ECから考える日本のライブコマース市場規模の予測
マーケティングに従事する方であれば、ライブコマースという言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。ライブコマースとは、ライブ動画配信を活用しながら、リアルタイムに視聴者の質問に応えたり、コメントを読んだりと、双方向でコミュニケーションを取りながら企業の商品やサービスの魅力を伝え、販売できる新しいEコマースの形です。
日本のライブコマース事情の前に、既にライブコマースが浸透している中国の事例を見てみましょう。2019年の中国のライブコマースの市場規模は4,338億元(約6兆9,408億円)で、2020年は1兆500億元(約16.8兆円)、2021年には2兆元(32兆円)規模に急拡大すると予測されています。(1元=約16円計算)※1
※1 出典:JETROビジネス短信 2020年10月22日 「中国のライブコマース、2021年に2兆元規模へ」
出典:KPMGとアリ研究院による中国ライブコマースレポート 2020年10月「迈向万亿市场 的直播电商」
(図1:図1:中国のライブコマース市場規模 推移予測)
経済産業省によると2019年度の中国のBtoCのEC市場規模は約204兆円です。そのうち約6兆9,408億円(≒約7兆円)はライブコマースによる販売とすると、EC市場規模に対するライブコマースの割合は3.4%となります。日本の2019年のEC全体の市場規模が19兆円ですから、日本でも同様の割合でライブコマース市場の可能性があると考えると、昨年時点で6,500億円くらいの市場見込みがあると考えられます。さらに、2020年は新型コロナウイルスの影響で急拡大した巣ごもり受容や企業のDX化の影響も加味すると、その見込みも1兆円くらいまで急拡大するのではないかと想定されます。
ただし、現時点では日本のライブコマース市場の規模などは発表されておらず、まだまだ夜明け前の段階です。
出典:経済産業省 2020年7月「内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」
(図2:中国のEC市場におけるライブコマース市場の割合)
ライブコマースはECの手段ではなくマーケティングである
さて、ここまでEC市場とライブコマース市場の予測について書いてきましたが、ライブコマースとはいわゆるECの手段のひとつに過ぎないのでしょうか?近視眼的にはその通りなのですが、私たちはライブコマースをコマースのマーケティング化であると考えています。
その理由は3つあります。
ひとつ目は、企業がこれまでおこなってきたSNSマーケティングとそこに紐づくソーシャルコマース施策の延長線上にライブコマースが位置すると考えるためです。企業はこれまでSNSを活用したマーケティングを長年にわたりおこなってきました。そこで築いてきた顧客とのエンゲージメントをベースにすることで、ライブコマースの効果は最大化します。
エンゲージメントが高い状態でライブコマースをおこなうことでこそ、ファンの熱量を高めてコアファンにしたり、コアファンを顧客に転換したりすることが可能です。また、ライブ感ある演出により、パルス型の消費を促すことも可能で、効率の良いマーケティング手法になります。
ふたつ目は、ライブコマースにより制作された動画コンテンツはコンテンツマーケティングの視点からも有効であると考えるからです。ライブ配信のリアルタイムな瞬間はもちろんですが、ストック型の動画コンテンツとしての活用も有効であると考えます。アーカイブされた動画コンテンツを同じ生活者が再視聴することでさらに理解を深めることもそうですし、リアルタイムでは閲覧できなかった生活者が検索で辿り着いて視聴することで商品理解をするなど、ロングテールなマーケティングにも寄与すると考えられます。
※IGTV機能を使うことでInstagramでもライブをストックすることが可能です
3つ目の理由として、ライブ配信における双方向のコミュニケーションは、顧客の生の声をヒアリングすることができる貴重な機会になり得ることも挙げられます。自社の商材やサービスが、顧客にどのように受け止められているか、インタラクティブなライブコマースの場だからこそ得られる意見が多くあることも、これからの顧客参加のマーケティング手法として優れていると考えます。
ライブコマースマーケティング浸透までの課題
しかし、ライブコマースをマーケティングとして捉えて日本の企業が活用していくまでには環境課題と運用課題があります。
環境課題は2021年2月現在、日本国内ではInstagramなどのSNSはカートと連携して直接販売することができません。SNSでライブ配信をおこなったとしても一度ウィンドウを切り替えて配信から離脱した状態で個別のECサイトに飛ばなくてはなりません。(※Shop Now機能によりInstagram内に商品をタグ付けすることはできます)ゆえに、この離脱が購買に繋がらないのではないかという懸念が残ります。
運用課題は、ライブコマース配信者の不足です。具体的に言うと、ライブコマースはリアルタイムに顧客の質問やコメントに答えつつ、同時にタイムコントロールをおこないながら、購買までの気持ちを醸成していくスキルが必要です。インフルエンサーが世の中にあふれている昨今でも、そのスキルを兼ね揃えた配信者はそこまで多くないことが想定され、貴重な存在であると言えます。
ライブコマース先進国である中国と市場規模で比較しても環境と運用の課題が大きく異なります。中国は独自の文化背景に最適化された独自のSNSがあり、KOL(Key Opinion Leader)という配信者の文化も揃っており、これは日本においては模倣することが難しいのではないでしょうか。しかし、環境課題と運用課題を解決し、日本市場においてライブコマースマーケティングを浸透させることは可能だと、私たちは考えています。
エンゲージメントマーケティングと、コマーサーという新概念
環境課題の解決ですが、そう遠くないタイミングでInstagramから直接カートに行き、購入までをシームレスに行うことができるCheckout機能が実装されることで解決することが想定されます。Instagramからもベータテスト中であると公式に発表されています。
出典:DIGIDAY 2020年3月6日「インスタグラム 、「チェックアウト」機能を少しずつ拡大:現段階で数百ブランド」
なお、環境課題の解決を待つ間にも、ライブコマースに取り組み、着実に視聴者数を拡大している企業は一定数存在します。Instagramに購入機能が実装された暁には、多くの企業がライブコマースに乗り出すことは間違いないでしょう。環境が整備されて本格的なライブコマース全盛時代が来る前に、SNSという資産を活用してSNS内でライブ視聴者数を最大化し、エンゲージメント強化や購入見込み層を増やしておくことの方が購入、認知において最適な解であると私たちは考えます。
運用課題である配信者問題ですが、現在は配信者を企業内部から出すよりも、認知最大化を目的としてインフルエンサーやユーチューバー、ライバーから配信数を最大化することができるタレントをキャスティングするという方法が主流です。
しかし、私たちアイレップが取り組んでいるのは、コマーサー(commercer)という新たな配信者の育成です。
コマーサー(commercer)とは、アイレップが新たに定義した新概念で、「ライブコマースと企業マーケティングの関係性から逆算して最適化した配信者」のことです。私たちはコマーサーとして、企業の商品理解やブランド理解はもちろんのこと、視聴者の気持ちの醸成や、エンゲージメント醸成、アーカイブされた後のコンテンツマーケティングまでをセットで考えることができる人材育成に取り組んでいます。現在はタレント育成事業とも提携しながら、商品カテゴリごとにコマーサーの育成を進めていますが、近い将来は企業ごとにコマーサーを置ける状態を目指しています。
現状、コマーサーとして確立した人材はいないため、企業と相性の良いブランドフォロワーをどのくらい持っているかという観点で配信者の選定をしていますが、今後はスキルを持つコマーサー人材のキャスティングや、コマーサーを目指す配信者のキャストの方とテストマーケティングを実施しながら、より効果的なライブコマースマーケティングの追及をおこなっていく予定です。
マーケティング全体としてのライブコマースの位置づけや、コマーサーに関しての詳細は随時DIGIFULで最新情報を発信していきますので、ぜひご注目ください。
「ライブコマースジャパン」日本のライブコマースを再定義する
私たちはデジタルマーケティングを再定義する集団として、ライブコマースをECのひとつとしてとらえるのではなく、日本企業がこれまで築いてきた消費者エンゲージメントや日本人の消費文化を踏まえ、マーケティングという側面から徹底的にハックし、日本のライブコマースを再定義していこうと考えています。
この記事の著者
DIGIFUL編集部
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