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2022年11月にChatGPTが公開されて以来、日本国内のさまざまな企業が生成AIの活用を模索・実践してきました。ChatGPTは進化の一途をたどり、柔軟性とアウトプットの精度が今もなお強化され続けています。2024年現在、多くの企業が生成AIの業務実装を見据えて、活用できる環境基盤の整備に着手しており、既に活用推進のフェーズにいる企業も少なくありません。一方で、これまで生成AIなしで成り立っていた業務に生成AIを活用していくことに対して、ハードルの高さを感じる人が多いというのも事実です。生成AI活用の環境整備は完了したが、なかなか活用が進まない、という課題を抱える企業も多いのではないでしょうか。本記事では、生成AI活用を加速させるためのポイントをHakuhodo DY ONE独自のフレームワークとともに解説します。
多くの企業が生成AIのビジネスへの活用に興味を持ち、実装をはじめている
2022年11月30日、米OpenAI社はChatGPT3.5を全世界にローンチしました。これ以前も生成AIは存在していましたが、ChatGPT3.5のアウトプットレベルの高さから大きな反響を呼び、“生成AI”や“大規模言語モデル(以下、LLM)”が世界各国で急速に普及するきっかけとなりました。労働人口の減少や長時間労働の常態化が大きな課題となっている日本国内においても多くの企業が「生成AIを活用して業務改善できるのではないか?」と期待し、生成AIの業務実装が加速するきっかけとなりました。PwCコンサルティング合同会社が売上高500億円以上の国内企業を対象に実施した調査「生成AIに関する実態調査2024 春」によると、ChatGPT3.5ローンチから1年で約65%の企業が生成AIの実装を推進・活用、約20%以上の企業は実装に向けて検討を進めており、生成AIをビジネスへ活用することに対する興味と期待値は大きく、業務実装に対する投資も積極的におこなわれていることがわかります。
図1:日本国内企業においても生成AI活用の推進に前向き
次の章で詳しく解説しますが、ChatGPTは継続的にアップグレードされ、そのフィジビリティは今も拡大し続けています。これに伴い、生成AIを活かせる業務の幅が広がり、業界や職種を問わず、多くのビジネスで重要な役割を担いつつあります。生成AIの環境構築・活用に取り組んでいるかどうかが、今後のビジネスに大きな影響を与えると考える企業も増えているのではないでしょうか。
引用:生成AIに関する実態調査2024 春 ―試行錯誤の中で見え始める二極化の兆し:生成AIを経営資源の1つとする変革の始まり|PwC
急速に成長し続けるChatGPTの能力
ChatGPT3.5は、2年間でChatGPT4、ChatGPT4o(omni)へと進化し、それに伴い機能も大幅にアップデートされました。ChatGPT3.5は、テキスト情報の入力に対してテキストや画像を出力することができましたが、計算が苦手な点や入力形式の幅が限定的である点が課題でした。そのため、利便性の高さを感じつつも本格的な業務実装が模索にとどまっている企業も多かったのではないかと推測します。しかし、ChatGPT4oでは、テキスト情報だけでなく、画像や動画、音声などのマルチモーダル情報の入力に対して、画像生成やコーディングでの出力をおこなうことができるようになりました。 これにより、業務活用の幅は大きく広がり、業務実装に向けた本格的な検討や推進が加速している企業は今後さらに増えていくことが予想されます。
環境整備完了=組織の生成AI活用が浸透するわけではない。企業が目指すべき「生成AIの活用が浸透している」状態とは
当社では、企業の経営課題や組織課題、事業課題など、さまざまな課題に対してAIを活用したコンサルティング支援をしていますが、最近はガイドラインの策定や生成AI活用に向けた環境構築を完了している企業から「生成AIが社内で十分に活用されていない」というお悩みを聞くことが増えたように感じます。
苦労して生成AIの環境整備をしたのに、現場が使ってくれない…?
多くの企業が直面している「生成AIの環境整備は完了しているはずなのに、なぜか現場が使ってくれない」という現象はなぜ起こるのでしょうか。その原因の多くは、生成AIに対する人間の心理的な距離の遠さにあります。生成AIの業務実装に向けた環境整備やガイドラインの策定は、DXやIT系の部門など、システムや技術に関するリテラシーが高い部門が中心となり推進している場合が多いです。当然、生成AIの業務実装にあたる好影響やリスクを深く理解していることでしょう。しかし、使い手である現場社員はどこまで生成AIを理解しているのでしょうか?業務実装の準備が完了したと同時に、ある日突然「便利だから使ってくださいね!」と生成AIを現場に展開した企業も多いのではないかと思います。このような展開をする場合、一定数の社員は喜んで生成AIを業務に活用すると思いますが、その反面、生成AIをうまく使いこなせなかったり、ビジネス活用に懐疑的な心を抱いている社員もゼロではありません。「使ってねと言われても、どう使えばいいの?生成AIのアウトプットはビジネスに活用できるほど信ぴょう性が高いのだろうか?」と思う人も少なくないでしょう。このような、導入者と利用者の心理的なギャップが生成AIの活用をせき止めている可能性が高いです。生成AIは一問一答のような簡単な業務活用から、これまで人間が時間をかけて取り組んできた難易度の高い業務活用まで、幅広いレベルで活用できます。しかし、使い手の生成AIに対する理解度や経験値の違いで、その実現性が大きく異なります。現場が生成AIを理解し、受け入れて、日常業務でどこまで「協業」することができるかが業務実装成功のポイントとなるでしょう。
図2:生成AIの環境整備完了=活用が浸透するわけではない
生成AIを最大限に活用できる組織に育てるポイントは「“ノリ”の醸成」
生成AIの業務実装を阻む、高い心理ハードルはどのように乗り越えていけるでしょうか。そのポイントは「“ノリ”の醸成」にあると考えます。つまり、「生成AIなんか便利かも」「とりあえず使ってみよう」というポジティブな空気を醸成し、生成AI活用の心理ハードルを下げていく、というものです。使いながら興味関心を育て、理解を深めていく、その空気を組織全体で作り上げていくことで業務実装を実現していきます。当社では、企業が生成AIの業務実装を実現するために必要な要素を「Human」「Operation」「IT」「Structure」「NORI」で構成される5つのレイヤーで定義しています。
図3:生成AIの活用のカギを握る5つの変革レイヤー
この5つのレイヤーの中で最も重要かつハードルが高いといえるのは「NORI」レイヤーと考えています。「NORI」レイヤーとは、文字のまま社員が生成AIをポジティブにとらえ、積極的に活用する“ノリ”の醸成を目指すレイヤーであり、目に見えない気運や従業員の熱意と積極性、会話に出る回数などの総体を指しています。「NORI」レイヤーは感情的な要素が大半を占めており、コントロールが難しいものの、成功のカギを握る非常に重要な要素でもあります。生成AIがなくても成立していた業務に生成AIの活用を促すためには、社員ひとりひとりの“ノリ”を醸成し、生成AIへの信頼感や期待感を醸成する必要があります。
組織全体の“ノリ”を生み出すフレームワーク「CAPSULE」
「“ノリ”の醸成」は一見シンプルな実現方法ですが、最も難しい実現方法ともいえます。組織と一言でいっても、部署によって性格や意思疎通の難易度が異なることもあり、一筋縄ではいかない場合の方が多いでしょう。当社では「“ノリ”の醸成」を実現するために、Hakuhodo DY ONE独自のフレームワーク「CAPSULE」を用いてクライアント企業を支援しています。「CAPSULE」は7つの要素で構成され、それぞれを満たすことで「“ノリ”の醸成」を実現し、生成AIの業務実装をスピーディーに実現します。
図4:ノリ(Momentum)を生むフレームワーク「CAPSULE」
※こちらの背景画像は生成AIを用いて作成しています
CAPSULE|CoE & Community(コミュニティ)
AIの情報や人材の流通を促進するタスクフォースや非公式組織などを立ち上げ、生成AIの最新情報やプロンプトの共有などをおこないます。この取り組みでは、常に場を盛り上げモメンタムを維持するメンバーが必要不可欠となります。
CAPSULE|AI’s character (AIのキャラクター)
生成AI活用のハードルを下げることを目的に、AIに親しみを生むためのキャラ設定をおこないます。キャラ設定は必ずしも必要というわけではありませんが、キャラ設定をすることで、生成AIツールに親しみや愛情を持ちやすくなります。
CAPSULE|Public relations (社内外広報)
社内広報はもちろん、社外への発信も積極的におこなうことで、「自社は生成AIに注力している企業なのである」という印象を間接的に与え、生成AIとの心理的な距離感を縮めることが期待できます。
CAPSULE|Slogan (スローガン)
生成AIの推進の旗印・指針となるスローガンを定め、伝播することで、組織全体のノリを醸成します。
CAPSULE|Use case(シンボリックユースケース)
思わず話したくなる、生成AIを業務活用した好事例を創出・情報展開し、自然と口コミが広がるような連鎖を生みます。
CAPSULE|Leaders (リーダー)
生成AIの業務活用をけん引するアイコン的な人材を選定します。「社内で生成AIといったらxxさんだよね」「生成AIの事ならxxさんに聞こう」などの各所から声がかかるようなエヴァンジェリストを発掘・育成することも”ノリ”の醸成における大きなポイントとなります。
CAPSULE|Event (企画)
生成AIに関連したコンテストや社内イベントを企画します。組織全体を巻き込み、全社でイベントを盛り上げ、生成AIの活用に勢いをつけることが重要となります。
まとめ
AIが今後も進化の一途をたどることを考えると、今のうちに生成AIの業務実装を実現する必要があります。生成AIの活用による業務の効率化やベーススキルの向上を早期実現していくだけでなく、今後も急速に進化するであろう生成AIを組織一丸となってアップデートしていくためには、組織全体の「“ノリ”の醸成」が必要不可欠になるでしょう。当社では、生成AIの導入フェーズから活用フェーズまで、クライアント企業の課題に合わせて柔軟に支援をすることができます。業務実装に関する不安や課題をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
監修
株式会社Hakuhodo DY ONE
中原 柊
大手コンサルティングファーム、法人向けSaaSスタートアップを経て、2023年にアイレップに参画。メディア/Webサービス/通信/エネルギー業界を中心に、DX企画、CX改革、事業戦略、販促領域などに携わる。DX部門において機械学習系スタートアップとの協業やメディアでの情報発信等にも従事。その後、社内最速でマネージャーに昇進。SaaSスタートアップでは、法人向け動画制作クラウドソリューションのカスタマーサクセス部長 兼 DXコンサルティンググループとして、カスタマーサクセスの戦略からオペレーション構築を通し、契約更新率の大幅改善を達成。また、新規プロダクトの立ち上げ等を主導。ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの社内オペレーション組み込みを力強く推進し、外部セミナー等において情報発信活動にも携わる。主な著書に『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)がある。
この記事の著者
DIGIFUL編集部
「DIGIFUL(デジフル)」は、株式会社Hakuhodo DY ONEが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。
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