本記事は、デジタルマーケティングを統合的に分析するためのフレームワーク「7つのC(7Cs with D)の中から、「Customer」に該当する部分を深堀した内容になります。
分析フレームワーク「7つのC」に関してまとめた記事はこちらを参照ください。
Customerに関して
「Customer」に関しては、「顧客理解の重要性」と「カスタマー分析」のふたつの観点から、話を整理していきたいと思います。
カスタマー分析に関しては、今までアナログ的に顧客分析を行ってきた手法や手段と、様々なデータを駆使してデジタルに顧客を分析する手法や手段を、「Before/After」として比較することで、その違いや特徴などを明確化したいと思います。
そのうえで、データを活用したカスタマー分析では、どのような分析が行えるのか、具体的なアウトプットイメージも交えながら、ご説明したいと思います。
顧客理解の重要性
例えば、「Channel」を分析する場合、カスタマージャーニーを定義し、顧客が利用しているチャネルやファネル毎の分析をすることになりますが、そもそも顧客(Customer)が誰なのかが分からなければ、ユーザーの行動を定義し分析することができません。
前章でも述べたように、若年層をターゲットとするか、シニア層をターゲットとするか、または複数のターゲット層をターゲットとするかで、カスタマージャーニーの設計そのものが変わってきます。
また、「Creative/Contents」に関しても、ターゲットとなる顧客が分からなければ、訴求できるコンテンツ内容や、動画形式がいいのかテキスト形式がいいのかといったフォーマット等も定義することができません。
「Communication」に関しても、新規顧客をターゲットとした施策なのか、既存顧客をターゲットとした施策なのかで、打ち手も変わってきます。
オムニチャネルというコンセプトで、チャネルだけにフォーカスした取り組みを推進している事例などをよく見かけますが、こういった取り組みに「Customer」の視点を組み込むと、さらに現状分析に深みを増すことができるのではないかと思います。
まずは、顧客を知ることから分析をスタートし、そのうえで、「Channel」や「Creative/Contents」、「Communication」の検討を行うよう準備を進めてもらえればと思います(図1)。
(図1:カスタマー分析の位置付け整理)
カスタマー分析
次にカスタマー分析の「Before/After(昔と今)」を見ていきたいと思います。
まず、「アナログ的手法(Before)」から見ていきたいと思いますが、顧客を分析する手法としては、「ペルソナ分析」や「顧客ロイヤリティ分析」などが一般的かと思います。
定性的・定量的に色々な手法があるかと思いますが、基本的な分析手段は、アンケートを活用した調査になります。有名なところでは、インターネットを使ったマクロミル社のアンケート調査などがあります。これらアンケート調査の特徴は、対象モニター(被験者)が限定されるため、分析結果は、あくまで推計データ(サンプリングデータ)でしかないということです。
一方で、「デジタル的手法(After)」では、何がどう変わるのでしょうか。分析手法に関しては、ユーザーの属性分析やサイコグラフィック分析、サイト内行動データの分析など、ペルソナ分析と同様、ユーザーをよりよく理解するための分析を行うという点ではそれほど違いはありません。
違いがあるとすると、今までの分析は、アンケート調査という分析手段を活用して、調査結果も推計データ(サンプリングデータ)でしかなかったのに対して、新しい分析手段では、顧客に紐づく様々なアクチュアルデータ(実データ)を使って、全量データでの顧客分析が可能になっていることです。表にまとめると以下の図になります(図2)。
(図2:カスタマー分析の「Before/After」)
顧客に紐づくアクチュアルデータ(全量データ)として、3rdパーティデータと呼ばれる外部データを活用したり、GoogleやAdobeなどのトラッキングツールを活用して、サイト内のユーザーの行動を分析したり、企業が基幹システムに保有している1stパーティデータ(契約者情報、売上データなど)を使って、自社の顧客が誰なのかを分析していきます。
(便宜上、「Before/After」で区分していますが、実際には、定性的なアンケート調査(推計データ)と、定量的なアクチュアルデータ(実データ)の調査を組み合わせた分析事例なども出てきています。)
「データ活用(with D)」という視点で見た時の、もう一つの大きな違いは、アクチュアルデータで分析した結果データを、カスタマー分析だけに留まらず、その後のマーケティング施策全般(アクイジション施策、カスタマーエンゲージメント施策、コンテンツマーケティング施策等)にも連携することができることです。
詳細は、マーケティング施策やマーケティングテクノロジーツールのところで説明したいと思いますが、例えば、DMPに統合されたデータから見込み顧客のターゲットセグメントを生成し、DSPと連携させて新規ユーザーを獲得したり、DMPとマーケティングオートメーションを連携させて顧客のステイタスに合わせたコンテンツ提供をしたりなどが、その一例になります。
データを駆使するデジタルマーケティングでは、常にツールをシームレスに連携させ、データを最大限に利用できる状況を作っていくことが求められます。
まとめると、まずは、顧客を知ることが、現状分析の起点になること。また、今までのアナログ的な分析手法に対して、デジタル的な分析手法では、顧客に紐づくアクチュアルデータ(実データ)を活用して顧客の分析が可能になったこと。また、「データ活用」の視点で見た時に、カスタマー分析は単なる顧客分析に留まらず、マーケティング施策にもシームレスに連携が可能となったこと。以上、3点が、カスタマー分析を理解するときのポイントになります。
次に、どういった手順を踏んで、どのようなアウトプットがでてくるのか、カスタマー分析の実際の取り組みプロセスを見ていきたいと思います。
プロセスとしては、何らかのマーケティング施策を実施する前と後で、大きく2つに整理することができます。「施策実施前」では、データを活用して顧客の属性分析と行動分析を行い、顧客のターゲット像を定義していきます。次に「施策実施後」では、定義した顧客のターゲット像に対してマーケティング施策を実施し、施策自体の評価を反映していきます。図表にすると以下のように整理できます(図3)。
(図3:カスタマー分析プロセス)
施策実施前
さらに詳しく見ていきます。「属性分析」では、デモグラフィックデータやサイコグラフィックデータを活用し、サービス利用者やサイト来訪者の属性傾向を把握していきます。企業が保有する1stパーティデータが利用できる場合は、会員登録データや契約者データなども利用していきます。基本は、1stパーティデータを利用して「既存顧客」から分析していくのがセオリーかと思いますが、データ整備が進んでいない場合は、外部データを活用して顧客分析を行うところからスタートするのがベターかと思います。
「行動分析」では、ユーザーのWEB上での行動(オウンドメディア内外)を分析し、コンバージョンに至るまでの行動傾向やサイト利用状況を把握していきます。
「顧客定義」では、「属性分析」や「行動分析」の分析結果データをもとに、コミュニケーションの対象となる自社の顧客像を明確化していきます。
A)属性分析のアウトプットイメージ
パブリックDMP等のサイコグラフィック推計データを用いて、サイト訪問者がオウンドメディア以外でどのようなサイトを訪れているのか、その行動特性を分析しユーザーの興味・関心を把握していきます(図4)。
(図4:デモグラフィック推計分析/嗜好性の差分分析)
B)行動分析のアウトプットイメージ
自社のオウンドメディアに実装したタグやパラメータからサイト来訪者のサイト内行動データを収集・分析し、「いつ」「どこから」サイトへ訪れたのかユーザーの行動傾向を把握していきます(図5)。
(図5:時間帯別アクセス分析/流入元別性年齢分析)
オウンドメディア上でコンバージョン・ポイントに到達したユーザーの過去の行動を遡り、「関心度の高さ」を時系列で可視化します。潜在層や顕在層のユーザーを早期に捕捉し、他社よりも一歩先にコミュニケーションを行うための顧客発見に活用することができます(図6)。
(図6:態度変容分析)
C)顧客定義のアウトプットイメージ
パブリックDMPのデモグラフィック/サイコグラフィック推計データとプロモーション配信結果データを掛け合わせて、ユーザーを細分化します。各クラスタの傾向からペルソナを可視化して、自社の顧客像を明確化していきます(図7)
(図7:クラスタリング分析)
パブリックDMPのデータが位置データと連携している場合は、エリア毎に居住者特性を分類し、居住者プロファイリングを行うことも可能です(図8)。
(図8:居住者プロファイリング/配信結果反応率分析)
施策実施後
D)施策評価のアウトプットイメージ
プロモーション施策の前後でサイト来訪者の全体構成割合にどのような変化があったかを可視化します。プロモーションの評価軸として活用することも可能です(図9)。
(図9:デモグラフィック分析/サイコグラフィック分析)
広告の配信結果を、配信の際に分けたセグメントグループごとに分析することが可能です。パブリックDMPが保有しているデモグラフィックデータやWEB行動データを掛け合わせて、対象ユーザーの属性や行動特性の比較を行います(図10)。
(図10:セグメント別配信結果分析)
商圏分析ツールと連携した高精度位置データを活用して、郵便番号でターゲットエリアを絞り、キャンペーンを行うことも可能です。配信結果を地図にマッピングして、ユーザーの反応率とエリア傾向を把握することができます(図11)。
(図11:ヒートマップレポート分析)
以上、施策の実施前と後で、どういった分析ができるのか、具体的なアウトプットイメージを共有させていただきました。
「居住者プロファイリング」や「ヒートマップ分析」など、商圏分析ツールと連携させることで、オンライン施策に限定せず、オフライン施策にもつながるような分析を行うことも可能になってきています。
この記事の著者
竹内 哲也
NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。
NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年...