検索結果上位ページ群からコンテンツ分析することの大きな落とし穴

2020.12.24

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そのSEOの手法、実は間違っているかも!?

グーグル合同会社が2011年からコンテンツ品質も評価対象に加える(パンダ・アップデート)を発表して以後、コンテンツ制作・発信にも力を入れるようになった企業は増えた。SEOは最初から "Content is King" が本質であったが、Googleのランキングアルゴリズム変更が結果的にその大切さを教育・啓蒙する契機となった。

さて、コンテンツ品質を改善して検索結果での露出度(ファインダビリティ)を高めるための手法はさまざまだが、残念ながら時代遅れのものや根本的に間違っているものも散見される。今回は、ある検索語句の検索結果画面に表示された、上位ページを分析して自社サイトに足りないコンテンツを埋める手法(上位下位ページ差分抽出)における問題点を指摘しておきたい。

上位ページ-下位ページのコンテンツ差分抽出法

細部の違いはあると思うが、大まかに次のような手順を踏んでいる人がいるだろう。

<上位-下位ページ差分抽出によるコンテンツ改善手順>

  1. ターゲットとする検索語句でGoogle検索する
     
  2. 検索結果上位1~10位のページのコンテンツ要素を分解する。例えば、上位ページは共通してわかりやすい大きな写真を複数点掲載しているとか、お客様の声とクチコミの両方を掲載しているとか、あるいは絞りこみ検索機能が画面上部に設置されているといった共通項を探していく。
     
  3. 次に自分が担当するWebサイト(ページ)の分析をして同じようにコンテンツ要素を分解する。上記2.で分解した要素と突き合わせると、差分(足りないもの)が明らかになるので、それを追加する。

 

つまり、検索結果上位に表示されているページはGoogleが品質が良い、ユーザーに役立っていると判断しているという前提のもと、自分のページとの差分や違いを把握してそれを足していく手法だ。

しかし、これはベースとなるロジックに大きな欠陥がある。この手順を活用できるユースケースがないわけではないが、十分に注意しておこなわなければならない。以下、その理由を述べるとともに、本来、どうすべきか解説していく。

Google検索1位が高品質であるという前提が間違いである

検索エンジンのオーガニック順位1位とは一般的に、現時点のインデックス(Webのデータベース)で関連性が高いと判断されたものだ。しかし同時に、他と比べたらマシだったという程度の意味の可能性もある。たとえば、私たちは日常生活でインターネット検索を利用していて、いつも1位のページに満足しているだろうか?

そんなことはないはずだ。単純に情報を取得したいだけの検索(Know simple、たとえば足し算引き算の結果や漢字の読み、今日の天気など)であれば1位で満足する、あるいは一度のタップもせずにほしい情報を取得できることもあるだろう。しかし少し複雑なこと、細かい事柄、専門的な事柄、悩みや困りごとを解決するトラブルシューティング系になると、検索上位のページに回答が含まれていない可能性はむしろ高くなるだろう。

検索順位1位というのは、Google が(現時点のインデックスにあるページのなかでは)もっとも役に立つ可能性が高いと考えたページであって、実際に私たち人間にとって有益かどうかは別問題である。仮に関連性が高いと呼べないページがひとつも存在せずとも、Googleは必ず1位を選ぶ。実際、金融商品や不動産など少し専門的(といっても住宅を購入する、ローンを組むといった私たちが日常経験することになるかもしれない程度の専門性)な話題になると、人の目で見てお世辞にも関連性が高いとは呼べないページが並ぶことがある。Googleが誕生した1998年と比べたら検索技術は進化したが、いまだ完璧とは程遠いのだ。

「Googleが1位に表示したから高品質」というのはGoogleを過信しすぎである。また、Googleが高品質と判断したことと、人間もそれが高品質と受け止められるかは分けて検討しなければならない。

検索上位ページと比べると「劣化コピー」に陥りがち

SEO担当者の仕事は、同じ程度のコンテンツを作るのではなく、差別化された、独自の有用なコンテンツを作ることだ。しかし、短期間に大量にコンテンツを制作しようとする企業でよく見かけるのだが、プロセスを単純化しすぎて本質を無視する、すなわち、テキスト文字列を含んだページを用意すること自体がゴールであると勘違いしてしまうケースだ。結果、決して有用と呼べないコンテンツのごみの山が生み出されることがある。たとえば、検索上位ページと下位(あるいは自社のページ)を比較すると、どうしても差分を埋めることに注力してしまい、単なる上位ページの劣化版を生成してしまうことがある。

SEO担当者が本来おこなうべきことは、上位ページと下位ページとの差分を出すことではなくて、上位表示ページ群よりも、もっと有用な、誰に聞いてもあなたが作成した情報のほうが素晴らしいねと言ってもらえるページを作ることだ。あるいは、検索エンジンと人の目どちらで見ても十分に高品質と呼べるコンテンツを制作することでもある。決して上位にランクされたページコンテンツの真似っこに終始してはならない。

この目的を達成するために、上位ページ群を分析すること自体は多角的視点を学ぶためにも問題はない。大切なことは、その上位ページ群でさえ見落としている視点、ユーザーニーズを拾い上げ、より高品質な、かつ独自性の高いコンテンツを生むために何をすべきか考えることだ。

差分を埋めるほうが仕事としては楽だが、同時に劣化コピーを生み出してしまう危険を孕むことを認識する必要がある。上位を模倣しただけのコンテンツではユーザーに選択してもらえないのだ。

ユーザーが求める情報ニーズは、時間経過とともに変化する

第3に、現時点の検索結果が、必ずしも今日のユーザーニーズを捉えているとは限らないことを認識しなければならない。最近の身近な例であれば、新型コロナウイルス(COVID-19)がわかりやすいだろう。

2020年2月と3月…以後、1か月も時間経過すれば、同じ「新型コロナ」という検索語句であってもユーザーがその時点で知りたい情報や精度、深さが異なっていることは想像しやすいのではないだろうか。「オフィスチェア」も、在宅勤務が広まった3~4月とそれ以前ではユーザーのニーズが大きく変化している。

世の中は常に変化している。世の中のトレンドや毎日のニュース、事件、出来事、法制度の改定といった、さまざまな要因が私たちの検索行動に影響している。しかし公開されているウェブコンテンツは、必ずしもタイムリーに反映しているわけではない。私は先日マイクロソフトが公開した Windows 10 20H2 を自宅の個人PCにインストールしたところ、あるデバイスが動作しなくなる経験をした。このトラブルを解決するために「$デバイス名$ $ドライバ名$ $20h2$」と検索したのだが、この20H2 というWindows最新バージョンを踏まえたページが存在しないために、解決策を求めて数時間、ブラウジングしていた。最終的に、あるブログ記事のコメント欄に匿名の誰かが残していたたった1行のリンクでもって解決できたのだが(笑)、Google はこのリンクを上位には表示しなかった。

つまり、現時点の検索結果からユーザーニーズをなんとなく推定できたとして、1週間後や1か月後には変わっている可能性もある。しかし、本記事冒頭で触れた手順をおこなっている人は、そういった可能性すら考慮していない人のほうが圧倒的に多いのではないだろうか。

「Googleの判断基準」を明確にすることから始める

検索結果画面からコンテンツ差分を考える手順について上記のように批判的に述べてきた。最後に私なりの解決策を提示して終わりにしたい。

要は、高品質かどうか不明な上位ページ群と、下位ページ群を比較することが問題なのだ。つまり、上位ページ群を基準にするのではなく、「Googleの考える良い」基準を明確にすることだ。

「待ってくれ、検索上位に表示されたページは、Googleが良いと考えた基準ではないか」と疑問を持たれるかもしれないが、前述した通り、たとえGoogleの良い基準を満たしたページがひとつも存在しなくても1位は存在するのだ。だから、検索結果上位ページを基準にするのではなく、Googleが良いと考える基準を探すのだ。

私たちはSEOの現場で「良いコンテンツ」という言葉を気軽に使うが、そもそも万人にとって普遍的な「良い」など存在しない。だからGoogleは、最大公約数の「良い」を基準にしている。その「良い」基準を明確にすることだ。

つまり次のような手順を踏んでいく。

<Googleの基準以上に高品質なページの方向性を決めるための手順>

  1. ターゲットとする検索語句でGoogle検索する
     
  2. その検索語句から想定されるエクスペリエンス(ユーザーが検索を通じて期待する体験、つまり課題解決に至るまでのイメージ)を描いてみる。
     
  3. 上記2.を満たすために、Google が設定していると考えられる価値判断基準(※ Googleが、本来1位に表示したいと考えていたページの要件と言い換えてもいい)を箇条書きにしてみる。そのエクスペリエンスが実現するためには、ページがどんな視点で記述されていなければならないのか。
     
  4. (このステップはスキップ可)検索結果上位ページ群をざっと見渡して、上記 2. および 3. の基準を超えているか判断する。もし 2. 3. どちらの基準も超えていると判断できるのであれば、それは両者(検索エンジンと人間)にとって有用と判断されるので、この場合は自社サイトに足りない要素を検討しつつ、より優れたものにするために何をすべきか考える。
     
  5. 自分のページを上記 2.および3.の基準に照らし合わせて、足りない要素を洗い出してコンテンツデザインをする。

 

Googleの価値判断基準を設定する手順

この価値判断基準は、不動産、旅行、飲食、自動車、金融、保険、医療と業界が変われば基準も変わる。YMYLであれば基準はもっと高くなるし、そもそも同業界でも検索語句が異なれば(つまり期待されるエクスペリエンスが異なれば)変わる。だから個別に具体的な例をここで挙げるのは割愛させていただきたいのだが、代わりに、私が汎用的に利用している基準を決めるための糸口を紹介したい。ご自身で行う場合は、まず検索品質評価者向けにGoogleが発行しているSearch Quality Raters Guidelines (SQRG)を熟読して、ランキングアルゴリズムがどこに向かおうとしているか把握することから始めてほしい。

ページ品質判断するための3要件

・ユーザーは、ページ閲覧後にそれを有用と判断するか
・ユーザーは、同じ悩みを持つ知り合いにそのページを紹介したいと考えるか
・ユーザーは、将来、(改めて読みなおしたいなどの理由で)再びページを訪問したいと考えるか

高度に抽象化した3要件だが、高品質か否かの判断は少なくとも上記3要件と照らし合わせることで判断できる。この要件を、業界の事情にあわせてより具体的に書き直していくことでみなさんも業務で活用できるはずだ。

たとえば電子機器を扱う通販サイトを例にすると、次のようになる。

ページ品質判断するための3要件(通販サイトに翻訳した場合)

・ユーザーは、ページ閲覧後にその商品の特徴や性能、第三者評価の情報を得ることができたか
・(購入の)意思決定をおこなうのに必要な情報を含んでいるか
・今回のタイミングで購入をしないと判断しても、将来、ふたたびこのページで購入を悩むか

 

これは業界にあわせた第1段階の翻訳(基準の具体化)なので、あと2~3段階、かみ砕いていく必要がある。繰り返すが普遍的な「良い」の基準はないので、自社サイト(ビジネス、業界)にとっての「良い」を定義しないことには始まらない。Googleが選択した「良い」基準は常識から逸脱したトンデモな基準にはなっていないので、このようにロジックで最大公約数の「良い」のあたりをつけていく。

以上のように、まず特定の利用シーンにおける「良い」の基準を具体的に定義すると、検索上位ページ群を参考にするときも惑わされたり、目的を逸脱することもなくなる。ついつい差分コンテンツを埋めるだけの作業になりがちな人は、ぜひ一度試してみてほしい。

 

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この記事の著者

渡辺 隆広

日本のSEO黎明期である1997年よりSEOサービスを開始。2002年に会社設立(株式会社イー ・プロモート)後、2005年4月から2021年12月まで株式会社アイレップにてSEM総合研究所 所長を務める。SEO分野での第一人者として多くの執筆・講演活動で活躍中。主な著書に「検索にガンガンヒットさせるSEOの教科書」(翔泳社刊)等。また、専門誌・サイトで多数の連載記事を担当し、その高い専門性で人気を博している。

日本のSEO黎明期である1997年よりSEOサービスを開始。...

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