運用視点でクリエイティブ・コンテンツを考える

2020.06.25

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本記事は、デジタルマーケティングを統合的に分析するためのフレームワーク「7つのC(7Cs with D)の中から、「Creative/Contents」に該当する部分を深堀した記事になります。

分析フレームワーク「7つのC」に関してまとめた記事はこちらを参照ください。

Creative/Contentsに関して

「Art(アート)」という言葉があります。一般的に「芸術」と訳されますが、「技術」という意味も合わせ持っています。元々、芸術の発展には、必ず新しい技術の登場があり、新しい技術をマスターしたものが、新しい芸術を生み出してきたという背景があります。つまり、歴史的にみて、芸術と技術は表裏一体だったということを意味しています

デジタルマーケティングにおいても、様々なテクノロジー(技術)が発達したことで、クリエイティブやコンテンツの表現方法や活用方法に色々な影響を与えています。

本記事では、クリエイティブやコンテンツの変化を捉えることで、デジタルマーケティングを推進する者たちが、何に気を付けて、どのようにマネジメントしていくか考察したいと思います。

(クリエイティブとコンテンツという言葉を2つ使っていますが、クリエイティブは広告での利用を想定し、それ以外の文脈(例えば、オウンドメディアで発信される情報など)はコンテンツという言葉を使っています。また、本書ではクリエイティブやコンテンツの表現に関しては深堀せず、環境面の変化に留めた内容となっています。)

クリエイティブ/コンテンツを取り巻く環境変化

まず、テクノロジーが発達したことで、クリエイティブやコンテンツがよりオペレーティブになっていることを見てみたいと思います。

例えば、雑誌におけるクリエイティブの場合、広告代理店(クリエーター)が広告デザインの版下を作成し、それが出版社に入稿され、最終的に雑誌に掲載されていく、というのが一般的な流れかと思います。発売された雑誌は、一定期間、書店で流通し、数か月経ってから、広告の効果が販売増というかたちで成果につながっていきます。

クリエイティブに関しては、広告素材が雑誌に掲載されて、書店に流通してしまえば、素材を差し替えることはできませんし、広告としての効果やデータに関しても、リアルタイムで把握することができません。つまり、入稿前までが勝負で、自分の手を離れた後は、何も対応することができません。

それでは、デジタルの場合はどうでしょうか。まず、広告デザインのクリエイティブを考えるときは、闇雲にターゲットを考えるのではなく、DMP等を活用してターゲットを定量的に明確化していきます(アンケート調査のデータとDMPのデータを組み合わせて、ペルソナ像をより具体化していく手法などもあります)。

また、クリエイティブの配信に関しても、レコメンドツールを活用することで、ユーザーの嗜好性に合わせたクリエイティブを、データに基づきリアルタイムで配信することが可能になります。

つまり、デジタルの場合は、入稿後が重要で、状況に合わせて、ダイナミックにクリエイティブを運用していく体制が求められます。

次に、配信面とフォーマットの観点からも考えてみたいと思います。一般的に、配信と言えば、広告配信かメール配信かと思います。広告配信に関しては、純広から運用型広告(プログラマティック広告)が主流になり、売りっぱなしではなく、売った後の運用が重要になってきています。

広告出稿の結果データに基づき、効果の高いメディアに予算をアロケーションしたり、効果が悪いクリエイティブを差し替えたりと、成果を出すためのオペレーション体制が求められます。

メール配信に関しても、MA(マーケティングオートメーション)が出てきたことで、ユーザーのステイタスや嗜好性に応じてシナリオを設計し、ユーザー毎にコンテンツを配信することができるようになりました。

例えば、ここ2か月、ECサイトに訪問していないユーザーだけに絞って、購買喚起を目的としたコンテンツをメール配信するとか、購買金額が低いユーザーには、併売を促進するようなコンテンツをメール配信するなどです。

また、広告配信やメール配信以外に、最近では、ソーシャルメディアを使ったメッセージング配信なども、有力な配信チャネルとして利用され始めています。

例えば、LINEビジネスコネクトを利用して、ともだちになってくれたユーザーに対して、LINEの配信面でメッセージ配信をするなどが、それに該当します。他にもFacebook MessengerやTwitterDM(ダイレクトメッセージ)でも、同様のことを行うことができます。

フォーマットの観点からも、広告向けのフォーマット、メール配信向けのフォーマット、ソーシャルメディアでのメッセージング配信でのフォーマットなど、同じクリエイティブやコンテンツでも、配信面が違うことで、フォーマットを変更していかなければなりません。フォーマットの観点からも、より、オペレーションが煩雑になってきていることが分かるかと思います。全体像を図示すると、以下のような絵になるかと思います(図1)。

 

30767192469_2(図1:配信管理とフォーマットの多様化)

 

また、情報発信の主体者の観点からも、企業だけでなく、生活者も簡単にコンテンツを発信することが可能になりました。生活者が発信するコンテンツで、企業の売上が上がったり、逆に、対応を間違えて炎上し、売上が下がってしまうこともあります。

特に、オウンドメディアなどは企業側でコントロールできますが、ソーシャルメディアの場合、直接的にはコントロールできず、ユーザーへのきめ細やかな対応オペレーションが求められます。このように、生活者が発信したコンテンツに対して企業が応えるという形で、コンテンツが再生産される、新しい形のコミュニケーションにも対応していく必要があります。

色々な角度から見てきましたが、テクノロジーが発達したことで、データに基づき生活者に最適なコンテンツを提供できるようになったこと、配信に関しても、配信した後が重要で、効果を高めるためには、状況に応じてクリエイティブやコンテンツを最適化する必要があること、また、配信先も多様化しているので、フォーマットも配信先に合わせて作り分ける必要があることなど、クリエイティブやコンテンツのPDCAを回す運用体制が、デジタルマーケティングを推進するうえで、とても重要になってきているのが分かるかと思います。

 

クリエイティブ/コンテンツの課題整理

次に、クリエイティブ/コンテンツの課題整理に移りたいと思います。

今まで述べてきたように、クリエイティブやコンテンツを発信していくためには、オペレーションが非常に重要になるという話をしましたが、マネジメント視点で考えた時に、企業側は、どこまでを自社内で対応し、どこからを外部にアウトソーシングすればいいでしょうか。

企業によっては、自社内にクリエイティブエージェンシーを内製化している企業もあります。

記憶に新しいところでは、ニューヨークにあるクリエイティブエージェンシー「JWalk」を買収した資生堂は、コンテンツ制作の内製化に踏み切っています。生活者の動きが極めて速いマーケットにいるため、外部にアウトソーシングするのではなく、内製化したほうがスピーディに対応できることを、買収した理由として挙げています。

業種・業界や、会社の規模などによって、クリエイティブやコンテンツを内製化できる企業もあれば、出来ない企業もあります。

ここでは、現実的な選択肢として、実際の運用は外部にアウトソーシングする場合を想定して、課題を整理したいと思います。

まず、アウトソーシングする外部パートナーとして、一番使い勝手がよいのは、アクイジション施策とカスタマーエンゲージメント施策の両施策に対応できる企業です。

つまり、フルファネル施策をきちんと回せる外部パートナーは、クリエイティブやコンテンツの全体設計をしたうえで、必要なテクノロジーを導入し、それぞれの施策のオペレーションを回すことが可能です。

対象となる外部パートナーは、広告代理店が第一候補となりますが、アクイジション施策に対応するクリエイティブ運用はできても、カスタマーエンゲージメント施策に対応するコンテンツ運用はできない企業も多いため、デジタルマーケティングをどこまで統合的に推進するかゴールを見据えて、パートナー選定をする必要があります。

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この記事の著者

竹内 哲也

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムに参画。2018年より株式会社アイレップも兼務し、グループ全体の統合デジタルマーケティングを包括的に牽引。2019年度より株式会社アイレップ専任執行役員。早稲田大学政経学部卒。専門は事業開発。

NTTデータ、コーポレイトディレクション等を経て、2014年...

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