“広告疲れ”を起こさせない Hakuhodo DY ONEはCTAから「ATA」へ…人による広告表現とAI活用

2024.06.04

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Hakuhodo DY ONEが新たに「ATA(Attention-to-Action)感情トリガークリエイティブ」と名付けたフレームワークを提唱しようとしている。従来の獲得型広告の考え方を進化させたもので、いわゆるロワーファネルでの広告効果 がふるわない場合などでも成果の改善が期待できるものだ。

従来広告は、認知はテレビCMや動画広告で、獲得は検索連動型広告やバナー広告で、などの考え方が主流で、プランニングから制作まで分業化されてきた。

「しかし、いちユーザーからすれば、認知から獲得、ブランディングまで一貫した流れの中にあり、いずれの局面においても魅力的な体験を求めています」と話すのは、Hakuhodo DY ONE 第一クリエイティブ本部 第二クリエイティブ局 局長 の尾崎咲美氏だ。

クリエイティブの観点で見たときにも、認知目的においては、ブランドコピーの打ち出しやエモーショナルな演出が多く、獲得目的ではオファー訴求が主流で、CTA(Call-To-Action)が重要とされてきた。しかし、そんな獲得目的の広告においても、情動的な行動のきっかけがあっても良いのではないかと生まれたのが「ATA」だという。

「行動に移してもらうための“Call(要請、呼びかけ)”ではなく、生活者 が自発的に行動を起こすきっかけとなる“Attention(興味・関心)”を持っていただく。それがATA、つまり、『Attention-To-Action』の考え方です」(尾崎氏)

「ATA」は、獲得が頭打ちで停滞し始めた獲得型広告を再活性化させることも期待できる。

「特に、一定以上の認知度はあるのに、なかなか利用者、購入者が増えないといった課題を抱える企業にとっては、救いの一手になりうると考えます」と話すのは、 Hakuhodo DY ONE 統合クリエイティブ推進室の山口尚久氏だ。

では、「ATA(Attention-to-Action)感情トリガークリエイティブ」は、どのような効果が期待できるのか。

※本記事はAdverTimes.より転載しています
 元記事:https://www.advertimes.com/20240521/article457928/

見逃せない消費者の“オファー疲れ”

「“オファー疲れ”は、広告出稿量が多い企業ほど、早く陥ってしまう恐れがあります」と山口氏。“オファー疲れ”を大量に生み出しかねないのが、AI(人工知能)技術の誤った用い方だ。

「AIは、実際の配信成果に基づいて、よりクリックされるような広告表現を生成します。しかし当然ながら人間もパターン認識はするため、すぐに『これは、よくある広告だ』と見抜いてしまう。広告出稿側としては状況に応じて制作内容を変えているつもりでも、生活者側は、機械が生み出す広告に慣れてしまって、行動を喚起するほどの刺激にならず、もっといえば、そうしたオファーをし続けられることについて、むしろ不興を買うことすら想定されます」(山口氏)

各種のWebメディアやSNS、プラットフォームに触れるユーザー の洞察から、尾崎氏は、「興味もそそられないものを、わざわざ見るほど、ユーザーは寛容ではありません」と指摘する。昨今の「タイパ」(できるだけ短い時間で効果・成果を得ようとする志向性、タイムパフォーマンス)需要も彷彿とさせる例だ。

「見たい動画があって『YouTube』にアクセスしているとき、そこに単に広告が出たら、早くスキップしたい気持ちでとどまってしまいます。少なくとも、広告が見るに値するような、興味・関心を引く、もしくは有益であるコンテンツであることをすぐに感じてもらうことが重要です。そうでなければ、見たいコンテンツがあるのにそれを邪魔する障壁として捉えられてしまいます」(尾崎氏)

両氏の主張の要点はこうだ。

  • 表現面での最適化を過剰に図ると、消費者側も見慣れ、“オファー”に疲れてくる

  • 知らない、興味をそそられない広告をわざわざ見るほど、生活者は寛容ではない

では、「ATA」の名のとおり、興味を引くことのできる広告は、どう制作すればいいのか。

無意味なアテンションこそ意義深い

「それはやはり、人間だからこそ理解でき、共感し、表現に落とし込めるインサイトの発掘にあります」と山口氏は力説する。「ATA」は、考え方から構想したのではなく、実は事例が先行したボトムアップのフレームワークだという。

「メルカリの広告で、『ワイヤレスイヤフォンの片方をなくした』という実体験を基にして制作したクリエイティブが目覚ましい成果を挙げました」(山口氏)

片方では不便だけれど、新品を買うのはお金がかかるし、一つ余る。だが実はメルカリには、同じようなケースで片方だけのワイヤレスイヤフォンが出品されていることが多く、売る側であっても、買う側であっても、メルカリが役に立つというシーンだ。

「実際にそうしたケースに見舞われていなくとも、『あ、なるほどたしかに』という気づきがあればやはり消費者は能動的にアクションを起こすんです。これが改めてデータで実証されました」(山口氏)

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商品やサービス、ブランドのことを、生活者にどう思い出してもらえば、どう価値を感じてもらえれば、行動するか。そうしたクリエイティブこそ、「ATA」だ。博報堂でテレビCMの企画制作に長らく携わってきた山口氏は、さらに言葉をつなぐ。

「どれくらいお得か、商品にどんな特長があるか。説明・説得をして、だからあなたはこうすべき、といったメッセージを詰め込み意味にあふれた広告がCTAとすれば、ある種、ATAは対極の『無意味なクリエイティブ』です。しかし理屈を重ねなくとも、共感したり、記憶の片隅に残っていれば、消費者は行動するものだと思います。『ATA』は、『思い出させ方のクリエイティブ』とも言えます」(山口氏)

他にも、特に強い訴求を入れず、コンテンツの演出に振り切ったクリエイティブが成果を残した事例が多くあった。なぜ効果があったのか、Hakuhodo DY ONEで定性調査をしたところ、「耳に残った」「印象的だった」「面白かった」といった、従来的な獲得型クリエイティブでは見ることのないワードが目立ったという。

山口氏の話すとおり、コンテンツ力が強く印象的な広告を通じて、「商品やサービスを思い出させるような刺激が、認知してはいたが利用に至っていなかった生活者たちに響いていたのではないか」とは尾崎氏の弁だ。

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「ただ、従来型の広告を否定するものではありません。クリエイティブ一つ一つの目的を明確にした、多角的な クリエイティブプランニングが論点なのだと思います。従来型のしっかりとオファーをするものもしっかり配信しつつ、“無意味”ともとれるアテンションに特化したクリエイティブを配信する余白を用意する。といった、事業フェーズと配信戦略に基づき施策のフォーメーションを考え割合を決めることが最も大事なことと考えられます」(尾崎氏)

ATAにおけるAIの使い方

AIは定量データから最適解を導き出すもの。ユーザーの共感や発見を引き出すようなクリエイティブな発想力においては人間が勝る。両者の力をいかに組み合わせ、シナジーを生み出すかが、今後のネット広告の分かれ道と言える。

今回「ATA(Attention-to-Action)感情トリガークリエイティブ」のサービス提供開始に際し、尾崎氏は「ターゲットインサイトを掘り下げるのはもちろん、表現に落とし込んだ際に、広告主の持つパーパスや商品・サービス自体との齟齬がないか、どういった施策フォーメーションにすればよいか、など、案件ごとにチームを構成し、戦略から実行、運用まで担っていきたい」と話す。

「やはり運用型広告であることに変わりはないので『ATA』タイプの広告もスピーディーに制作し、効果計測していくべきです。そこではやはり、AIは強い味方。積極的に活用しています。また、興味を引くという側面においても、生成AIは特有の違和感づくりに役立ちます 」(尾崎氏)

「クリエイティブ組織として、ロワーからアッパーまでできる厚みはあると考えています」と話すのは山口氏だ。

「総合広告会社はロワーファネルが手薄な場合も少なくなく 、逆にデジタルに強い広告会社に、必ずしもブランドの知見があるとも言いづらい側面があります。Hakuhodo DY ONEには横軸組織としての統合クリエイティブ推進室 があり、そこにクリエイターが所属していて、ブランディングも獲得も混じり合うカルチャーが醸成されています。『ATA』もそこから生まれた動きです。クリエイティブの幅広さを武器にしていきたいと思います」(山口氏)

一方的な訴求を繰り返すのみでは、消費者は疲弊し、ひいてはそうしたコミュニケーションを続ける広告主側にもコストの増大という形で重荷になっていく。人間のクリエイティブとAIの効率性という双方の強みを改めて見直し、より一層効果を生み出すためのインターネット広告の姿が、いま現れようとしている。Hakuhodo DY ONEでは獲得、アッパー、ミドルなど従来の部門の垣根を越えた組織横断的な体制を構築。ロワーからアッパーまでの幅広い領域の経験とノウハウを武器に、パラダイムシフトに挑む。

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この記事の著者

AdverTimes.

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