ゲーム広告市場は世界的に成長を続けています。ゲームの魅力を伝え、インストールを促す広告たち。今回は、そんなゲーム広告のあり方について、アイレップでゲーム案件を担当している佐藤拳、西田翔平、松丸也実、森田聖悟で議論をしました。
▼対談者紹介
佐藤 拳
アニメーション会社、ソーシャルゲーム会社で開発運用を経て2019年にアイレップ入社。ゲーム開発側の視点と、マーケティング的な視点を持ってゲーム案件を中心にプランニングを担当する。
【やりこんだゲーム】
グランブルーファンタジー
あやうく生活に支障が出る程度にプレイしました。
西田 翔平
前職では、アプリゲームのIP化を目的としたファンベース施策における映像クリエイティブを包括的に担当。その知見を活かしアイレップでもゲーム案件を中心に担当。
【やりこんだゲーム】
荒野行動、IdentityV、クラッシュ・ロワイヤル
友人とマルチプレイができるアクションゲームを中心に遊んでいます。
松丸 也実
2017年にアプリゲーム会社へゲームディレクターとして入社後、ゲーム内イベントの制作進行をメインで担当。その後、運用広告会社に転職、クリエイティブを制作。その知見を生かし、アイレップではアプリゲーム関連の広告プランニングに従事。
【やりこんだゲーム】
ウマ娘
ウマ娘に影響を受けて、初めて競馬実況を見るようになりました。
森田 聖悟
デザイナーとしてアイレップに入社。アプリ・ゲーム関連を筆頭にデザイン視点での企画・プランニングに従事し、幅広い制作に携わる。また家電・飲料など業種を問わずローンチPRやブランディング施策でのデザイン、コーポレートロゴデザインもおこなう。
【やりこんだゲーム】
原神
最近開催されたファンアートコンテストに作品を投稿しました。
最近のゲーム広告について
ゲーム広告市場の今を教えてください
佐藤 拳:(以下、佐藤)
世界におけるゲームのアプリインストール広告費は増加傾向で、日本においても例外ではありません。
参照元:AppsFlyer 2020年3月16日「アプリインストール広告費2019-2020」
(図1:ゲームでのアプリインストール広告費2019-2020)
日本は世界のアプリゲーム売上の7分の1程度を占めており、アプリ大国とも言えます。しかし、ユニークユーザー数は横ばいの一方で、延べ アクティブユーザーが減っています。つまり一人あたりのアプリインストール数が減っており、いかに新規ユーザーを獲得するかが常に課題として存在しています。
参照元:App Ape Lab. 2019年5月21日「「フォロワーを増やす」がダメ目標な理由とは?ゲームコミュニティ成功事例の最前線 」
(図2:ゲームアプリの市場動向)
最近、印象に残っているゲーム広告を教えてください
森田 聖悟(以下、森田):
自分がプレイしているゲームの広告は覚えています。ただ、広告経由でゲームをプレイすることはないですね。
佐藤:
自分がプレイしているタイトルのアニメPVなどに接触するとファンとしては嬉しかったりしますよね。
西田 翔平(以下、西田):
最近のオープンワールド系のゲームは、印象に残りましたね。
CMのイメージとの乖離もなく、違和感なくゲームもプレイできました。
松丸 也実(以下、松丸):
私は最近ダウンロードしたゲームが、プレイしてみたら広告の印象と違ったので途中で離脱してしまいました。暇つぶし目的のカジュアルゲームだったのですが、続かなかったですね。
ゲームと乖離のある広告
「思っていたゲームと違う」という事態を招く広告を目にすることがありますが、どう思いますか?
森田:
アクション性がありそうなゲームかと思ったらストラテジーだったり、かわいいキャラクターが登場するかと思ったらほとんど出てこなかったり…といった広告のことですよね?
広告を見て期待したものがゲームの中で得られなかったり、内容が異なったりする場合は、がっかりすることが多いですね。
松丸:
期待してダウンロードして、その気持ちを裏切られると離脱しやすくなりますよね。ただ、クリエイティブを制作する視点に立てば、ユーザーに見てもらうことを重視するために、ゲームと乖離のある広告を訴求することもありえるかと思います。例えば、ストーリーを見せてユーザーに選択肢を見せたり、あえてゲームをミスしているような動画広告など。
ではゲームと乖離のある広告のメリット・デメリットはなんでしょうか
西田:
広告的な効果を重視すると、乖離した広告になることもあります。ただゲーマーも広告だけを見ている訳ではなく、広告の出し方のスタンスも見ているので、そういった広告はユーザーに見抜かれていることが多いと思います。
森田:
たとえ広告のクリック率が良かったとしても、ブランドの資産にはなりにくいですよね。
佐藤:
獲得には寄与できるけど、長期的に見た時に、そのブランドの次のゲームをプレイする機会を失っている可能性はありますよね。実は広告と内容が異なるゲームに関しては、売上は高いにも関わらず、Twitterやpixivなどでのオーガニックの会話量や投稿数が少ないことがデータから分かっています。ファン同士によるUGC※1が発信されないため、広告を打ち続けなくてはならないサイクルに入っているとも見ることができますね。
※1:User-Generated-Contentの略、ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツの総称。口コミや二次創作などが含まれます。
参考:「BuzzSpreader Powered by クチコミ@係長」による調査から算出
(図3:タイトルのUGC発生数比較)
西田:
自分が以前、在籍していたゲームメーカーではユーザー体験を第一に考えており、デジタル広告もこのポリシーに沿っていました。
ただ、タイトルの運用状況によってはとにかく広告結果を優先しないといけない場面も多いのではないかと思います。しかしながら、あまりに効果に徹した施策はユーザーにもその意図が伝わってしまう時代だとも感じます。
私自身は、クライアント企業が抱える課題解決にコミットしつつも、その先にいるユーザーの体験を考えることを忘れないようにしたいと思いますね。
松丸:
私が別の代理店でゲーム広告のクリエイティブを制作していた時は、ゲームの面白さよりも、動画広告そのものをひとつのコンテンツとして捉えていました。そもそも見てもらえないと意味がないので、どれだけユーザーの興味を引くことができるかを優先してコンテンツを作り、そこにゲーム内容を入れていました。つまり、広告自体で楽しめることを重視していたんです。
ただ、もちろんゲーム性を誤認させないようには意識していました。ゲームと乖離があると判断されるかどうかの境界線は、ここかと思います。
熱量を可視化する
UGCが多いとどういった影響があるのでしょうか
佐藤:
ゲームを始めて、面白いと感じてもUGCに発展するには、これを好きと言って良いんだ、という自信を持ってもらう必要があります。
ファンが自信を持っている場合、UGCが多く広告がなくてもミドルファネルを進められる可能性があります。例えばゲームにアップデートがあった際に、自発的にUGCが発生して拡散されるような状態ですね。
ゲーム会社が二次創作のガイドライン※2を出すなど、実況を許可しはじめているのも、後押しになっていると思います。逆に、UGCが少ないタイトルは、ファンがファンであることに自信を持てていない状態とも言えます。
※2 参考:任天堂 2018年11月29日「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」
西田:
最近は、ゲーム運営側とファンが意見交換をおこなう濃いコミュニティがあったり、双方向のコミュニケーションが増えているように感じますね。
森田:
ユーザーが発信した情報をゲーム運営側が反応してくれると、安心感がありますよね。
佐藤:
このような傾向を踏まえると、ユーザーの熱量を可視化して、ファンを醸成することが私達の今後の目標のひとつになっていきますね。
西田:
ユーザーの属性やボリュームにあわせて、想定されるUGCから逆算してファン施策を打ち出していく必要もあるのかなと。プレイ動画をアップする層がいるのであれば、ユーチューバーなどとのコラボ企画などを仕込み、そこから話題化させる方法もあると思いますよね。
なるほど、これは新しい試みなのでしょうか?
佐藤:
そうですね。アイレップが元来得意領域としていたロワーファネル(獲得領域)だけではなく、ファンの愛着を醸成するミドルファネルの攻略が非常に重要になってきていると考えています。私たちは、施策を通じてファンの底上げをしていく、「ファンベース」という考え方にもとづいてファンがファンを呼び込む環境を整備しています。
参考:佐藤尚之「ファンベース──支持され、愛され、長く売れ続けるために(2018年/ちくま新書) 」246Pの図版をもとに作成
(図4:施策を通じファンを醸成する)
ゲームにおけるミドルファネルの開拓
今後の展望をお聞かせください
佐藤:
ゲームアカウントのフォロワーは、フォローしているだけではファンとは呼べないと考えています。なので、そのフォロワーをファン化させていくための施策が必要です。その手段として、ユーチューバーの起用や、ウェブ番組、Twitter上での企画などをソリューションとして活用していきたいです。
ゲームの特性やフォロワーの属性を定量的に導き出して、発生が予想されるUGCから逆算し、最適なソリューションを提示したいと考えています。
森田:
さらに言えばミドルファネルから、もっとアッパーファネルにあたる、例えば交通広告などを通じたコミュニケーションまで、包括的にプランニングしていきたいと考えています。
佐藤:
現在、アイレップではそのためのプロジェクトも発足しており、部署を横断しファン醸成をおこなっていくことに注力しています。ゲームにおいてファン化を促していきたい企業と、ともにプランニングをしたいですね。今後の取り組みにご期待ください。
協力:望月 良真、洞口 由宇
この記事の著者
DIGIFUL編集部
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