ライブ配信とECサイトを組み合わせ、ユーザーとリアルタイムでコミュニケーションを図りながら販売をおこなうライブコマース。コロナ禍による外出自粛の影響もあり、ライブコマースに着手する企業が増えてきています。
アイレップもそうしたライブコマースを新たに始める企業に対し、支援サービスをおこなっています。今回、ライブコマース視聴者の理解を目的にアンケート調査を実施しました。その結果を前編・後編に分けて解説します。前編ではライブコマース視聴者を視聴目的という観点で深堀りしていきます。
ライブコマースとは?
ライブコマースとは、企業がSNSやECサイトを通じてライブ配信形式で視聴者に商品の紹介や説明をする施策のことです。視聴者はコメント機能を使ってリアルタイムで商品に関する質問ができるので、その場で疑問を解消できそのままECサイトで紹介された商品を購入することもできます。また、配信者と視聴者の交流によって作り上げられていく予測できない展開もライブ配信の醍醐味です。
ライブコマースの市場規模やタイプ、施策としての価値については以下の記事で説明しています。
調査内容
ライブコマースに参入する企業が増えている近年、当社へのライブコマース支援のご相談も増えています。そうした中でライブコマース視聴者の実態や施策効果の解明にも焦点が当てられるようになってきています。今回、当社ではライブコマース施策の適切な評価方法を探るため調査を実施しました。
その調査報告として、前後編に渡りライブコマース視聴者の実態やライブコマースのもたらす効果を議論していきます。本記事(前編)ではライブコマースの全体感や視聴目的別でのユーザー分類分析についてお話しします。
詳しい調査レポートは別途ダウンロード資料として用意しておりますので、ぜひご覧ください。
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ライブコマース視聴者全体感
ライブコマース視聴者の全体感を知ることは前提として必要なので、まずはライブコマース自体の現状の普及率を見ていきましょう(図1)。アンケート回答者全体(n=5,178)の中でのライブコマースの認知率は33.1%となっており、まだまだ多くの方に知られていません。さらに視聴経験率は12.2%、購入経験率は4.1%と一段と低い数値となっています。イノベーター理論でいうところのアーリーアダプター層(市場全体の13.5%のゾーン)へまでは普及がはじまっていますが、認知率や視聴経験率が上がっていかないと市場普及へのキャズムは超えられないでしょう。
では次に、この普及率を性年代に分解します(図2)。すると、女性若年層(10代・20代)は視聴経験率と購入経験率が全体値よりも高いことが分かります。視聴経験のある性年代に限って見ても(図3)、女性の方が割合が高く、中でも20・30代は大きい比率を占めています。ライブコマースでよく扱われるのがコスメやアパレルなどの女性向け商材ということや、ライブコマースがよく配信されているインスタグラムが若年層の利用率が高いなど様々な理由がありそうです。
現状、視聴した経験を口コミすることも踏まえれば女性10~30代層がライブコマース市場の牽引役になりそうです。
(図1:ライブコマース普及実態)
(図2:性年代別ライブコマース普及実態)
(図3:ライブコマース視聴者性年代比)
次にライブコマース視聴経験者(n=468)に視聴目的を聞いた結果(図4)、以下の4つに目的を大別できました。
① ライブ発信者のファンのため
② 商品に関することを確認するため
③ ブランドのファンのため
④ 暇つぶしのため
同じ視聴行動でも違うモチベーションで見ていることが分かります。この視聴目的の違いがライブコマース中、もしくは後に情報収集行動や購買行動をするのかどうかに影響することが推察されます。
(図4:ライブコマース視聴目的)
ライブコマース視聴者の分解
全体感を把握する中で、ライブコマース視聴者は異なる視聴目的があることが分かりました。視聴目的が異なれば目的によっては視聴態度に影響を及ぼし、ライブへのエンゲージメント(いいねやコメント)や購入など行動に差分を生み出す可能性があります。次は視聴者のライブコマース視聴目的という側面で深掘って分析していきましょう。
ライブコマースに期待する点(表1)を質問し、回答者の答えをもとにクラスター分析※1を用いて視聴者を統計的に6グループに分類しました。分類されたグループに共通して多かった期待項目から解釈して、以下のように各グループを命名し解説をいれました(図5)。特に目立った特徴のなかった一般層を除くと、各ユーザー群とも特徴あるグループになっています。
※1:データのパターンが似ている個別データ(ここでは調査回答者)を同じグループにまとめる分析
(表1:ライブコマースに期待すること)
(図5:視聴者の視聴目的別分類)
「ブランド目的層」、「商品情報収集層」はすでにそのブランドやその商品・スタッフに興味関心があり、既存顧客かすでに興味関心をもっているユーザー層と考えられます。「発信者目的層※2」はブランドの店員のファンであるケースとインフルエンサー/KOL※3のファンであるケースが考えられ、前者の場合はブランドの既存顧客(に近い状態)であり、後者だとブランドとインフルエンサーの相性次第で購買を起こしやすい視聴者層です。
対して、「コンテンツ目的層」や「暇つぶし目的層」は購入目的というよりライブコマースで提供されるコンテンツの消費を目的としている節があり、ブランドとしては見込み顧客という立ち位置になりそうです。
※2:発信者は、配信者と出演者の総称の意
※3:Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー)の略称で、特に中国で消費者の購買意志決定の際に強い影響力を持つインフルエンサーのことを指す
では、各グループを様々な観点で見ていきましょう。観点によっては事実とそれに対する分析(解釈)を述べきていきます。
まずは性年代で見ると(図6)、ブランド目的層は7割近くを女性が占め、その中では20代が多いのが分かります。逆に暇つぶし目的層では男性が過半数を超えており、その中では20代の割合が高いです。発信者目的層は20代女性が多く、商品情報収集層では男女ともに40代の割合が高くなっています。
(図6:グループ別性年代比)
直近視聴したライブコマースのカテゴリの観点で見ると(図7)、発信者目的層とブランド目的層ではファッションのシェアの高さが目立ちます。
(図7:グループ別視聴カテゴリ)
直近視聴したきっかけを見ると以下のような特徴が分かります(図8)。
- ブランド目的層:フォローしているブランドアカウントの通知
- 商品情報収集層:ブランド公式サイトのアーカイブ映像、SNSでのアーカイブ映像
- 暇つぶし目的層:出演するタレントの告知、知人・友人
- コンテンツ目的層:出演するタレントの告知、SNSでのアーカイブ映像
視聴きっかけからもブランド目的層や商品情報収集層はすでにブランドと繋がりがあることが推測できます。逆に暇つぶし目的層やコンテンツ目的層はフォローしているタレントが告知していたから見に行ったと推測されます。
(図8:グループ別視聴きっかけ)
それでは、実際にライブコマースを視聴した後の態度変容がグループ別でどう異なるのかを、直近のライブコマース視聴後の変化で見ていきましょう。
まずライブコマース視聴後のブランド好意度が上昇の大小を見ると(図9)、発信者目的層が25.6%と全体値から見ても大きく上昇しています。自分が好きな店員やインフルエンサーの商品紹介があったり交流ができたりすることにより、満足感が高まりブランドへの好意度上昇につながるのかもしません。まさにライブコマースが得意とする効果かもしれません。
(図9:グループ別視聴後ブランド好意度上昇率)
ライブコマース視聴後の商品購入意向度の上昇率(図10)では、発信者目的層、ブランド目的層、商品情報収集層が他3つに比べて顕著に大きいです。それに対してコンテンツ目的層は1番上がりにくいようです。
上位3グループはそもそも配信ブランドに対して好意的であり積極的な視聴態度な一方、コンテンツ目的層はある種受け身な視聴態度であり購入がゴールにないのかもしれません。
(図10:グループ別視聴後購入意向度上昇率)
では実際にライブコマース視聴後に購入した経験の有無(図11)ではどうでしょうか?
上位3つは購入意向度でも高かった発信者目的層、商品情報収集層、ブランド目的層。同様に一番下はコンテンツ目的層となっています。
購入経験有無が高い層の中でも発信者目的層は際立って高いです。おそらく既存顧客なので購入ハードルが低いということに加えて、発信者(配信者)との交流によって購入意欲が高まったことなどが考えられます。商品情報収集層も求めていた商品情報が得られた結果購入に至っていると思われます。対してコンテンツ目的層は視聴体験が目的になっておりそもそもの購入意欲が高くないのでしょう。
(図11:グループ別視聴後購入経験率)
視聴者分解から見えること
ライブコマース視聴者の中には、発信者目的層、ブランド目的層、商品情報収集層、コンテンツ目的層、暇つぶし目的層などの特徴的なモチベーションを持つユーザーがいることが分かりました。
この顧客層によってライブコマースの役割も大きく変わります。前章の冒頭でも説明したように、ブランド店員のファンである発信者目的層やブランド目的層は、すでにブランドの顧客です。そのため定期的におこなわれるライブコマース配信では無理にライブ中に購入してもらわなくとも配信の積み重ねでロイヤリティが高まっていけば、その後の継続購入に繋がる可能性があります。つまり、発信者目的層やブランド目的層に対するライブコマースはCRM施策になります。短期でのCV増加(売上拡大)を目的としたキャンペーンやセール型のライブコマースの際は、これらの層には獲得施策としても機能するでしょう。
商品情報収集層に関しては購入プロセスの一環としてライブコマースを見ており、既存顧客もしくは購入に近い見込み顧客だと推測されます。こういった層にはライブコマースは購入前の商品理解施策に近いものかもしれません。
それに対して、コンテンツ目的層や暇つぶし目的層は芸能人の告知などで流入する割合が高く、そのブランド/商品と関わりが少なかった非既存顧客(見込み顧客)だと考えられます。その場合はブランド認知・理解促進施策のような働きをすると考えられます。
ライブコマースが目的別に異なる働き方をしていることは、以下の記事でも解説しています。
まとめ
ライブコマースの目的が何にしろ、消費財を扱うのであれば長期的な売上を考えていくうえでより多くの顧客のLTVを高めるに越したことはありません。そういう意味では多くの人にライブコマース配信を知ってもらい見に来てもらう集客施策と、見に来た視聴者を長く滞在させる、さらには次の配信も見に来てもらえるように視聴者をファン化・ロイヤル化させる企画演出やライブコマース配信者(コマーサー)のスキルが重要になります。
前編ではライブコマースのユーザー理解に焦点をあてて解説しました。後編では、ライブコマースのもたらす効果に着目していきます。実際にライブコマースを施策として評価するには何をKPIとするのが適切なのか。ライブコマースの態度変容効果を元に考察していきます。
アイレップでは現在、企業のライブコマース支援事業をおこなっており、ライブコマースの成功を左右する集客施策、企画演出、コマーサー育成全ての点でご支援することが可能です。またクライアント企業のニーズやブランド・商材のブランド・エクイティによってさまざまなパッケージソリューションをご用意してありますので、設計・実施など運用に関してもお気軽にお問い合わせください。
【スクリーニング調査概要】
調査主体:株式会社アイレップ
調査方法:インターネット調査
調査対象:全国15~49歳の男女5,178人
調査実施日:2021年9月1日(水)~9月6日(月)
※性年代の人口構成比に合わせて回収しています。
【ライブコマース視聴に関する調査概要】
調査主体:株式会社アイレップ
調査方法:インターネット調査
調査対象:ライブコマース視聴経験のある、全国15~49歳の男女600人
調査実施日:2021年9月1日(水)~9月6日(月)
※ライブコマース視聴割合・性年代の人口構成比に合わせてウェイトバックをかけています。
この記事の著者
尾木原 稜
2019年にアイレップに入社。開発部門で社内用データ分析ツールの企画・開発に携わる。その後、現在のストラテジックプランニング部署に移動。データアナリストかつストラテジックプランナー(マーケティングプランナー)として、クライアントのコミュニケーションプランニング戦略策定に携わっている。また、広告効果の測定モデルや分析手法などのマーケティングソリューションの開発もおこなっている。
趣味:家計簿アプリで出費項目やその金額、月々の変動を眺めること。
2019年にアイレップに入社。開発部門で社内用データ分析ツー...
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