誰にでも使える運用型広告の簡易増額シミュレーション

2020.11.19

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コンバージョンや売上最大化を目的とした運用型広告では、予算配分の見直しが効果改善の一手になります。施策やトレンドにより想定外の効果改善があったときなど、追加投資効率を試算したいタイミングに有用な簡易シミュレーションの方法をご紹介します。

なぜこのシミュレーション方法が役に立つか

運用型広告は、広告掲載開始後のPDCAで大きく成果変動します。施策要因のほか、トレンド要因や競合要因など、各種の変数によって投資効率は一定にとどまりません。複数のメディアやその他の集客チャネルに対してマーケティング予算を分配している場合において、成果の変動に応じて予算の配分を組み直すことは成果改善の打ち手として重要です。追加投資の効率を予め予測できるように準備をしておけば、必要なタイミングで迅速な判断が可能になります。

シミュレーション手法は各種ありますが、今回は「誰にでも使える」ことをテーマに、配信実績とエクセルだけで完結する簡易増額シミュレーションのロジックをご紹介します。

シミュレーションのロジックについて

今回ご紹介するシミュレーションでは、広告配信実績をもとにした対数近似曲線を利用します。需要に対して広告投資が十分に少ないとき、広告費とコンバージョンはほぼ線形で増加することが予想されます。一方、投資が潤沢な場合は、次第に獲得効率の悪いターゲットに広告配信を広げることになるため、最も効率よくコンバージョンを獲得できるターゲットへの配信が飽和した段階で、投資あたりの獲得効率は徐々に下がっていきます。そして最終的には、もはや広告費の増減がコンバージョンの増減に影響しない領域に至ります。

定性的に予想されるこのモデルは、実際の運用型広告における広告費とコンバージョン数の関係をよく表しています。この形が対数曲線に近しいので、広告配信実績を対数近似曲線の式で表すことで、過去に配信したことのない費用レンジの獲得効率についても、予測が可能になります。

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(図1:広告投資対効果の概念イメージ)

配信実績とエクセルの機能だけでシミュレーションをおこなう

必要な配信実績について

計算には、現在配信を行っている運用型広告の、広告費とコンバージョン数がわかる日別レポートが必要です。データの参照範囲はシミュレーションの用途によって調整が必要ですが、今回は前月の配信実績をもとに来月の配信費用を決定する場面を想定して、過去30日分のレポートを利用します。

近似曲線の利用にあたっては、なるべく条件の揃ったデータを利用する必要があります。あまり長期のデータを利用すると、考慮したい直近の成果変動要因を反映できない試算になるため、近似曲線が描ける程度の量は必要ですが、参照期間は必要最低限に留めることをおすすめします。

エクセルのグラフ機能を用いて近似曲線の式を取得する

用意した日別の配信実績をもとに、xを配信費用、yをコンバージョンとして散布図を作成します。作成した散布図クリックし、近似曲線の追加を選択し、対数近似曲線を作ります。このとき、「グラフに数式を表示」にチェックを入れてください。これで、配信費用とコンバージョンの関係を、y=a*ln(x)+bの形で表すことができます。

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(図2:対数近似曲線の式の取得方法)

求められた近似曲線の式に値を代入し、投資効率を求める

このxに配信費用を代入すれば、増減額時のコンバージョン数が予測できます。実用としては任意のレンジで検討する広告費の列を用意し、数式を延長してそれぞれの配信費を利用した場合のコンバージョンを計算します。各集客チャネルについて同様の操作をおこなうことで、どのチャネルへの追加投資が最も効率的であるか、計算することができます。

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(図3:任意の配信費用を代入する操作方法

エクセル関数を利用する方法

グラフを利用したシミュレーション方法では、表示した数式からのコピー&ペーストや、小数点以下の数字を表示させることに地味な手数がかかります。一時的な対応であればこの方法でも問題はないのですが、シミュレーションは運用型広告を配信する限り繰り返し発生するタスクになります。したがって、自動化との相性も考えると近似曲線の式をエクセル関数のみで取得できる方法を習得した方がより有用です。

エクセル関数を利用する場合の作業手順

まず、グラフ作成時と同じく配信費とコンバージョンの日別実績を用意します。そして、配信費の横にln(配信費)の列を付け足します。次に、ln(配信費)をx、コンバージョンをyの範囲として、slope関数を利用します。これが、対数近似曲線の傾きになります。同様の操作で、次はintercept関数を使って切片を取得します。これで、対数近似曲線の式を取得することができました。

slopeおよびinterceptは本来線形近似曲線の傾きと切片を取得する関数になりますが、直接配信費を参照させるのではなく、ln(配信費)を参照させることで、対数近似曲線に応用することができます。対数曲線はy=a*ln(x)+bの形で表されますが、ln(x)=Xと置き換えることで、y=a*X+bという形に変形することができます。X=ln(x)としたとき、直線の式と等しい形にできるので、傾き及び切片を取得することが可能になる、という原理です。

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(図4:エクセル関数を利用した対数近似曲線の式の取得方法)

データを取り扱う際の注意

以上が、運用型広告における簡易増額シミュレーションになりますが、データの利用にあたってはいくつかの注意事項があります。実践の際は以下にご留意ください。

どの方法で作成する際も、散布図を確認すること

このシミュレーションは、広告費とコンバージョンが対数近似曲線で表される相関を描くことを前提に設計されています。予算キャップによって1日の配信機会が十分に確保されていない場合や、実績データに明らかに配信条件の異なるプロットが多数含まれる場合など、対数曲線に近似できない場合があります。この場合、対象期間を見直したり、異常値をデータから除外したりするなどして、相関があるとみなせる状態までデータをクリーニングする必要があります。また、1日あたりのコンバージョンが平均して3件未満など、実績データが非常に小さい場合も同様です。日別実績でデータのバラツキが大きくなってしまう場合、週別実績にまとめ直してプロットを描く方法があります。あくまで経験的な目安ですが、基準が気になるようであれば、近似曲線を追加した段階でR2値が0.7程度あるかどうかをご確認ください。

利用可能なデータ範囲に注意すること

この方法は配信実績をもとにしていることから、予測できる範囲には限界があります。データはなるべく均質であることを前提にしていますが、実際の運用では、通常獲得の見込みが高い日に配信の強化を、見込みが低い日には抑制をおこないます。そのため、日別実績をもとにしたプロットは、x軸の右側で平均的な実績よりも高く、左側では平均的な実績よりも低く分布します。これは近似曲線の傾きに影響を与えるため、減額のシミュレーションでは実際よりも効率は悪く、増額のシミュレーションでは実際よりも高く計算されやすいことにご注意ください。

また、対数近似曲線の特性上、配信費0近辺においては、実際と乖離する値になります。これは、配信費0近辺では、増分の効率が平均の効率を上回る値になるためです。極端な増減額を行わない限りは問題になりませんが、実績から大幅な抑制・強化を検討する際は、この点にご注意ください。

必ず検算をする

シミュレーションの結果は、広告投資判断に影響を及ぼす重要な指標です。簡易な操作であっても、意図せぬエラーによって不適切な計算がおこなわれてしまっている場合があります。こうしたミスを防ぐために、利用にあたっては検算をおこなうことを推奨しています。最も簡単な検算方法は、取得した対数近似曲線に、利用した実績範囲での平均配信費を代入し、コンバージョンを求めることです。実績と乖離した値になるようであれば、何らかの操作ミスが疑われるため、一度計算を見直すことをおすすめします。

まとめ

今回は月次の配信費の見直しタイミングを例として、誰にでも利用可能な簡易シミュレーションをご紹介させていただきました。このシミュレーション方法は、使いこなせば合計コンバージョン数が最大化されるメディア予算配分を計算したり、次月の獲得見込みを計算したりといった応用が可能になります。シミュレーションに関してはさまざまなツールが存在しますが、媒体や代理店独自のツールに依存しない手法を用いることで、応用範囲は広がります。

アイレップでは、各広告メディアそれぞれの適切な運用についてご提案させていただくほか、運用業務を代行させていただくなかで、こうしたメディア横断的な疑問に関しても解決をお手伝いさせていただいております。ご相談の際はこちらからお問い合わせください。

 

この記事の著者

黒岩 奈緒

株式会社アイレップ2012年入社。検索連動型広告の運用コンサルティングを中心に、大規模アカウントを多数担当。大量のデータを取り扱ってきた経験を元に、現在は顧客対応と並走して運用の自動化や標準化、情報流通の効率化による全社運用能力の向上を担っている。

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