本記事は、デジタルマーケティングを統合的に分析するためのフレームワーク「7つのC(7Cs with D)の中から、「Channel」に該当する部分を深堀した記事になります。
分析フレームワーク「7つのC」に関してまとめた記事はこちらを参照ください。
Channelに関して
生活者と企業の間で行われるコミュニケーションは非常に複雑化しています。
生活者はリアルな店舗とEC店舗を意識することなく、また、様々なデバイスを使いこなしながら、コミュニケーションを図ろうとします。メディアとの接点に関しても、企業のオウンドメディアだけでなく、LINEやFacebookと言ったソーシャルメディアなども縦横無尽に使いこなしながら、欲しい情報を手に入れていきます。
このような生活者の変化に対して、生活者視点に基づくカスタマージャーニーを設計し、チャネルを統合的・統一的にマネジメントしていくことが企業側に求められてきます。
まず、カスタマー分析で抽出したターゲット層を想定して、生活者視点に基づくカスタマージャーニーを定義し、その後、カスタマージャーニーをどのように運用していくべきか見ていきたいと思います。
カスタマージャーニーの作り方
そもそも、カスタマージャーニーとは、生活者がブランドとどのように接点を持ち、どのような体験をするか、一人ひとりの行動、思考、感情のプロセスを「旅」にたとえて整理していく概念です。
カスタマージャーニーは業種によって様々なモデルが考えられるかと思いますが、ここでは、架空の企業「ザ・スポーツ・カンパニー社(製造小売り企業)」を想定したカスタマージャーニーを設計したいと思います。
まず、初めに着手するのが、顧客の購買導線をファネル(プロセス)で表現した「ジャーニーステップ」を定義します。大きく「来店前」、「来店中」、「来店後」の3つのファネルを定義し、さらに7つのサブファネル(サブプロセス)に細分化して、顧客の購買導線を具体化しています(図1)。
(図1:カスタマージャーニーの作り方:ステップ1)
運用上の観点から、ジャーニーステップを定義するときに、各ファネルとKPIを紐付けておくと、その後の施策立案とモニタリングを行う上でとても便利です。例えば、「認知・来店想起」を目的としたテレビCMの効果が、顧客の「店舗来店」にどこまで寄与したのか、また、実際の「購買」にどこまで影響を及ぼしたのかなど、各ファネルとKPIを紐づけて評価指標を設定しておくことで、ファネル間での効果測定が視覚化しやすくなるかと思います(図2)。
(図2:カスタマージャーニーの作り方:ステップ2)
さらに、先ほど定義したジャーニーステップに対して、「オフライン」と「オンライン」の軸を追加し、ザ・スポーツ・カンパニー社の顧客が利用していると思われるタッチポイント(メディア)やユーザーのアクションを整理していきます。細かいデータがあるのであれば、デバイスの利用状況なども明記してもいいかもしれません(図3)。
(図3:カスタマージャーニーの作り方:ステップ3)
チャネルの下に、ファネル(プロセス)毎でユーザーはどのような行動や思考になるのか、また、どのような心理状態になるのか仮説ベースで定義していきます(図4)。
(図4:カスタマージャーニーの作り方:ステップ4)
最後に、カスタマージャーニーの全体に渡って、どのようなテクノロジーが利用される可能性が高いか、仮説ベースで定義していきます。テクノロジー部分に関しては、カスタマージャーニーを設計する時点で必ずしも必要ありません。インフラ環境が整備されていない場合は、「Cloud」の分析の時に、深堀してもらえればと思います(図5)。
(図5:カスタマージャーニーの作り方:ステップ5)
最後に、ステップ1からステップ5までの全ての要素を含む、カスタマージャーニーの完成形を下記にまとめます(図6)。
(図6:カスタマージャーニーの作り方:完成形)
これで、基本的なカスタマージャーニーのモデルを作ることができました。おさらいすると、まず、生活者の購買導線をジャーニーステップとして定義し、ファネル(プロセス)毎にKPIを置き、プロセス単位で効果を測定できるようにします。
次に、生活者が接点を持つタッチポイント(メディア等)やアクションを、オンライン、オフラインに分けて定義し、ファネル単位での生活者の心理状態を盛り込みます。最後に、利用する可能性の高いテクノロジーを仮説ベースでマッピングします。
カスタマージャーニーの使い方
カスタマー分析に基づいて作成されたカスタマージャーニーは、生活者と企業が行うマーケティングコミュニケーションの全体設計図になるものです。ですので、この設計図をベースに、「Creative/Contents」、「Communication」、「Cloud」、「Cost」、「Collaboration」の5つの要素を関連付けて検討していくことで、運用ベースで活用できる意味のあるツールとして活用することが可能です。
まず、「Creative/Contents」の領域ですが、クリエイティブの訴求ポイントや、生活者が利用するメディアを検討するときは、生活者の心理状態や、オンライン/オフラインで定義したタッチポイント(メディア)の情報が参考になるかと思います。
「Communication」の領域に関しては、マーケティング施策の対象範囲と、それに紐づくファネル(プロセス)やタッチポイント(メディア)などが、キャンペーン等のプランニングに活用できるのではないかと思います。
「Cloud」の領域に関しては、カスタマージャーニー全体の中で、どういうテクノロジーを整備していくべきか、概念的、視覚的に把握しやすくなります。
「Cost」の領域では、マーケティングROIを見ていくことになるので、どのプロセスでどのKPIがどのように影響しているのかを、カスタマージャーニーに紐づけて考えることができます。
「Collaboration」に関しては、直接、明記はしていませんが、社内の関連する部門や、外部で支援してくれるパートナー企業に対して、デジタルマーケティングの全体像を提示したうえで、自分たちがどのパートを担ってもらうかのか理解してもらいます。
以上、カスタマージャーニーの作り方と使い方に関してまとめてみました。カスタマージャーニーは、非常によくできたコンセプトだと思いますので、デジタルマーケティングを推進するときの全体設計図として、うまく活用してもらえればと思います。
この記事の著者
竹内 哲也
NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。
NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年...