検索エンジン順位を1位にすることは重要ではない。これは20年も前に結論が出ている話であるが、いまだに明確な根拠もなく特定キーワードの順位にこだわる人たちがいる。本コラムでは、SEOは検索エンジンを活用したマーケティング施策のひとつであることを理解していただきつつ、ランキング1位が思っているほど大したビジネスインパクトはもたらさないことを統計データや過去の事例を踏まえながら解説していく。
いまだに残る「SEOは検索順位が大切」だと考えている人々
「キーワード〇〇で検索ランキングを1位にしてほしい」「現在とあるキーワードの検索順位が4位に落ちてしまったけれど、1位にしてほしい」「なぜ検索順位1位を目指さないのですか?」これらはSEOにおける定番中の定番といえる質問や相談のひとつだ。私は20年以上にわたりSEO業界で働いており、その経験と知見にもとづいて「検索順位でSEOのビジネスインパクトを評価するのをやめなさい」といった趣旨の話を、相手に丁寧に説明して理解してもらうよう努めている。しかし、2020年現在 – つまり2000年当初と比べればSEOも普及し、市場全体のSEOについての理解も広まった – においても、相変わらず「検索順位を1位にできないの?」といった相談はやってくる。
米Sistrixが実施した最新(2020年)の検索エンジン(Google)順位別クリック率調査によると、Googleオーガニック検索1位の平均クリック率は28.5%で、2位以降は15.7%(2位)、11%(3位)と低下していく。10位になると2.5%だ。こうしたデータを見ると「ほら、最適化して1位にすることが重要だ」と言われるかもしれないが、今日の検索エンジンの仕組みにおいて、1位を目指すことが非現実的である理由と天秤にかけて考えなければならない。
本コラムは、なぜオーガニック検索で1位にこだわる努力や、特定のキーワードで1位を目指すことに大した意味がないのか解説する。構成は次の通りだ。
最初に、SEOの効果測定についての歴史を簡単に振り返りながら、2020年現在の一般的な評価方法について解説する。第2に、SEOと広告の違いについて説明したうえで、こうした(検索順位1位が絶対いいと思い込んでいる)人たちが共通して抱えている可能性がある前提の誤りについて指摘する。最後に、検索行動に触れながらSEOの価値について説明をする。
SEOと効果測定の歴史
今日でいうSEOは、1990年代後半に生まれた。当初は Search Engine Positioning や Search Engine Placement、Web Positioning といったさまざまな呼称だった。SEOという言葉が定着したのは2000年頃であり、日本企業が本格的に取り組み始めるのは2002~2003年頃だ。
話を1990年代後半に戻すと、当時の効果測定は検索順位が主流だった。しかし、SEOについての理解が広がり、またWeb解析や広告効果測定技術の進歩に伴い、2000年前半になると徐々に検索順位に基づいた評価は衰退していく。正確にいうと、SEOの施策や運用を評価するために検索順位自体は常時取得するのだが(2020年現在もそうだ)、マーケティング施策の評価として検索順位を用いるケースが減っていく。
なぜなら、2000年前半になると、検索順位を1位にしてもビジネスに何の成果ももたらさないことが明らかになってくるからだ。2000年前半といえば、24時間いつでもインターネットに接続できる環境も整い、知りたいことがあればインターネットで検索する人々がふえ、そうした行動が日常化しつつある時代だ。そしてネットビジネスに参入して新たにホームページを開設する企業が増えた時代でもある。検索エンジンで瞬時にさまざまな選択肢(Webサイト)にアクセスできるようになれば、当然、オーガニック検索1位だからといって常に検索利用者に選択されるわけではなくなってくる。それが効果測定ツールと組み合わせて可視化されてきたのが「1位にしたけど事業成果は得らえなかった」という結果だ。
上記のような背景があり、検索順位に代わり検索流入(サーチトラフィック)が指標に用いられるようになる。検索クエリにおけるロングテールの概念 – 検索回数が多いヘッドの部分に関心が向きがちであるが、テールに広がる無限の検索クエリバリエーションはビジネスにおいて決して無視してはならない – も認知され、特定のキーワードで1位にすることを努力するよりも、自社に関連性の高い、幅広い検索語句で露出度(Search Visibility あるいは Findabilityという)を高めたほうが結果的にビジネスに好影響を与えることが理解されたからだ。
ちなみに米国のこうした動きをよそに、日本では2000年中盤から検索順位をベースにした成果報酬型SEOサービスが普及してくる。これはSEO事業者視点で説明すると、単純にリンクを張り付けて成果が出た場合に限り請求するからビジネスも容易で参入障壁が低いこと(リンクを製造して張るのに専門知識は不要)、検索順位というわかりやすい指標が日本企業に受け入れられたからだ。実際、2000年後半は同事業者が急増した。しかし、日本のYahoo!検索もGoogleを採用し(2010年)、主な検索エンジン対策がGoogleに一本化されたことで状況は変わる。そのGoogleのランキングアルゴリズムが機械学習を取り入れて進化したことや、コンテンツ品質評価(パンダ・アップデート)を組み込んだことで、外部リンクによる順位上昇という前提条件が崩れた。その結果、リンク中心の検索エンジン対策ビジネスは衰退していくことになる。
話を本題に戻そう。米国では検索順位ベースから検索流入ベース中心の指標に移ってから、2020年までこの傾向は基本的には変わらない。検索流入のほか、自然リンク獲得数やブランド言及数、あるいはSOV(シェア・オブ・ボイズ、ここでは検索面での露出量)などSEOの運用パフォーマンスを評価するための指標を組み合わせることもある。あるいは事業会社によっては検索チャネルの売り上げを測定するために、検索トラフィックあたりの売り上げやコンバージョン、ROIを算出しているケースもある。ただし、検索順位でビジネスインパクトを評価しているケースを、私は少なくとも近年、耳にしたことがない。一方、日本でも社内にSEO部隊を設けたり、会社として検索エンジン対策に取り組んでいるところではさすがに検索順位至上主義的なものは鳴りを潜めているように感じる。
誤解なきように付け加えておくと、決して検索順位のデータを取得することや、それを見ること自体が重要でないと言っているわけではない。私自身も検索順位データは取得しているし、ビジネス評価に検索順位を用いない企業でも検索順位は継続的に監視・取得しているだろう。
理由は次の通りだ。SEO運用の過程で、さまざまな施策のA/Bテストを実施したり、試験的にページレイアウトやデザインを試すことがある。そのときに検索順位の変動を監視して、その実装方法に問題がないか確認する必要がある。あるいは、運用のなかで意識的に、こういう方法をとったらこの検索語句で確実に上位に表示されるだろうという仮説に基づいて実験をすることもあれば、競合企業との相対的な検索結果露出状況を確認したいニーズもある。
以上のように、成果指標というよりも検索アルゴリズムの分析をおこなうために、検索エンジン対策に従事する人の多くは(とりあえず)検索順位データは取得している。ただし、それをもってSEOの(ビジネスやマーケティング側面での)可否を判断しないということだ。
以上、簡単にSEOの評価指標の歴史について振り返ってみたが、検索順位1位が重要ではないことは20年近く前にすでに出ていた結論であることの意味を改めて考えてほしい。もしSEOで1位が重要だとまだ信じていたのであれば、これを機会にあらためてSEOについて、基本事項だけでいいので学んでいただきたい。正しくSEOを理解することで、自社がSEOをどう活用することが最善なのかという新しいアイデアを生み出す契機にもなるはずだ。
検索順位1位が重要だと信じる根拠とその勘違い
私の長いSEO業務の経験上、SEOでランキング1位が重要だと考えている人たちは、おそらく次のいずれかの前提条件について誤った認識を持っていると思う。この前提条件を正しく認識していれば、何が何でもGoogleやYahoo!検索で1位を目指そうとは考えないはずだからだ。
SEOは広告ではない
SEOを広告の一種と捉えている – これは幅広い層の人たちがしている勘違いのひとつだ。お恥ずかしいことに、当社を含めてデジタルマーケティングを提供する企業のなかにも、検索エンジン(のオーガニック検索枠)を広告の一種と誤った解釈をしている人がいる。だから「〇〇というキーワードで、1月1日から30日間、検索上位に表示できますか」や「Webサイトの特定のページだけSEOしたい」といった、おかしな相談事を耳にすることもある。すなわち、業界関係者でさえ十分に理解できていない事柄であるから、不適当な認識を持ってしまうことも致し方ないと感じる。
さて、広告とSEOは全く異なる。広告は、メディア等に広告掲載枠が用意されており、いわばその場所を購入する。予算、期間と掲載内容が決まれば、広告配信プラットフォームのルール枠内で、広告を掲載することができる。一方、SEOはWebサイトを改善して露出を増やそうとするプロセスであり、検索の露出は一切保証されない。そもそも検索エンジンのオーガニック検索結果は広告枠ではない(広告枠は、別にある)。さらに、検索アルゴリズムの微調整や変更、外部のさまざまな要因により掲載順位は常に変動する。検索する場所が変わっても変動するし、利用者ごとにパーソナライズされることで同じ検索語句でもブラウザにより順位が変わることもある。
こうした検索エンジンというサービスを理解すれば、仮に2位や4位に落ちた時にそれを1位に戻そうとする姿勢は、後述するように費用対効果が割に合わないうえに、目的と手段を勘違いした愚か者の選択だ。SEOは最終的にビジネス成果を求めるものであって順位は手段でしかない。1位になることを目的化して、いったい何を得ようというのだろうか。
もちろん、企業が事業活動をおこなう以上、次の四半期、あるいは今後1年の事業計画を立てる必要があり、そのためにSEOチャネルにおける一定の成長は求められるだろう。だから、安定して検索トラフィックを維持できるように検索エンジン対策をおこなわなければいけない。しかし、それは1位にすることではないのだ。
SEOで1位になってもアクセス数が最大になるとは限らない
ふたつ目のよくある勘違いは、検索ランキングを順位が上ほどアクセス数が増えると信じているケースだ。これも大きな勘違いである。
ここで米Ahrefsが2019年に集計した次のデータをご覧いただきたい。これは米国で月間検索数が1,000以上ある検索語句10万(非ブランドクエリ)を対象に上位10位のページを抽出し、その推定トラフィック数を計算したものだ。このデータによると、1位がもっともトラフィックを集めたクエリは49%、つまり半分以上は2位以下のページがもっともトラフィックを集めているのだ。
出典:How Often Does the Top-ranking Page Get the Most Total Search Traffic?
https://ahrefs.com/blog/ranking-number-one-is-overrated/
これはSEM総合研究所で2008年に実施した、アイトラッキングを用いた検索行動調査でも明らかになっている。調査に協力いただいた方に視線の動きを追跡できるデバイスを装着してもらい、いくつかの検索利用シーンに基づいて実際に検索をしてもらった。この調査では、ユーザーは検索上位のリンクを選択するのではなく、自身が検索語句と親しみがある想起したブランドのリンクを探してクリックする傾向があることが判明している(たとえば、液晶テレビと検索したときに、(掲載順位にかかわらず)ある価格比較サイトのリンクを探してクリックするという行動)。あるいは、あるジャンルにおいてブランド力がもっとも強いと考えられる事業会社が広告を出稿したときに、その広告の掲載場所にかかわらずもっともクリックを集めたという事例もある。
特に本記事をご覧になられている方の多くは、検索結果の1位がいつも自分にとって最も関連性が高いリンクと限らないことは理解しているだろう。むしろ、期待通りの結果がでなくて検索クエリを修正したり、別のクエリを入れなおしたり、あるいは画面をスクロールして関連性が高そうな順位的には下位のリンクを最初に選択した経験のある方もいるだろう。書籍をいつもAmazonで購入している人は、書籍あるいは著者名で検索して、Amazonのリンクを探してクリックするといった行動をしているかもしれない(なお、私はそうしている)。
あるWebサイトで、従来1位から4位に順位が低下したとき「これ1位にできないの?順位が上のほうがアクセス数増えるでしょう?」と相談されたことがある。このとき、Web解析を用いてデータを取ってみたところ、実は1位~8位のどの順位でもアクセス数がほとんど変化なかった(おそらくユーザーから選ばれていたのだろう)。このケースは、4位から1位にしても自己満足にすぎず、ビジネス的には影響は少ないに違いない。
以上の通り、GoogleやYahoo!といったインターネット検索は順位が上であるほど、1位になればもっともアクセス数が増える、そうした考え自体が間違っているのだ。
なお、明確なエビデンスに基づいて、検索順位が1位のときにもっともビジネスインパクトが大きいと判断できる場合もある。こうした場合は、費用対効果や競合関係などさまざまな事情を加味して長期的に取り組めばよい。データがあるならば私も特にいうことはないのだ。問題は、安易に1位にしてよという人たちの大半は(経験上、大半と断言する)、大した根拠もなく言っていることも実は多いことだ。
繰り返すが、検索結果画面のランキングはあくまで並び順に過ぎず、事業成果が大きいことは一切示していない。
SEOで1位になってもコンバージョンが増えるとは限らない
SEOは検索流入でWebサイト(ページ)まで連れてくるまでの役割で、コンバージョンまでは関与しない。検索チャネルのコンバージョン率が他チャネルと比較して低いのであれば、SEOが一定の責任を負うかもしれないが、一般的にはWebサイトのデザインやコンテンツ(検索クエリとの関連性)の問題である。2020年現在はユーザーエクスペリエンスや検索体験の満足度まで考慮しなければならない背景もあり、SEO担当者がコンバージョン導線まで関与したり、CRO(Conversion Rate Optimization)手法で最適化を試みるケースもあるだろう。その結果として、検索順位の改善が間接的にコンバージョン数(率)の改善につながるかもしれない。
とはいえ、オーガニック検索順位が高いほどコンバージョン数/率が増えると思ったら、これも大きな勘違いである。検索利用者は、検索順位が上のWebサイトから順にクリックして買い物を始めたり、サービスを申し込んだりするのではない。さまざまなサイトを訪問して、比較あるいは口コミを参考にしながら、最終的に購入するWebサイトを選択する。それは検索順位とは一切関係がない。
順位が低いからコンバージョンが低くなると考えるのも間違いだ。以前、ある人材系のWebサイトにおいて、検索順位が5~15位のなかでコンバージョン数を比較したことがある。このケースでは、8~10位よりも11位のほうが申込者数は多かった。別の通販サイトでは、3位~9位の順位ごとのコンバージョンを調査したとき、あるキャンペーンを実施中だった5~7位に掲載されていた時がもっとも成果が大きかった。つまり順位とコンバージョンは別の話であり、ほかの要因が絡んでくるということだ。
検索のロングテールと検索クエリの価値
ここまでの話で、単純に特定のキーワードで1位を目指すことは重要ではないことがある程度理解いただけたと思う。それらを踏まえて、ロングテール理論を援用して検索クエリの特性について説明しつつ、特定キーワードで順位を上げるのではなく、関連するすべての検索クエリにおける全体的な検索露出度を高めていくことの重要性について解説していく。
検索は十人十色 検索クエリの種類は想像以上に多様である
2020年現在、検索利用者が実際に利用した検索語句を確認するためにはGoogle Search Consoleやサードパーティーが提供するアクセス分析ツールなど限られている。2010年頃から、Googleは検索キーワードのリファラをWebサイトに渡さなくなったためだ。とはいえ、Search Consoleに記録される検索語句をみても人々の検索は多様であることがわかるだろう。
Google公式データによると、2003年から2011年(頃)にかけて4,500億の新たなユニーククエリを処理したそうだ(当時のGoogleの記述は次の通り:Since 2003 Google has answered 450 Billion new unique queries – searches we have never seen before.)。また、Googleは年間で数兆の検索クエリを処理しているが、毎日の検索のうち約15%は過去にない新しいユニーククエリであることも明らかにしている(Google, 2017)。こうしたデータだけでも検索クエリのバリエーション(種類)は多様であることがうかがえる。
検索クエリの数量と種類の実態は、ロングテール理論で示すことができる。
2000年代にサーバログから検索リファラを取得して分析した経験をお持ちの方であれば、説明されなくとも検索クエリのテール(しっぽ)が延々と続いていることは容易に想像できるだろう。上記図が示す通り、ヘッド(検索数量が多く、多くの人が注目しがちな検索語句)は全体でみればほんの数%にすぎず、ミドルからテールにかけての、個々の検索数は少なくともかき集めれば検索流入の95%に達する検索語句が存在するのだ。
あくまで一般論であるが、テールの検索語句はコンバージョン率が相対的に高くなる傾向にある。たとえば通販系の検索で、5語や6語くらい絞り込んだ検索(たとえば 「PCゲーム グラボ RTX2060 ファンレス 補助電源」といった語句)は、購入候補となる商品がおおよそ決まっていてピンポイントで探しているケースも多いため、即座にコンバージョンにつながる場合が多いからだ。逆に、検索数が多いものは、求めるエクスペリエンス(検索意図ともいう)が曖昧であるため、すぐに購入する段階ではなく調査段階であることが多いため、相対的にコンバージョンは低くなる。
過去に私が携わった、ある高級自動車のプラモデル販売ページの最適化をおこなったときの事例を紹介しよう。サーバログで分析する限り月間流入数が10に満たない、ある特定の車種を指定した型番の検索語句でアクセスされるページがあった。月間検索流入が10程度だと非常に小さく感じるだろうが、このページのコンバージョンは80%、つまり10人しか訪問しなくても8人は購入してくれていた。対策に投じたリソースは無視できるほど小さかったこと(マシンリーダブルを高めた程度の、1時間もかからない程度の修正作業)、1個あたりの利益が約1,000円だったこともあり、費用対効果は非常に高かったと言える。このように、特に理由もなく検索数が多い検索キーワードで1位になるよう最適化を続けるよりも、個々の検索数は小さくても確実に売上につながる検索語句に幅広く網をかけて、確実にとっていくほうがビジネス的に合理的だ。
見込み顧客との接点を増やすためのSEO施策
ヘッドの検索クエリであってもコンバージョンが高いこともあるし、テールの検索クエリでもお買い物中のプロセスであるため購入に至らないこともある。ここで大切なことは、第1に検索数量とコンバージョン率はまったく関係がないこと、第2に検索数量が小さいからという理由でそれらの検索語句を無視すべきでないことだ。
ある事柄をするために検索を起点として行動を開始しても、1回の検索でタスクが完了するわけではない。もともと興味がある商品で、たまたま知人がそれを購入して「良かったよ」という話を聞いたようなケースでは、何かの語句で検索して通販サイトで即購入という場合があるかもしれない。しかし、大抵は検索し始めてから情報収集や商材理解、比較、検討など段階を踏んで最終的な意思決定をおこなう。この検索を開始してから最終的に購入にいたるまで、何度もさまざまな検索をしながら、いろいろなページを訪問しているものだ。そして、その「さまざまな検索」の間に発生しているのが、ロングテールの図でいうテールの部分だ。
つまり検索行動というのは、「検索窓に文字列を入力」⇒「検索結果画面」⇒「いずれかをクリック(あるいは検索語句の修正⇒検索結果画面)」⇒「ページを閲覧する」⇒「(別の知りたいことが生まれるので)新たな検索」という、検索と情報接触を繰り返している。新たな情報を得ることで、目的に対する理解や知識が深まると同時に、新たな疑問や知りたいことが生まれるから再び検索する。こうして(通販なら)購買意思決定が形成され、コンバージョンにつながる。企業がSEOに取り組むならば、こうした検索行動を理解したうえで施策を考えるべきだ。
検索行動が発生する瞬間は、企業がその利用者と接触をしてコミュニケーションをとれる機会でもある。つまり、ある商材においてカスタマージャーニーのマップを描き、検索する点ごとに、適切なコンテンツを提示していくことで交流を図り、ブランドを認知し、自社の商品やサービスについて理解を深めてもらう機会に使うこともできるのだ。このように、マーケティングの観点からもテールの検索クエリ群も積極的に対策して活用すべきなのだ。
ビジネスインパクトが最も大きくなる検索エンジン対策をするべき
今日の天気予報は、膨大な気象に関するデータを集めスーパーコンピュータで予報を試みるが、いまだに明日の天気を100%的中させることはない。SEOのランキングはこれと同じで、どれだけ多くのエビデンスや知見、経験に基づいて施策をおこなっても検索順位は一切保証されない。どれだけ多くのコストを投じても、明日の検索エンジンの順位は一切わからない。
こうした事情を踏まえれば、費用対効果を考えて最も適切なSEOの施策を選択すべきだろう。つまり、特定のキーワードで順位を1位にすることは困難であっても、相対的に難易度が低く検索上位に表示される確率が高い、膨大なテールの検索クエリに対策したほうが、結果的に売上が増加することもある。ビジネスでおこなっているのであれば、何の合理的な根拠に基づかない検索順位1位を目指すよりも、ビジネスにより好影響を与える施策、コストパフォーマンスのバランスがよい施策を考慮しなければならない。
最後に、ビジネス判断であえて「狙わないキーワード」があるという例を紹介しよう。「SEO会社がSEOというキーワードで1位になっていないのはおかしい」といった指摘をされる方がいる。2000年代、当社は私の判断でSEOというキーワードで順位を狙っていなかったのだが、その理由を紹介する。
2000年代にSEOと検索する人(企業担当者、個人が検索したケースは割愛する)は、一般的に「予算が少なめ」「検索順位を強く求める」という特性を持っていた。当時、当社は適切なコンテンツを配置しながらさまざまな検索クエリで対策をしてトラフィックを増やすことをサービスコンセプトとしていたことや、サービス提供価格帯が相対的に高かったといった事情から、実際に「SEO」というキーワードで問い合わせを増やしても、成約率が非常に低かったのだ。つまり、(当時)SEOと検索するユーザーが求めるサービスと、当社のサービスがマッチングしていない、ビジネス判断で投資する理由がないため見送っている(なお、当時の当社のサービス特性にあわせて別の検索語句は検索エンジン対策をおこなっていた)。この話について異議がある人は、おそらく検索順位を上げること自体が重要だと考える方であるに違いない。しかし本コラムでここまで説明してきた通り、SEOは順位を上げる仕事ではなく検索エンジンを活用したマーケティングであり、そうした検索エンジン順位至上主義をビジネスに持ち込んでも誰も得をしないのだ。
この記事の著者
渡辺 隆広
日本のSEO黎明期である1997年よりSEOサービスを開始。2002年に会社設立(株式会社イー ・プロモート)後、2005年4月から2021年12月まで株式会社アイレップにてSEM総合研究所 所長を務める。SEO分野での第一人者として多くの執筆・講演活動で活躍中。主な著書に「検索にガンガンヒットさせるSEOの教科書」(翔泳社刊)等。また、専門誌・サイトで多数の連載記事を担当し、その高い専門性で人気を博している。
日本のSEO黎明期である1997年よりSEOサービスを開始。...