
2025年9月9日、Google 検索における「AI モード」の日本語提供が開始されました。この新たな機能は、従来の検索体験を大きく変え、私たちの情報探索のあり方に変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、この変化はマーケティング戦略にどのような影響を与えるのでしょうか?
本記事では、「AI駆動マーケティング 業務効率化を超える生成AI実践」の著者であり、Hakuhodo DY ONE常務執行役員の柴山大が、米国での先行事例を基に「AI モード」が日本のインターネット検索とマーケティングにもたらす影響を考察します。単なる検索機能の進化に留まらない、ビジネスにおける新たな戦略の必要性について、具体的なデータと洞察を交えながら解説します。
※サムネイルはGoogleから引用した画像を使用しています。
画像引用:Google、「Google 検索における『AI モード』を日本語で提供開始」、Google Japan Blog
「AI モード」日本上陸
2025年9月9日、Google 検索における「AI モード」が日本語で提供開始されました。
※英語での「AI モード」提供は2025年8月21日より開始
「AI モード」は、従来のGoogle 検索と比較し、より複雑な問いに対して文脈を理解したり、文脈を補完しながら、ユーザーが本当にたどり着きたい回答を導き出すことができます。検索結果も多くのソースを参照し、体系的に整理をおこなうことから、旅行先を調べるような「リサーチ」や、お店やホテルを探す「探索」、旅行の目的地を考える「比較」といった検索行動において、より深い洞察を得られるようになります。
画像引用:Semrush,Google AI Mode’s Early Adoption and SEO Impact, Semrush Blog, Accessed 09 Sep 2025
インターネット検索において圧倒的なシェアをもつGoogle から「AI モード」が提供されたことにより、生活者の検索行動には何らかの変化が訪れると考えられます。
ここからは、先立って提供が開始されている米国の状況を参照しながら、日本における今後のインターネット検索と、それに伴うマーケティングへの影響について考察していきます。
米国の状況
米国のSEO支援企業「Semrush」の調査結果からは、「AI モード」導入後の変化の兆しが見えてきます。
出典:Semrush,Google AI Mode’s Early Adoption and SEO Impact, Semrush Blog, Accessed 09 Sep 2025
「AI モード」の利用率
Semrushによれば、2025年7月時点で、Google 検索セッションにおける「 AI モード」の利用率は1%程度となっています(英語のAI モード提供開始は2025年5月20日、全ユーザーへの英語のAI モード提供は2025年6月25日)。 これは提供開始後2か月間の調査結果であり、まだユーザーに十分浸透していない状況であることを鑑みた上で読み解く必要がありますが、現時点では「AI モード」が急速にGoogle 検索の姿を変えているとまではいえません。
画像引用:Semrush,Google AI Mode’s Early Adoption and SEO Impact, Semrush Blog, Accessed 09 Sep 2025
「AI モード」における検索行動の特徴
米国での「AI モード」提供から2ヶ月間にわたる利用状況からは、以下のような特徴が見えてきます。
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これらの結果から以下が読み取れます。
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つまりAI モードにおいては、従来のGoogle 検索のように自社サイトへユーザーを誘導する仕掛けを施すことは難しいと考えられます。
なお、これらは「AI モード」が米国の一部ユーザーに提供されてから約2か月後の調査結果になります(調査開始7週間後に全ユーザーへの提供も開始され、最後の1週間のみ全ユーザーを対象に調査)。2025年9月時点では、調査終了からさらに2ヶ月が経過しているため、すでに状況が変化している可能性があります。また現状ではGoogle のUI上でユーザーが明示的に「AI モード」を選択する必要があるため、検索のデフォルト機能にはなっていない点も加味する必要があります。
そのため1%程度という利用率は一過性の数値にすぎず、認知の拡大や慣れとともに上昇していくことが見込まれます。したがってマーケティングにおいても今後の変化を見据えることは重要となります。
「AI モード」提供に伴うマーケティングの変化
米国事例から推察すると、日本語ユーザーに対する提供直後の利用率も数%前後のスタートとなり、そのうち90%以上がゼロクリックになることが見込まれます。移行は想定より緩やかに進むものの、浸透や理解が進むことで利用率は上昇していくため、スタート時点の数値で判断するのではなく、推移を見守りつつ必要に応じて対策を講じることが重要です。
① 自社への影響範囲の把握
米国の場合、「AI モード」は長めの検索(平均7ワード程度)で利用されるのが主流です。自社においてどの流入が「AI モード」に置き換わり、それらの流入の大半がゼロクリックとなった場合にどの程度の毀損が起こり得るのか、具体的に把握することが重要です。
②「 AI モード」への対策
「AI モード」検索結果の90%以上がゼロクリックになるという事実は、「AI モード」経由での自社サイト流入を大きく期待できないことを意味します。そのため重要なのは、自社ブランドが「AI モード」の回答内に表出することです。自社の流入のうち、どのようなキーワードやコンテキストが「AI モード」で利用されやすいのかを把握し、その上でブランドをどう表出させるか、AIOの観点から戦略を検討する必要があります。
③ 従来のGoogle 検索への対策
「AI モード」が登場しても、従来のGoogle 検索の重要性はただちには失われません。少なくとも現段階では、Google 検索と「AI モード」が別機能として扱われているため、従来検索の影響力は依然として大きいと考えられます。米国事例でも、4ワード以下の明確な意図を持つ検索は従来型検索が主流であり、指名検索や一般キーワード(ビッグワード・ミドルキーワード)へのSEO、検索広告、さらにAI Overviewsでの表出を狙う施策(AIO※)は引き続き重要です。
※AIO...AI Optimization(AI最適化)
④ 中長期的な検索行動の変化を見据えた戦略転換
多くのブランドにとって依然最大の流入経路である従来のGoogle 検索の重要性は変わりません。しかし、「AI モード」や他のAI検索の台頭により、今後の検索行動の変化予測の難易度が高まっていることも事実です。検索依存型の戦略は今後保証されないシナリオも考えられ、特に短期成果を追求してきたマーケティング戦略は、一定の軌道修正のシナリオを想定する必要が出てくるかもしれません。
検索経由での流入は引き続き重要ですが、それだけに依存せず、長期的なブランド指名の獲得を増やすことが求められます。そのためにはディスプレイ広告やSNS広告の活用が今まで以上に重要性を増し、短期的なパフォーマンス型出稿だけでなく、認知やブランド育成を意識した長期KPI型の施策を組み込む必要があります。さらにテレビCMなどのマス広告を掛け合わせ、インターネット広告と統合したフルファネル型の戦略を継続的に実行していくことが重要です。この際、マス広告とデジタル広告におけるブランドの一貫性を高めることも、これまで以上に求められていくでしょう。
まとめ
Google 検索における「AI モード」の提供は、生活者の検索行動に変化を促し、企業にとっては集客戦略の転換を迫る可能性があります。特にAIOの実行や長期的なブランド育成を目的とした出稿ポートフォリオの見直しは、今後のマーケティングにおいて重要性が高まるでしょう。
一方で、世の中でセンセーショナルに報じられるほど即時の大変化は起こらず、実際のユーザー行動は緩やかに変化していくと想定されます。現時点で戦略を大きく転換するのではなく、冷静に変化を把握しながら、必要に応じて小さな軌道修正を重ねていくことが大切です。
「AI モード」を皮切りに検索体験は今後も進化し、それに伴いユーザーの行動も変わっていくでしょう。その変化に振り回されず、冷静に対応していくことが、これからのAI検索時代における重要な姿勢になると考えられます。
Hakuhodo DY ONEでは、AI時代におけるAIOコンサルティングや、ブランドの一貫性を考慮したマス広告×インターネット広告の統合型フルファネルマーケティングを提供しています。AI時代のマーケティングに課題を感じられている方は、ぜひHakuhodo DY ONEにご相談ください。
この記事の著者
柴山 大
通信企業やWebメディア企業にてインターネットサービスの商品企画開発・マーケティング・UI/UXの責任者を務めた後、2017年にnegocia株式会社を創業し、代表取締役に就任。2019年、negociaと株式会社アイレップの資本業務提携に伴い、アイレップにてテクノロジー領域全般を統括。2022年より、アイレップ取締役CTOおよび株式会社博報堂テクノロジーズ執行役員を兼任し、博報堂DYグループにおけるAI開発を主導。2025年より、株式会社Hakuhodo DY ONE常務執行役員として、デジタル広告の領域を総合的にリードしている。
通信企業やWebメディア企業にてインターネットサービスの商品...