AI・テクノロジーは運用型広告をどう変えるのか?

2024.07.18

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生成AIを含むAI関連テクノロジーの進化は、運用型広告にも大きな影響を及ぼしつつあります。当社も博報堂DYグループの一員として、独自のAI技術をクリエイティブ制作のワークフローに組み込んだ統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM(クリエイティビティ エンジン ブルーム)」を開発・運用するなど、積極的にテクノロジーの活用に取り組んでいます。AI活用が当たり前となる時代において、運用型広告で成果を出し続けるために大事なことは何なのでしょうか。上席執行役員 帷 勝博、テクノロジービジネス本部 本部長 池本 敦美、パフォーマンスメディア本部 部長 森戸 一粋に聞きました。 

AI・テクノロジー時代における運用型広告の期待と課題

- AIの導入と進化は、運用型広告にどのような影響や変化を及ぼしていますか? 

帷:

日本でサービス展開している大手プラットフォーマーでは、数年前から機械学習が急速に進化してきました。AIが運用型広告の膨大なデータを学習・解析し、入札価格やターゲティングを最適化する精度が非常に高まっています。最近では、生成AIによる広告クリエイティブの自動生成機能の提供も開始されています。

広告会社においては、業務の効率化と品質向上の両面で影響があります。生成AIはさまざまな使い方がありますが、業務効率化については、クリエイティブのアイデア生成、ターゲティング設計時のペルソナ生成や、実際の広告配信結果に関する考察や気づきを得るなどの活用が生成AIによって可能になりました。また品質向上については、生成AIを優秀な参謀役としてアイデアのキャッチボールをおこなうことで、アイデアの質向上や新たな視点に気づかせてもらうことができるようになりました。 

- AIによって人の介在価値がなくなるのではないかと言われていますが、どのように考えていますか?  

帷:

カーナビを例にしてみましょう。人的にカーナビへインプットすることで、常に最善の方法で目的地を目指し続けることができます。もし目的地を間違えて登録してしまうと、カーナビは目的地が正しいか間違っているかは判断せず、「間違った目的地」を目指してしまいます。このようにカーナビを正しく機能させるためには、人が的確に情報をインプットし続けることが必要不可欠です。

マーケティングでAIを活用する時も基本的な概念は同じです。マーケティングの目的は何か、どういう諸条件を守りたいかを事前にインプットするのはもちろんのこと、マーケティングを成功に導くために必要な情報を的確にインプットし、その動きを常にモニタリングしたり必要に応じて軌道修正することが求められます。どのような情報をどのようにインプットするかというところに人の差異が生じます。ボタンを一つ押すだけであとは全自動でマーケティングが成功するということは残念ながらまだ起こりえません。

つまり、AIは非常に優秀ですが、完全に自立しているわけではないということです。われわれマーケターはAIとチームを組み、お互いの強みを活かしあってマーケティングの成功を目指します。AIの力を最大限活用できる人かそうでないかは、これからマーケターに求められる非常に重要なスキルです。

AIに仕事を奪われるのではなく、AIを使いこなせる人に仕事を奪われていくのではないかと考えています。 

森戸:

私はAIの登場を優秀な仲間ができたというふうに捉えています。AIが得意なことはAIに任せ、人間は人間が得意なことに集中する。人間+AIで1人の運用者になるという考え方が必要になってくると思います。 

- 運用型広告で今後必要になってくることは何ですか?  

帷:

AIを活用する力が必要であることは先ほど申し上げた通りですが、生活者の心理を深く考察し、プランニングやクリエイティブに活かすことも非常に重要です。Cookieレスの影響でリターゲティング広告の効果が限定的になってきている昨今、生活者の心理を深く考察することの重要性は一段と高まっています。 

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「生活者の心理を考察する」とは

- 生活者の心理を考察するには、どのような方法を用いていますか? 

森戸:

生活者の心理を考察する際、我々が一番活用しているのは検索データの分析です。検索キーワードや検索行動には生活者の心理がはっきりと表れていて、そのデータを成果と紐づいた形で取得できます。当社は元々、検索連動型広告の運用を強みとしてきた会社ですので、検索データのレポートから生活者の心理を考察することを得意としています。

例えば、過去に旅行業界の広告運用をおこなった際、クエリレポートの分析から、特定の地名クエリが急激に伸びていることが分かりました。その原因を調べたところ、そのエリアであるアーティストのライブイベントが発表されたことが分かりました。そこから、そのキーワードを検索している人が何を考え、どのような行動をとり、何を検索するのかを推測して、それに合わせた施策をおこなうことで、広告成果に寄与することができました。

当然他の広告においても、この方法は応用できます。デジタル広告のレポートの数値から生活者のインサイトを読み解くために必要なのは、想像力です。このサービスはどのようなサービスか、どのような人がどういった場面で使うのか。自分がターゲットになりきって、生活者の心理や行動を想像したうえで、データと照らし合わせて、運用を最適化するというイメージです。

池本:

「自分で商品を見る、使ってみる」「実際の生活者に会う、話を聞く」ということを、当社では昔から非常に大事にしています。生活者として使ってみてどのような気持ちになるか、その気持ちで広告を見たときに何を感じるかは常に考えるようにしています。そのため、新規案件がスタートするときには、実際の生活者にインタビューをおこなって、生活者の解像度を上げるという取り組みをしています。  

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- 運用型広告の最適化が進んでいますが、現在、プラットフォームの最適化は生活者の心理をうまく加味できているのでしょうか?

森戸:

自動入札でいえば、クエリの伸びを検知して、関連キーワードに自動入札するのはAIでもできますが、それから先、生活者の心理に変化を及ぼすような要因を考察し、生活者のインサイトや行動とリンクさせて知見として活用させるのは人間です。検索クエリから生活者の心理を考える経験を積み重ねることで、少しずつクエリから読み解ける情報量が多くなりますし、先輩たちが知見として共有してきたことが、当社の大きな資産になっていると感じます。

池本:

RSA(レスポンシブ検索広告)では、複数パターンの広告見出しや説明文の組み合わせ、調整、配信は完全に自動化されています。ただ過去実績に最適化されすぎていて、ブランド名がTD(タイトル・ディスクリプション)に過剰に入り、人間から見たときに少し違和感を覚えることもあります。要するに、見る人の気持ちまでは考慮されていないんですね。成果を上げることはもちろんですが、それに加えて商品を購入したいと思っている人が嫌な感じを受けない、心地よいクリエイティブを作るには、まだまだ人間の力が必要だと考えています。 

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違和感を感じるTD(タイトル・ディスクリプション)の例

- 生活者の心理を考察したうえで、さらにAIを活用するために人間に求められる能力はどのようなものでしょうか。

帷:

3つあります。1つ目は、クライアントの商品やサービスに込められた想い、特徴、長所、競合と比較したときの優位点を私たちがしっかり理解・把握すること。2つ目は、生活者の悩みやニーズ、欲求をしっかり把握すること。3つ目は、各プラットフォームの特徴や癖をしっかり把握すること。その上で、商品やサービスと生活者のマッチングを各プラットフォームでどのようにおこなうのが最良か見極める必要があります。

競争には、相対的な競争と絶対的な競争があります。AIの導入により全体的な平均点は上がってきていますが、競合他社との相対的な競争に勝つためには、地力を上げなくてはいけない。地力を上げていくには、AI以外の独自の強みを伸ばしていかないといけないのです。

池本:

テキストに関しては、AIによる自動生成の精度はかなり高くなってはいますが、生活者の感情まで考慮した、わくわくさせるような表現は苦手で、完全に任せるのはまだ難しいです。画像の自動生成に関しては、業務効率化というよりは、生活者に響くことをきちんと言語化してプロンプトで指示できなければいけません。そういう意味では、今までとは違う能力が求められはじめているのかなと思っています。 

運用型広告の未来予想

- 生成AIの導入により、運用型広告はこれからどのようになっていくのでしょうか? 

帷:

プラットフォームでは、ターゲティング、クリエイティブ、レポーティングなどさまざまな領域において、AIがどんどん実装されてくると思います。目的や大きな方向性さえ設定すれば、あとはプラットフォームが自動で最適化してくれる時代になりつつありますし、今後も間違いなく進化していくでしょう。

広告会社がAIを活用したマーケティングテクノロジーを自社で開発する流れも強まっていますが、当社も非常に注力しています。そこに先ほど申し上げたクライアント企業の理解、生活者の理解、プラットフォームの理解を最大限に活用し、独自の強みを発揮していきたいです。

森戸:

AIが進化すると、誰が運用してもある程度の結果が出せるようになりますが、逆にそこからさらにどのように成果を伸ばすかのテクニックや知識は、属人化が進む可能性もあります。そうなると、企業はコンペで広告会社を選ぶだけでなく、スペシャリストへ指名が集中していくかもしれません。私は社内の人材教育も担当しているので、レベルの高いスペシャリストを増やすと同時に、知見や知識、テクニックが属人化しないように、会社の中で共有する仕組みも整備しています。 

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- 最後に、今後も運用型広告で高い成果を出し続けるために、Hakuhodo DY ONEとして大事にしていきたいことは何か、お聞かせください。

帷:

不快な感情を生活者に抱かせる広告が問題となっている今、生活者の心地よさをより大切にしていきたいです。広告に対するネガティブな声が挙がってしまうのは、短期的な売上や利益と心地よさが相反してしまうことがあるからです。心地よくない広告でも量を出せば短期的に成果が上がるので、短期成果を重視してしまうのが、昨今の流れです。

「100人に広告を出して、1人が買ってくれたらいい」という考え方ではなく、「99人が嫌な思いをしているかもしれない」というところに目を向けなければいけません。LTVを考えた場合、将来の顧客になってくれるかもしれない99人に嫌われてしまったら元も子もありません。

あらゆる商品やサービスでコモディティ化が進むと、商品を選択する際に、好きな企業、好きなブランドという要素は非常に大切になってきます。広告という接点でも、生活者に心地よさを感じてもらい、愛着を持ってもらう。そうした実践を重ねることで、少しずつ社会に良い変化をもたらしたいなと思いながら、日々の仕事に向き合っています。

森戸:

今後もAIや機械学習でプラットフォームのメニュー自動化が進んでいくと思われますが、アルゴリズムを解読する高い専門性は、長年培ってきた当社の強みです。自動化という言葉で片付けずに、好奇心を持ってマーケティングに向き合うことは、やはり重要です。好奇心の源は、生活者に正しく、素敵に、いい情報を届けたいという熱意です。そういう部分のマニアックさや突き詰め方が当社らしさというか、業界の中でも特異な会社だと考えているので、そこはこれからも伸ばしていきたいですし、それこそがAIが主流になる未来において、運用型広告で高いパフォーマンスを出し続けるための術だと私は思っています。 

 

 

株式会社Hakuhodo DY ONE
帷 勝博

2009年に株式会社アイレップに新卒入社。入社2年目から会社にとって大きな契機となる案件に携わり成功を収める。その後、多くのクライアント企業のデジタルマーケティングを成功に導き、事業の要である運用型広告を力強く牽引する。2015年には最年少で執行役員へと就任し、2019年には最年少で取締役へと就任。2022年からは「フルリモートワークでデジタルマーケティングの最前線に挑戦できる」株式会社アイレップフレールの代表取締役社長も兼任。2024年4月に株式会社Hakuhodo DY ONEが設立され、上席執行役員として運用型広告全般およびデジタル統合領域を管掌。

 

株式会社Hakuhodo DY ONE
池本 敦美

2013年に株式会社アイレップに入社。運用型広告のコンサルタントとして自動車・旅行・金融などのクライアント企業を担当。媒体R&D部署にて媒体毎の最適な運用を研究する傍ら、広告運用のシステム基盤を整備し運用の標準化・高度化を担う。現在は広告運用やシステム基盤にとどまらない新規プロダクトの企画・開発に従事。

 

株式会社Hakuhodo DY ONE
森戸 一粋

森戸さんプロフィール写真

2015年に株式会社アイレップに新卒入社。SEMを中心に飲食・旅行などの大型案件メインで運用型広告のストラテジストとして第一線で活躍。
その傍ら、2年目の2016年から早くも運用の専門研修の講師を担当するようになり、社内の運用人材育成を長らく牽引。
卓越したスキルと独自の語り口で、社内外どちらからも頼られる運用のプロフェッショナルとして唯一無二の地位を確立している。

この記事の著者

DIGIFUL編集部

「DIGIFUL(デジフル)」は、株式会社Hakuhodo DY ONEが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。

当社がこれまでに得たデータや経験から、具体的事例・将来展望・業界の最新注目ニュースなどについて情報を発信しています。ニュースやコラムだけでなく、日常業務や将来のマーケティング施策を考えるときに役立つダウンロード資料や、動画で学べるウェビナーコンテンツも随時追加していきます。

デジタルマーケティングの最新情報や知見を得るための信頼できる情報源の1つとしてお役立てください。

「DIGIFUL(デジフル)」は、株式会社Hakuhodo ...

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