、おこなってくれます。

デモ動画の中では、レストランのWeb予約をOperatorがおこなう様子が披露されました。

ユーザーがOperatorに指定したのは、「今晩ベレッタというレストランを19時に2名分予約を取って」というゴールだけです。すると、Operatorは以下を自動でおこないました。これまでのRPAや生成AIとは一線を画す、Operatorの自律性と臨機応変さに注目してください。

まずレストラン予約サイトにアクセスします。OpenTableというサイトです。 
その後、ベレッタというレストランを探して、たどり着きました。 
次に指定された条件をOpenTableに入力して、予約手続きを進めようとします。

しかし、ここで問題が起こります。指定した時間は埋まっていたようです。Operatorは、その状況を理解して、ユーザーに一度相談した方が良いと判断しました。そして「今夜ベレッタで予約が取れる最も早い時間は19時45分です。こちらでご予約いたしましょうか?」とユーザーに尋ねます。

このように、AIエージェントは、ユーザーの指定したタスクのゴールを受け、

  • 自分で何をすべきかを考えて

  • そのために適宜必要なシステムやデータにアクセスして、

  • 必要なタスクを実施し、

  • その結果や状況を踏まえて、臨機応変にタスクを組み替える

などといった一連の処理をおこなうのです。 

では、従来の技術と決定的に違う点は何でしょうか?それは、人間が自然に携わってきた“タスクの粒度”をそのままエージェントが担えるようになったことです。これが革新的なポイントです。もし「AIエージェントとは要は自動化でしょ?」とシンプルに考えると、例えばお湯を自動で沸かしてくれる電気ケトルだってAIエージェントでは?――という的外れな疑問が浮かんでしまうかもしれません。しかし実際には、“自動化の粒度”がポイントなのです。例えば「記事制作」や「旅行の手配」など、人間が一つのタスクだと思っているようなある程度の塊のタスクを、目的や状況を踏まえて自律的に遂行できるようになること、これが革新的なのです。

 

185446556573_1AIエージェントとは?

出典:Gartner、急速に期待が高まっているAIエージェントに関する最新の見解を発表|Gartner
出典:Introduction to Operator & Agents|OpenAI|YouTube

マーケティングで既に取り組みが進んでいる。例えばHakuhodo DY ONEでは…

AI活用の宝庫であるマーケティング領域では、当然、AIエージェントの業務活用へ向けた取り組みが既に始まっています。当社においても、複数のプロジェクトで構想が進んでいます。

 

185446556573_2マーケティング領域におけるAI エージェントの構想例

  • マーケティングプランニングエージェント:マーケターの思考プロセスを模倣したエージェントです。ユーザーの要望をヒアリングし、与件を整理。その後、クリエイティブの方向性や訴求軸を定めて関係者とすり合わせ、次のフェーズへの橋渡しをスムーズに実現します。

  • コンテンツ生成エージェント:必要な素材をAIが生成し、ターゲットや配信プラットフォームに合わせて最適化、複数のクリエイティブやコンテンツを自動生成します。最後にガイドラインや各種規制に沿っているかを確認します。 

既にこれらの構想実現に向けた取り組みを通して、実ビジネスへのインパクトも確認できつつあります。

例えば、コンテンツマーケティング用の記事制作の領域では、コンテンツ制作に生成AIを導入することにより、記事作成コストが約40%削減されました。

さらに、リードタイムの大幅な短縮も確認されています。例えばインタビュー記事制作では、従来はライターがインタビュー内容を理解し初稿を上げるまでに1週間は要していましたが、今ではインタビュー終了後約5分で初稿が完成。その場で編集者との議論や一次フィードバックがおこなえるようになっています。

さらに重要なことに、今、業務のボトルネックに変化が起きつつあります。

先ほどの記事制作を例にとると、これまでは「コンテンツを作ること」自体がボトルネックでしたが、制作の高速化によって、後工程である「成果物をチェックするレビュー工程」のほうが新たなボトルネックとなっているのです。

しかし、既に成果物チェックへのAI適用が各所で検討されているため、レビュー工程のボトルネック解消も近いでしょう。そうなると今度は、前工程である記事の企画やコンテンツの選別、もしくは配信後のPDCAがボトルネックになる可能性があります。 

AIエージェント活用のポイントとは? 

私たちのさまざまな取り組みを通して、マーケティング部門がAIエージェントを活用する上での課題も見えてきました。ここでは、その課題を3つ紹介します。

1. 単なるインテグレートにはならない。全く新しいCXとオペレーション構想が必要

単なる自動化ツールとして捉えると、AIエージェントの真価は発揮できません。

AIエージェントは、従業員と同じく自律してある程度の塊のタスクをこなす、いわば“デジタル従業員”です。つまり、オペレーションプロセスの一部だけ、リソースが突然爆増したのと同じ状態と言えます。その場合、果たして今までと同じCXやオペレーションプロセスを前提に業務設計するでしょうか?そんなことはないはずです。仮にオペレーションプロセスの一部だけを自動化が実現しても、前後のオペレーションプロセスの対応が追いつかないでしょう。つまり、AIエージェントを組み込んだ、新しいオペレーションの構想が求められています。

また、従業員があるタスクを担う場合、その人が100%の精度でおこなうことを前提に全体のオペレーションを組むことはないでしょう。それと同じで、AIエージェントが常に100%正解を出すわけではない以上、場合によってはこれまで以上に後工程のレビュー等に必要なリソースや求められるケイパビリティが上がることもあります。 

2. AIアシスタント活用と異なる、プロジェクトマネジメントスキル 

AI開発が民主化される流れがあるとはいえ、AIエージェントの導入には、高度なITプロジェクトマネジメントの視点が不可欠です。あくまで個人の経験則ですが、ユーザー部門主導で高速開発を進める場合に見落としがちなポイントの1つは、非機能要件と呼ばれる機能面以外の要件検討にあり、注意が必要です。例えば、「処理負荷の増大には耐えられる?」「業務上求められる安定性が実現可能か?」などの観点で考慮が必要になります。AIエージェントは単なる生成AIアシスタントの活用よりも複雑なシステム構築になるため、こうした論点を押さえながらのプロジェクト進行がより重要になります。 

3. 部門横断的な視点 

マーケティング部門のAI活用やDX推進においては、マーケティング部門内はもちろん、セールス部門/カスタマーサクセス部門、商品企画部門などとの連携が重要でした。AIエージェント活用において、この連携の視点は一層重要性を増します。

では、AIエージェントの活用は部門間連携のあり方をどのように変えるのでしょうか。セールス部門/カスタマーサクセス部門とマーケティング部門の連携を例にいくつかイメージを考えてみたいと思います。

例えば、 セールス部門/カスタマーサクセス部門の各メンバーが作成・保有する「個社向けの提案資料」をコンテンツマーケティングAIエージェントが探索・理解し、汎用性の高いコンテンツへと昇華させます。これにより、マーケティング部門は現場に頼りすぎずにコンテンツを生み出すことができるようになります。 

また反対に、マーケティング部門が作成した汎用コンテンツを提案支援AIエージェントが探索・理解し、個社ごとにカスタマイズされた提案資料を作成します。これにより、営業は提案資料をスピーディーに作成することができるようになります。 

185446556573_4AIエージェントの連携例

このような部門横断的な取り組みを持続的に運用するためには、従来、担当者一人ひとりのインセンティブ設計が課題でした。上記のようなセールス部門からマーケティング部門へのコンテンツの流通などは、まさにそれに該当するテーマだといえるでしょう。

しかし、AIエージェントであればどうでしょう。AIエージェントは、特定部門のインセンティブに左右されず、設定された目的に従って働くため、持続的な部門連携を促進できます。 このような人間にない強みを持つAIエージェントは、部門連係の鍵となるはずです。 

AIエージェント活用は組織論。すなわち、2025年の“経営マター”である 

ここまで見えてきたことを振り返ると、AIエージェントの導入は、単なる業務効率化の話ではありません。それは、組織のあり方や人材のあり方を問い直す、いわゆる“経営マター”だと言えます。

その中でも、本章では以下の3つの論点を提起したいと思います。

185446556573_3AIエージェント活用が問いかける、3つの組織的論点

  • 組織構造や人的リソース配置の再設計
    社内従業員、広告会社、そしてAIエージェント。多様なリソースをどう組み合わせ、どの業務を誰(何)が担うのかを再設計する必要がでてきました。加えて、広告会社のマーケターによる常駐支援や、外部のAIエージェントサービスの活用などの選択肢も存在しています。AIエージェントの進化を睨みながら、将来像と、それを実現するトランスフォーメーション戦略が求められます。

  • 社内従業員(人)のコアケイパビリティの再定義
    特にマーケティング領域では、プラットフォーマーやソリューションの進化が激しく、社内従業員に求められるスキルセットも常に変化しています。AIエージェントにできることが増える中で、社内従業員(人)のコアケイパビリティをどう定義し、どう開発していくかも、喫緊の課題です。
    さらには、従来「経験の中で自然に形成されていたスキル」について、AIエージェントが業務を代替できるようになると、そのスキル獲得機会が失われるかもしれない。その変化に、どう対応するのか?あるいは、それらのスキルは「不要」と見極めるのか?…人材育成のあり方そのものが、今、問われています。

  • 企業間の関係性の変化
    前章でも述べた通り、AIエージェントの活用は、パートナー企業との関係性にも、地殻変動を起こしつつあります。例えば広告会社と事業会社のマーケティング部門が、共通のAIエージェントを活用し、プランニングの精度と効率を向上させる…。そんな構想が、既に各所で立ち上がり始めています。 

企業の垣根を超えた対話を 

マーケティング組織におけるAIエージェントの活用は、各企業が個別に、しかし同時に直面している共通の課題です。だからこそ、他社の取り組みや苦悩から学び、論点を先取りすることが極めて重要になります。そしてこのテーマは、事業会社と広告会社が、立場を超えて共に考えるべきものであることは、間違いありません。

AIエージェントがもたらす新たな地平を見据え、皆様との“越境”的対話を深め、共に未来を創造していきたいと考えています。是非、皆様の構想や悩みについてお聞かせください。 

この記事の著者

中原 柊

大手コンサルティングファーム、法人向けSaaSスタートアップを経て、2023年にアイレップに参画。メディア/Webサービス/通信/エネルギー業界を中心に、DX企画、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。DX部門において機械学習系スタートアップとの協業やメディアでの情報発信等にも従事。その後、社内最速でマネージャーに昇進。SaaSスタートアップでは、法人向け動画制作クラウドソリューションのカスタマーサクセス部長 兼 DXコンサルティンググループとして、カスタマーサクセスの戦略からオペレーション構築を通し、契約更新率の大幅改善を達成。また、新規プロダクトの立ち上げ等を主導。ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの社内オペレーション組み込みを力強く推進し、外部セミナー等において情報発信活動にも携わる。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)がある。

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