「運用型テレビCM」市場が盛り上がりを見せています。デジタル広告で当たり前のようにおこなわれているPDCAやCPAといった指標も徐々にテレビCMの世界にも浸透してきています。アイレップも近年、動画広告やテレビCMの制作に力をいれており、デジタル広告で培った運用力をテレビCMの世界に活用しています。
そこでこの度、当社の運用型テレビCMサービス「科学するテレビCM」の概要や、バイイング・クリエイティブ・効果測定などの考え方について、DIGIFUL編集部 千葉俊幸が、運用型テレビCMの担当として活躍するコミュニケーションデザインUnit冨田真吾に話を聞きました。
盛り上がりを見せる「運用型テレビCM」市場
千葉:
昨年あたりから「テレビCMの効果測定の話」や「テレビCMを運用する」みたいな話題をよく見かけるようになりました。テレビCMが再注目されているように感じますが、これはなぜでしょうか。
冨田:
いくつかの要因があると考えています。
ひとつ目はテクノロジーが発達したことで、テレビCM接触後にWebサイト上でどのような行動をしたのか、サービスの利用や商材の購買に至ったのかどうか、などを測定し分析することが可能になったことです。成果が計測できるようになると、今まで「効果測定ができないから」という理由でテレビCMを実施しなかった企業もテレビCMの出稿を検討されるようになってきています。
ふたつ目は、2020年2月にSAS(スマート・アド・セールス)がスタートしたことも影響していると思います。いわゆる「タイムCM」とか「スポットCM」と言われているようなテレビCMの買い方の他に「15秒CMを1本単位」でテレビCMが購入できるようになったことで、低予算からテレビCMに参入することが可能になりました。このようなふたつの理由から、テレビCMが再注目されているのではないかと考えています。
千葉:
アイレップでは運用型テレビCM「科学するテレビCM」を提供していますが、簡単にサービスの概要を教えてください。
冨田:
アイレップは元々運用型広告に強みがあったわけですが、その運用型広告におけるノウハウや知見をテレビCMに活用し、プランニング&バイイング・クリエイティブ・効果測定までをおこなう運用型テレビCM「科学するテレビCM」というサービスを提供しています。
運用型テレビCMを語るうえで、プランニング&バイイング・クリエイティブ・効果測定という3つの観点があります。クリエイティブの部分でいいますと、これまでのテレビCMのクリエイティブ制作はクリエイターの経験則や勘みたいなところに頼っていた部分も大きかったと思います。
運用型テレビCMでは、企画段階での経験則や勘は尊重しつつも、例えばAIで疑似的なアイトラッキングを実施して注視点を探ってみたり、最終的な成果データを分析しながらそのクリエイティブの訴求が効いているのかどうかを検証したり、訴求やオファーなどを変えてABテストを実施・リプランをしながら最も効果がある組み合わせを探ったり、ということをおこなっています。
(図1:科学するテレビCM)
千葉:
クライアント企業から見ると「デジタル広告・運用型広告のアイレップ」というイメージが強いと思うのですが、そのアイレップがなぜテレビCMを扱うようになったのでしょうか?
冨田:
アイレップは2018年10月に博報堂DYホールディングスの完全子会社となり、博報堂DYグループにおける「次世代型デジタルエージェンシー」として再始動しています。グループ会社の博報堂DYメディアパートナーズと連携することでテレビCMのバイイングが可能になったことと、テレビCMの効果測定ができるようになったことで、これまで当社がテキスト広告やバナー広告で培ったクリエイティブ制作やノウハウを生かすことができるようになりました。
また、運用型広告のイメージが強い当社ではありますが、統合プランニングの組織があり、50名を超えるクリエイターが在籍しています。博報堂グループとして業界トップクラスのメディアバイイング力もあり、マスメディア領域も含めてクリエイティブの制作やメディアバイイングができるオンリーワンのデジタルエージェンシーなのです。
プランニング&バイイング科学する
千葉:
プランニング&バイイング・クリエイティブ・効果測定という3つの観点について詳しく話を聞かせて下さい。まずはプランニングとバイイングについてですが、従来型のテレビCMのプランニングやバイイングとは何が違うのでしょうか。
冨田:
まずは基本的な話ですが、従来のテレビCMは、番組ごとにスポンサーがつく「タイムCM」、番組に関係なく時間枠を指定する「スポットCM」に大別されます。さらに、スポットCMには買い方のパターンがあり、曜日時間帯関係なく放映される「全日」、朝昼ゴールデンタイムと土日全部の「ヨの字」、そこから昼を抜いた形の「コの字」、そこからさらに朝を抜いたのが「逆L字」です。 時間をターゲティングすればするほどコストが高くなり、逆L字>コの字>ヨの字>全日の順でコストが高くなります。
(図2:スポットCMの販売パターン)
アイレップの「科学するテレビCM」はこの方法に加えて、先ほどお話をしたSAS(スマート・アド・セールス)でもCM枠を購入します。「15秒CMを1本単位」で購入できるので、効果測定と分析の結果、効果が良かった枠を優先的に購入することが可能です 。また、博報堂グループは業界トップクラスのバイイング力があるので、そのあたりも含めて、クライアント企業の成果に寄り添ったバイイングを実現できることに他社の類似サービスとの違いがあると思っています。
プランニングの基本的な考え方ですが、これまでのプランニングはあくまでマスが中心、残った予算をデジタルに配分するようなやりかたでした。事前のメディアプランニングのまま配信し期中の運用はおこないません。パーコスト重視で成果の悪い枠も購入している状態です。
一方で「科学するテレビCM」のプランニングは、小さく試して大きく展開する。例えばテストマーケティングを首都圏以外の放送エリアで実施し、その結果を踏まえて全国エリアに展開したり、期中に素材の差し替えや枠の追加購入で成果を出していくやり方です。成果の良い枠を分析し、コスト効率の観点で枠を選出します。
(図3:小さく試して大きく展開)
クリエイティブ制作を科学する
千葉:
次にクリエイティブについてですが、従来型のテレビCMのクリエイティブとは何が違うのでしょうか。
冨田:
従来型のテレビCMは「認知型・好意形成型クリエイティブ」といい、ブランドの世界感を伝えたりブランド認知や好意度を上げる目的で制作されています。一方で運用型テレビCMは「行動喚起型クリエイティブ」といい、検索やWebサイト流入といったユーザーの行動を喚起させることを目的としています。そもそもの目的が大きく異なるわけです。
(図4:「認知型・好意形成型」と「行動喚起型」)
この「認知型・好意形成型」と「行動喚起型」のクリエイティブは目的だけではなく、表現方法や出稿量などさまざまな面で異なっています。例えば「認知型・好意形成型」のクリエイティブは広告主がユーザーに伝えたいものを、アート表現を含んだCMクリエイティブで表現します。認知度や好意度を上げる目的がありますので、2000GRP※1といったような多量出稿が必要ですが、多量出稿したからといって成果が出るかどうかは出稿してみないとわかりません。KPIは認知率や想起率です。
※1 GRP:Gross Rating Pointの略語で、「延べ視聴率」を意味する
一方、「行動喚起型」のクリエイティブは、ユーザーが求めるベネフィット、機能とか特徴とか、どういう利益恩恵をうけるのか、などをCMクリエイティブで表現します。大量に出稿すればよいというわけではなく、最適量の出稿で狙った成果を獲得することが可能です。これはデジタル広告でも同じことが言えますよね。KPIは利用意向率や成果単価(CPA)などになります。
このようにお話しをしますと、最終的な購買やサービス利用を促す「行動喚起型」が従来型の「認知型・好意形成型」にとって代わるように思われるかもしれませんが、決してそういうわけではなく、目的に応じて併用できるものと理解いただければよいかと思います。また、どちらのパターンであっても「ヒト中心」にクリエイティブをつくっていくことに変わりはありません。ヒトを科学し理解することで目的である認知を高めたり、行動を喚起できると考えています。
そうやって試行錯誤をすることによってノウハウ化をしています。アイレップ独自メソッドの「行動喚起型CMの3つの型」「検索行動を起こすオファー手法の18パターン」「ダイレクトレスポンス強化6つの法則性」のような「型」を駆使しながら、一方で「表現」の方法はさまざまありますから、最近よく見ると思いますが、似たようなCM動画ばかりにはなりません。
あとは、どんな人がクリエイティブを作っているの?っていう話ですが、実はアイレップにはテレビCM畑で長くキャリアを積んできたメンバーや、総合広告代理店の制作系の部署に在籍していたメンバーなど、約50人ほどのクリエイターが在籍しています。そのメンバー達は過去には認知目的のCMクリエイティブの制作をしてきたわけですが、行動喚起型のテレビCMであったり、効果測定をしてテレビCMのPDCAをまわすみたいなところに可能性を感じてアイレップにジョインしたりしています。
効果測定を科学する
千葉:
テレビCMの効果測定は「科学するテレビCM」の中核だと思いますが、効果測定について話を聞かせて下さい。
冨田:
これまでテレビCMの効果測定といえば、アンケート調査による意識指標(認知率・想起率・ブランド好意度など)での評価が主流でした。ただ、意識指標だけでは実際に売上にどれだけ貢献したか?が見えません。一方でデジタル広告はWebサイト流入や購買行動までの貢献度が可視化できるので、意識指標だけでテレビCMを評価することに対して疑問視されることが増えてきていました。
アイレップではこの問題を解決するため、テレビCMの効果を可視化する分析プラットフォームを自社開発しました。x2 (DOUBLE SCORE・ダブルスコア)というツールです。Google アナリティクスのデータとテレビCM出稿データを突合し、テレビCM出稿後にどのくらいWebサイトのセッションが伸びたのかを可視化できます。
このツールではいくつかの指標を可視化することができるのですが、主にふたつの分析モデルを目的によって使い分けます。ひとつ目は「短期間スパイク検出モデル」という分析モデル。CM放映直後、超短期間の効果分析で「これくらいのCMを打ったら直後にこれくらいの流入がありました」というのを可視化できます。これはCM放映期間中のPDCAサイクルを回す目的に使用します。
ふたつ目は「時系列統計モデル」という分析モデルです。CM期間全体の効果分析で「残存効果も含め、このCMを打ったことによりこれくらいの流入がありました」ということを可視化できます。デジマス横断でのアロケーション最適化や事後の評価を目的に使用します。
(図5:テレビCM効果測定のふたつのモデル)
千葉:
効果を可視化した結果、こんなことが分かったみたいな事例はありますか?
冨田:
テレビCMとYouTubeのコスト対リーチを計測してそれぞれの投資効果と最適な予算配分を知りたい、というクライアント企業に対して「時系列統計モデル」を利用して計測と分析をおこないました。結果、低予算であればYouTubeの投資効果が高く、ある一定以上の投資額になるとテレビCMの投資効果が高いことがわかりました。また、このクライアント企業のご予算の場合、テレビCM:YouTubeの予算比率は65%:35%が最適であることがわかりました。
(図6:デジマスのアロケーションモデリング事例)
「科学するテレビCM」今後の展望
千葉:
最後に「科学するテレビCM」に関して、今後の展望を教えて下さい。
冨田:
まず、x2 (DOUBLE SCORE・ダブルスコア)の機能的な面でいうと、「アプリインストール」や「オフライン」の計測に対応できるよう開発を進めています。オフラインというのは実店舗への来店や購買のこと。CMを流したらこれくらいの人が来店してこれだけ売れた、みたいな事は今後できるようになっていくと思います。
また、方法論としては「成果データ型のゾーニング」を広めたいと考えています。業種業態によって成果がよい時間帯は違うでしょうし、同じ業種だとしても企業によって成果がかわる可能性もある。例えばアプリインストール系だったら夜の方が成果は良いでしょうし、BtoB企業であれば朝の成果が良い、みたいなことです。朝テレビCMを見て気になったものを、昼休みに検索するみたいなパターンって結構あるんです。 クライアント企業ごとにこの「成果データ型のゾーニング」を作っていきたいと考えています。
<プロフィール>
冨田 真吾
株式会社アイレップ
第1コミュニケーションデザインUnit 運用型TVCM推進Division
ITベンダーでの通信業界向けの営業を経て、2007年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社に入社。アドサーバを中心とした媒体社向けのソリューション営業、出向先の広告会社でアクセス解析の事業推進に従事。2011年からは、トレーディングデスクやDSPプロダクト推進など様々な立場で運用型広告の責任者として業務に携わる。2017年からの3年間、コンサルティング会社におけるテレビCM×デジタル動画広告ソリューションプロダクトを推進しさまざまなクライアント企業へ導入。2020年11月にアイレップにジョインし、運用型テレビCM推進Divisionの責任者に着任。
この記事の著者
千葉 俊幸
2004年にアイレップ入社。10年間のWEBマーケティング営業業務に従事した後、西日本エリアの統括マネージャー就任。2018年にアイレップ子会社「ロカリオ」執行役員就任。現在はアイレップ自社マーケティング部門とSEOコンサルタントを兼務し、オウンドメディア「DIGIFUL(デジフル)」立ち上げにも従事。自社マーケティングで培った、事業者目線でのマーケティング支援を得意とする。
2004年にアイレップ入社。10年間のWEBマーケティング営...