顧客発想でBtoBマーケティングとセールスをシフトするソリューション、「GRIP&GROWTH」とは?【BtoBマーケティングDXカンファレンス GRIP&GROWTH レポート③】
※本記事は博報堂DYグループの「生活者データ・ドリブン・マーケティング通信」より転載しました。
博報堂とアイレップは2021年10月、BtoB企業のマーケティング・セールス領域のDXを推進するカンファレンス「BtoBマーケティングDXカンファレンス GRIP&GROWTH」を共催しました。BtoBマーケティングにおける潜在顧客の獲得や育成、その後のセールス領域に関する戦略や事業支援など、企業のDXを推進するための知識や戦略、トレンドや今後の展望について紹介しました。今回の第3弾では、DAY2の概要についてレポートします。
顧客獲得|既存顧客を知ることから始める、逆算のセールス手法とは
登壇者:
田口槙吾氏(株式会社ユーザベース FORCAS事業 執行役員CEO)
竹内哲也(株式会社アイレップ執行役員 ソリューションビジネスUnit Unit Manager
兼 セールスイネーブルメント室 室長)
田口氏は、BtoBビジネスがうまく成長できない要因のほとんどは、意思決定が属人的、抽象的、部門ごとになってしまっていることだと語り、カギとなるのは全社統一された顧客起点の意思決定であり、全社員が同じ解像度でターゲット顧客の方を向く必要性を説きました。BtoBセールスの流れにMA、SFA、CRMといった技術が貢献しているものの、数値は指標でしかなく、成果が出た本当の理由を説明できないケースも多いと田口氏。誰に何を届けるのかが明確でないと施策が単発で改善が回りにくく、再現性の高いアクションが起こせないとし、データ統合、顧客分析、戦略立案による顧客起点の改善サイクルを回していく業務フローが必須としました。たとえばどれくらいの規模のどの業界で受注率何%だったかを分析し、顧客解像度を上げていきます。誰にタッチが届きやすいかをデータドリブンで確認し、報告を何度も繰り返すことで、チームをまたいだ共通言語が徐々にできあがるとしました。さらに「顧客は“全方位”と言う企業も多いが、規模の大小によって戦略も変わる。営業と経営で認識をすり合わせ、トライし微修正を続けることが事業成長につながる」と話しました。
次に竹内が「ユーザベース社のFORCASのデータ活用でマーケティングと営業のどちらの効率を改善しやすいか」と問うと、短期的にはマーケとしながらも、中長期的に見れば営業効率が改善していると田口氏。また「ABM(Account Based Marketing)とFORCASの相性がうまくいった事例は」との問いには、「顧客を分析し受注傾向が高い会社に対して、どう課題解決できるかを刺さるメッセージで伝える必要がある。そこでABMは有効ですが、リードがとれても受注は伸びなかった。ですのでABMを自ら実行し、企業形態と業界を絞って戦略を考え抜いたところ、受注率が3倍になり初回商談から受注までのリードタイムが半減した。一次情報は大事ですが様々な情報を俯瞰して戦略をねることで、より高い効果を得ることができます」と田口氏。続いて「FORCAS Salesという顧客理解のためのツールをクライアントはどういう形で導入するか」との問いに、田口氏は「効率的なセグメントを見つけたい、営業戦略上効率的に意思決定したいというニーズに対し提供している」とし、営業担当が使いやすいUIにしてあり、営業が決算資料の見方などを学ぶ教育ツールとしてのニーズも高いと田口氏。最後に竹内が「顧客の解像度を上げるためには、業種業界をマクロ的に把握する視点と、個々の企業を詳しく理解するミクロ的な視点も大事だと思う」とすると、田口氏は、「顧客理解はつまるところビジネスの楽しさにもつながるサステナブルな視点でもある。顧客視点をすぐにビジネスにインストールできるツールをこれからたくさん展開していきたい」と語りました。
顧客育成|リードナーチャリングに必要なのは「ヒト発想」~HOT化・クロージングの精度を上げるためには~
登壇者:
菊地友幸(株式会社博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部 本部長 執行役員)
菊地は昨今のデジタルITの進化による変化を、「マーケティング・リードナーチャリングにおいては攻略接点が激増し顧客のデータ利活用が活発化。MAツールによる施策の自動化、スコア管理できるようになり、セールス領域でもオンライン商談に伴いデータ利活用が増え、SFA使用傾向が高まり効率化が進んだ」と解説。ただアナログ商談やリアルイベントも依然関わってくるし、データの整備も確認する必要がある。事業・マーケティング活動が自動化されないといったことも考慮すべきで、ここに必要なのが、BtoB事業者にとっての顧客、またBtoB事業者の関係者すべてをヒトと捉えたうえでの「ヒト発想」のリードナーチャリングと語りました。
そのTIPSの1つ目を「早期のインサイドセールスが活動精度を上げる」とし、「狙わない顧客を決めて除外し、動かない顧客を動かすシナリオを優先度高く設計することでシンプルなアプローチにできる。デジタルで拾えない顧客ニーズも拾え、クロージング精度も上がる」としました。2つ目の「トスアップ(営業へのリード渡し)にも5W1H」については、「営業戦略の遂行とすみ分け、担当者リソースをコントロールするなど誰に渡すか(WHO)。営業活動の対応サイクルを考慮して連携するなどいつ渡すか(WHEN)。営業サイドが確実に情報を受け取れる環境にするなどどこで渡すか(WHERE)。営業サイドが欲しい情報をすり合わせるなど何を渡すか(WHAT)。リードナーチャリングとCRMの定義範囲と営業との連携範囲をすり合わせるなど目的設定(WHY)。より精度を上げるのに必要な環境、方法を考慮するなどどのように渡すか(HOW)といった整理が有効」としました。3つ目の「属性とBANTだけで捉えないことで顧客とアクションが変わる」については、「ファクト/データだけではマーケサイドのアクションが難しいので、想定するフェーズ、ステップを考える。また決裁者側のインサイトを“不安解消が必要な顧客”といった捉え方までできるとアクションを起こしやすくなる」と菊地。4つ目の「対象顧客しか見ないデータの悲劇」については、「限定的なデータ群の分析ではHOTの不一致が起きやすいのでデータ統合が必要。分析結果をマーケと営業で共有するとクロージング、クロスセルなどに結びつけやすい」としました。5つ目の「高精度のカスタマージャーニー設計を簡単に行う方法」については、「顧客の旅、営業の旅の記録を振り返り、理想的な顧客や営業の旅をジャーニーMAP化することで精度も管理も説得力も上がる。いい旅から顧客や営業の動き方の傾向を掴み、それをカスタマージャーニー、セールスジャーニーとする」とし、「少しでもヒト発想の感覚を掴んでいただけたら嬉しい」と最後に語りました。
顧客支援|LTVを高める既存顧客との関係構築
登壇者:
小池智和氏(toBeマーケティング株式会社 代表取締役CEO)
「LTVはBtoBマーケティングにおける重要指標。これは購買単価×契約期間+、もしくは×追加購買などの掛け合わせという計算ができます。またCAC=顧客獲得単価も重要で、LTVの3分の1以下が理想。これは費用プラス営業費用を新規顧客獲得数で割ることになる。いずれにしてもLTVを高めることで新規顧客のマーケティング投資をより強化できるはず」と話す小池氏。たとえば契約期間においては継続的に活用促進コンテンツを提供したり、顧客状況に合わせたコンテンツを配信し、追加受注においては連動商材を訴求したり、保守・サポート、コンサルサービスを付けるといった施策があり、これらを実行するには既存顧客向けの営業やCSと連携することが必須と続けました。「MAなどを使いメールで新たなコンテンツアップデートのお知らせや、Webサイトの存在をアナウンスし、そのお客様がWebサイトにアクセスしたらCRMデータと連動し顧客に応じたコンテンツを表示したり情報を配信。その情報をカスタマーサクセスやサポートと共有し、それに応じて営業やサポートも対応を行うなど、既存顧客が実現したい顧客体験を考え、どのようなプラットフォーム、体制、オペレーションで実現するかを考えるべき」と小池氏。
また、MAとCRMの情報を連携し運用する必要性について、MAでデジタル上の行動履歴を把握し、CRMで見込み客か商談途中かといった顧客属性を合わせて把握することでニーズが読み取れ、マーケティングや営業が具体的アクションをとりやすいと説明。さらに各施策のアポイント取得・商談・受注までの成果が数値でつねに可視化されることも必須で、それによりうまくいかなかった場合もコンテンツやアプローチを見直すなど改善ができると語りました。
既存顧客向けにマイページを提供した事例では、契約内容とそれに応じたレコメンド表示などのほか、「よくある質問」も顧客に合わせて動的に可変化。ログイン状況や閲覧コンテンツなど、WebサイトとMAとCRMを駆使したプラットフォーム構築で顧客ごとのコミュニケーションを可能にし、それを自社で連携することで関係構築を強化できると小池氏。「既存顧客のWebサイト来訪を起点に、閲覧ページに応じて顧客を分類、それに応じたアクションやコミュニケーションをしていく。状況によっては営業やCSとも連携する。このようにMAで得られる情報とCRMにある情報とコンテンツを組み合わせてシナリオをつくること。場合によっては電話やDMといったオフラインでのアクションも効果的です」としました。
戦略支援|顧客起点でセールスとマーケティングを全体最適で推進するためには
登壇者:
竹内哲也(株式会社アイレップ執行役員ソリューションビジネスUnit Unit Manager兼 セールスイネーブルメント室 室長)
竹内は冒頭で、市場環境の変化と事業・組織のトランスフォーメーションについて言及。DX視点での事業ポートフォリオの組み換え、拡大が起きるなか、セールスとマーケにおいてもデジタル領域に対応できる組織体制・人材の整備が求められると感じると語りました。次にコロナ禍における売り方の変化を見ると、昨年度は完全アナログ型の企業が営業ストップする中、アナログデジタル混在型に移行、今年は混在型だった企業がすべてをオンライン化させようとするトレンドがあると竹内。売り方も、プロダクト型営業から、顧客起点で、顧客の事業理解をふまえたマネジメントの課題解決につながるソリューション提案型へ変わりつつあるとしました。
続いて、セールス視点におけるDXを考えるにあたり必要なポイントとして、1つ目は「売り方プロセスを2段階で見直す」ことだと竹内氏。「企業分析→アポイント→顧客訪問→ニーズ課題把握→提案→クロージングというアウトバウンド型セールスのプロセスが、デジタルにおいては、企業分析の後、商品提供側から情報発信することでお客様側からプル型で問い合わせが入る。そこから課題を把握しニーズがあったところだけを提案、クロージングしていく」と解説。情報発信と問い合わせのプロセスをインバウンド型へとシフトさせ、さらにオフラインだった業務をすべてオンラインへとシフトさせる2段階シフトが重要としました。2つ目のポイントは「セールス部門の機能をマーケティング部門に切り出す」こと。デジタルでは、サービスサイトにおいてブログ記事、ホワイトペーパーなどを使って見込み顧客に積極的に情報発信すると、検索結果やリスティング広告などを通し問い合わせが入ってくる。MAを活用しウェビナーを定期開催するなどでニーズ課題も把握する。「かつてはセールスが担っていた領域をマーケが担っていくことになる」としました。3つ目のポイントは「セールス組織体制を見直す」。マーケティングとセールスは温度差があって対立しがちなので、両者を連携、調整する責任者を置くことを推奨。また “セールスイネーブル室”設置によりフィールドセールスを全体としてフォローし、マーケティングと営業の連携をスムーズにすることが可能としました。最後のポイントは「システム環境面の整備とデータマネジメント」。さまざまなツールによって、既存顧客については予算や決裁者、課題などのBANT情報がとれるし、MAを導入していれば、見込み顧客のスコアリングデータ、インサイドセールスデータをかけてニーズをMA側に入れられる。既存顧客のアカウント情報をSFAでとり、最後に外部データを使いシナリオや事業規模などの情報も得られる。このようにシステムの環境整備を行い、データに基づくセールスマネジメントを実施しお客様に最適な提案ができるようになるのが最終ゴールだとし、発表を終えました。
顧客支援|顧客の「買わない理由」から導く、科学的セールスメソッド
登壇者:
今井晶也(株式会社セレブリックス 執行役員 マーケティング本部長)
今井はまず、属人的ではない、誰がやってもできる再現性の高い営業を追求するべきとし、現在の購買者側の変化といま求められる営業活動について語りました。「コロナにより、担当者とつながれない、対面商談できない、買ってもらえないという3つの機会損失が起きているが、特にオンライン商談においてはコミュニケーションの難易度が上がり成果を上げにくくなっている」と今井。「新規営業は断られる確率が高いうえ成功定義があいまい。また買う理由がさまざまなのに対し買わない理由は絞られるため、買わない理由の方が対策しやすく改善インパクトが大きい」と続けました。
明日からできる、買わない理由を把握する方法としては、「1.営業プロセスごとに懸念事項、評価項目を把握しテストクロージングを実施し、商談が前進しない理由を押さえる。2.決着案件の買わない理由を正確に把握する。3.買わない理由を聞いて終わるのではなく、SFAやCRMに反映させ、購買タイミングの把握やマーケターへのフィードバックなどネクストアクションに活かす。」としました。
続いて買わない理由をなくす具体的な方法を紹介。そもそもオンラインの場合、お客様の興味がなくなると他の作業ができたり、お客様の集中力が持続しにくい環境にあるなど「お客様に逃げ場がある」ことから商談が苦戦してしまうと今井。お客様に商談に集中してもらう「場創りの工夫」として特にコンテンツが重要な役割を果たすと話しました。コンテンツには議論に集中するスイッチとしての役割や、商談資料の空欄ボックスを一緒に埋めていくといった共同作業を通しお客様の視点を当事者側に変えてもらったり、自己開示の量や深さに影響し営業の味方になってくれる効果も。顧客事例や第三者情報などを活用することで自社のニーズに気付いてもらったり、より具体的に「うちにもあったほうがいいかも」といった示唆トリガーになったり、反論が生まれないストーリーや対話が設計できるなどの力があると話しました。
ほかにも、営業が得た商談の資料やお客様の話題などはマーケの企画づくりのヒントになり、狙っているターゲットの具体的関心事に迫る内容にできるほか、マーケティングやインサイドセールスがつくった事例やホワイトペーパーは営業が商談で活用できる武器になるため、それらを話し合うマーケターと営業合同のコンテンツ会議を定期的に開催すべきとしました。「マーケティングと営業でコンテンツを共創し、買わない理由をなくすきっかけになるコンテンツをつくってください」と締めくくりました。
田口 槙吾
ユーザベース
FORCAS事業 執行役員CEO
竹内 哲也
アイレップ 執行役員
ソリューションビジネスUnit Unit Manager
兼 セールスイネーブルメント室 室長
菊地 友幸
博報堂プロダクツ
データビジネスデザイン事業本部 本部長
執行役員
小池 智和
toBeマーケティング
代表取締役CEO
今井 晶也
セレブリックス
執行役員 マーケティング本部長
この記事の著者
DIGIFUL編集部
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