2021年5月18日から20日にかけて、Web開発者向けカンファレンスのGoogle I/O 2021が開催されました。本記事では、GoogleのシニアバイスプレジデントであるPrabhakar Raghavan氏が基調講演の中で発表したMUM(Multitask Unified Model)について、概要とSEO担当者が知っておくべきことを紹介します。
MUM(Multitask Unified Model)とは
MUM(Multitask Unified Model)はGoogle I/Oで発表された自然言語処理の新技術です。これまで自然言語処理で使われてきた言語モデルにはBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)がありますが、この1000倍強力な新たな技術として発表されました。
基調講演ではMUMの強みとして以下が述べられています。
・世界のあらゆる知識をインプットできる
・言語を理解し、生成できる
・一度に75の言語でトレーニングできる(多くのAIモデルは一度にひとつの言語のみ)
・マルチモーダルである(テキストや画像、ビデオなどさまざまな形式の情報を扱える)
参照元:Google Keynote (Google I/O ‘21) - YouTube (開始位置 45:07)
(図1:基調講演で紹介されたMUMの強み)
MUMのデモンストレーションとして、次のハイキングを計画している熱心なハイカーが「アダムス山にハイキングで行ったことがある。来年の秋は富士山でハイキングしたい。何か違う準備をした方がいいだろうか?」と質問するケースが紹介されました。
参照元:MUM: A new AI milestone for understanding information
(図2:デモンストレーションで使われた質問)
上記のような質問は、会話的で微妙なニュアンスを含むため今の検索エンジンはうまく答えることができません。一方で、MUMは言語を理解し、あらゆる知識から求められている情報を整理して言語化することができるため、この質問では二つの山を比較していること、「準備」に複数の意味合いがあること(体力づくりの意味、秋に必要なハイキング用品のこと)を理解します。
参照元:MUM: A new AI milestone for understanding information
(図3:MUMが質問からニュアンスを理解するイメージ)
また、世界についての深い知識に基づいて有用な知見をまとめることができるため、以下のような回答を提示します。
・富士山とアダムス山は標高がほぼ同じ
・富士山の秋は雨期にあたるため、防水ジャケットが必要そう
・同時にトピックを深堀するポイントも指摘する
例)適切な装備を揃える方法の場合、ウェブ全体から関連記事やビデオ、画像を集める
参照元:MUM: A new AI milestone for understanding information
(図4:MUMによって生成される回答の例)
また、情報収集の大きな制限になるケースとして、言語の違いについても触れられました。富士山に関する有益な知見が日本語で存在していても、今の検索エンジンではその情報と同じ言語(この場合は日本語)で検索しないとたどり着けません。MUMは言語間の転移が可能なため、この課題にも対応しています。英語で富士山について質問した場合でも、日本語で存在している知見を英語で知ることができるのです。これにより、返ってくる答えはこれまで以上に密度が濃く網羅的になることが期待されます。
参照元:MUM: A new AI milestone for understanding information
(図5:MUMが複数言語で富士山に関する情報を収集しているイメージ)
前述の通り、MUMはテキストや画像、ビデオなどさまざまな形式の情報を扱えるマルチモーダルという特性も持っています。ハイカーがふたつ目の質問で、ハイキング靴の写真を撮って「これで富士山に登れる?」と尋ねたとします。この質問の場合、画像の内容とクエリの背後にある意図を理解し、「その靴で大丈夫」と回答し、続けておすすめの装備のリストや、富士山に関するブログ記事などを表示することができるようになっています。
参照元:MUM: A new AI milestone for understanding information
(図6:画像と一緒にMUMに質問する例)
MUMのGoogle 検索への導入予定
Google I/Oでの発表があった時は、Google 検索への導入時期などは明かされていませんでしたが、6/29に新型コロナウイルスのワクチンに関する検索において、MUMが適用されたと発表されています。この例では、現在50以上の言語で800を超える名称で呼ばれるワクチンのバリエーションの特定が数秒で可能になったそうです。
参考:Google Japan Blog: 最新技術 MUM で新型コロナワクチンに関する検索の精度を向上
GoogleはMUMが特定した結果を検証したうえでGoogle 検索に適用しており、新型コロナウイルスワクチンに関する検索結果で、より信頼性の高い情報を表示できるようになりました。
(図7:さまざまな名称で検索してもワクチンのバリエーションが特定され、検索結果に表示される ※2021年7月時点)
Google 検索全体への展開はさらに先になると予想されますが、この例のように世の中で重要度が高まっている情報から部分的に導入が進む可能性もありそうです。
SEO担当者が知っておくべきこと
MUMは将来的にGoogle 検索全体に導入予定とされていますが、SEO担当者が意識すべきことはこれまでと変わりません。MUMは、会話的で複雑な質問に対して有益な回答ができるようになることを目指しています。担当しているWebサイトに有益な情報を掲載できていれば、MUMの導入によりその情報を求めるユーザーとの接点が増えるかもしれません。MUMに対しての特別な対応をするのではなく、これまで同様価値のある情報をわかりやすく伝えるWebサイト運営が重要です。
まとめ
知りたい情報があっても、検索窓に適切な(検索エンジンが求めている答えを提示してくれる)キーワードを入力するのは意外と難しいことがあります。また、検索エンジンが適切な答えを返してくれるように、知りたい情報を細分化して繰り返し検索する場合もあると思います。MUMのような言語モデルがGoogle 検索に導入されることで、検索キーワードを作るのが難しい複雑な質問や一言での回答が難しい質問にも適切な回答が示されるようになることが期待されます。
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この記事の著者
増渕 佑美
2014年に株式会社アイレップに入社し、SEOコンサルタントとして従事。ソリューション部署に所属。通販や人材などデータベース型サイトを中心に経験を積んでおり、現在はメディアサイトのSEOも担当し幅を広げている。
好きなこと:散歩、パズル、動物の動画をみること
2014年に株式会社アイレップに入社し、SEOコンサルタント...