伊吹とよへのタテガタ動画レシピ。vol.1 〜生活者はどんな動画がお好き??~<前篇>
TikTokにはじまり、YouTube 、Instagramと縦型動画の勢いが止まらない。TikTok総いいね数1億以上を獲得する、地元の同級生2人組コンビのマルチクリエイター「伊吹とよへ」の伊吹氏に、縦型動画の作り方と、その裏付けとなるユーザーの生態を元にした仮説検証について、当社パートナーの江藤優氏も交え赤裸々に語っていただきます。
注記:本記事ではTikTokやYouTubeショートなどの短尺動画、Instagramのリール機能を「縦型動画」という表記で統一しています。
今回のクリエイター
伊吹 氏(伊吹とよへ)
TikTok総いいね数1億以上を獲得する、地元の同級生2人組コンビのマルチクリエイター 。「ドッキリ企画」を中心とした、お笑い系コンテンツが若者世代からの圧倒的な人気を得る。現在はYouTubeとライブ配信、リアルイベントを中心に活動中。最終目標である「3,000人のライブ」を目標に掲げ、音楽活動にも注力している。
縦型動画プラットフォーム解説員 江藤 優 氏
2019年よりBytedanceのインターンとして、クリエイターパートナーシップ部門に従事。100以上のアカウントを担当した後に独立し、現在は200万フォロワーを有するクリエイターとともにOASIZを創業し、国内外の膨大なリサーチに基づいた制作のもと、企業の継続的なバズと質の高いエンゲージメントを提供する同社の代表取締役を務める。伊吹さんとは数年来の友人。
「伊吹とよへ」伊吹さんは何者!?
江藤:僕から伊吹くんの説明をすると、僕がTikTok for Businessに在籍していた時代、当時の上司が伊吹くんのマネジメントを担当していました。二人がコミュニケーションを取っているのを横目で見ていたのですが、僕と同世代なのにこんなにも輝いているクリエイターがいるのかという驚きとリスペクトがありました。当時、「伊吹とよへ」のクリエイティブへの評価は社内でも高く、安心して依頼を任せられると評判でした。TikTok for Business全体ですごくお世話になっていたのを覚えています。直接やり取りするようになったのは、僕が独立してから 1~2 年ほど経ってからですかね。
伊吹:江藤くんとは同い年で、話してみるとものすごい熱量の持ち主だったんです。縦型動画の社会的価値を上げていきたい情熱を持っていて、すぐに意気投合しました。ビジネスパートナーというよりも、友人に近い関係性ですね。遊びの合間にクリエイティブの話をする間柄になっています。
江藤:輝くクリエイターにそう言ってもらえて恐縮です。
伊吹:やめてください(笑)。
「学生の頃から、"戦略的に”人気者になっていました(笑)」
伊吹:自分は、小学生の時の作文にも「有名人になりたい」と書くほど人前に出ることは大好きでした。楽しいことが好きで、さらに人を楽しませたい気持ちが圧倒的に強い性格です。振り返ってみると、小中高校生の時は常に輪の中心にいる人気者でした(笑)。ただ、大学は SNSの研究に取り組んでいたので一人のことが多かったです。
江藤:僕は勝手に伊吹さんのことを昔から知っていますが、「どうしたらこのような人間になれるのだろう」と常々思っています。18歳までは人気者で周囲の友人たちを楽しませ、大学時代はそのポジションを捨てて、ひとりでSNSに没頭する。常に戦略を立てて試行錯誤し続ける体力や熱量、そして人を巻き込む力は同世代の中でもずば抜けています。
伊吹:小中高校生時代は自分が楽しいと思っていたことをただただやっていただけなのですが、大学に入った頃から戦略的に人気者になることを考えはじめました。
きっかけは、大学時代にサークルを自分で立ち上げたことです。
サークルの飲み会を開催する際、常に100人ほど集まるのですが、大人数が漏れなく楽しむためには実は緻密な計画が必要で、場の勢いだけでは失敗することが多いんですよ。そのためサークル内で選りすぐったメンバーを、開始時間の30分前に現地に呼んで、すり合わせのミーティングをおこないます。そしてメンバーを各テーブルに配置して、事前に盛り上げていくための流れを作るのです。
しかし、残念ながらそのサークルは3ヶ月程度で解散してしまいました。なぜなら、僕らが純粋に楽しめなくなってしまったからです。みんなを楽しませることに集中しすぎて、仕事のように感じてしまったんですよね。
左:江藤氏/右:伊吹氏
江藤:今の話を聞いていると、大学生にしてすでにイベントプロデューサーの仕事をやっている。ザ・エンターテイナーだよね。
「TikTokクリエイター?YouTubeクリエイター?自分が何者かわからないんですよ」
伊吹:僕自身も、自分が何者なのかわからないんですよ(笑)。
エンターテイナーと名乗りたい気持ちもあるのですが、世の中のエンターテイナーのイメージはサンシャイン池崎さんみたいな人を指しているように感じます。だからといって一般的なインフルエンサーとも違うと思っていて、どう名乗るかを常に悩んでいます。
江藤:いろんな一面があるから、関わっている人それぞれの「伊吹くん」という人間に対するイメージがあれば良いんじゃないかな。個人的には「伊吹とよへ」というジャンルができたら、僕は最高だと思います。
現在のクリエイティブまでの試行錯誤
有名になるために、まずやってみる。投稿も。分析も。
伊吹:最初にSNSで発信しはじめた時は「伊吹とよへ」のコンビではなく、僕一人での活動でした。TikTokをはじめる前はコメディ俳優を目指したり、ライブ配信をおこなってみたり、有名になるためにあらゆる試行錯誤を繰り返しました。
TikTokが日本で利用できるようになった際、「思い付きでもいいから何でもやろう」という思考から、「しっかり考えて行動しよう」という戦略的思考に切り替わりました。
ベンチマークはダンディ坂野!当時のTikTokに綺麗なオチは必要なかった。
TikTokでの発信をはじめた当初、まず最初に取り組んだことは、この世界にはどのようなクリエイターがいるのかを調べることでした。いわゆる市場調査ですが、やったことは非常にシンプルで、「おすすめ」フィードをひたすら見ていました。「レコメンドシステム=視聴者のニーズ」という仮説を立てたわけです。
動画を見続けてびっくりしたのが、どの動画も的確にオチを作っていて、しっかり面白かったという点です。同時にキレイ過ぎるとも感じました。その違和感はテレビで、コメディアンのダンディ坂野さんを見た時に明確になりました。ダンディ坂野さんの「ゲッツ!」からの舞台袖に流れていくスタイルって全くオチていないんです。でも、お笑いとしてしっかり成立しているのがすごい。この笑いのジャンルは当時のTikTokにはありませんでした。であれば、僕がやってみようと。
そして生まれたのが「世界一早い早口言葉」シリーズです。内容的には早口で単語を言ってドヤ顔するだけです。本当にしょうもない動画なのですが、公開したらいきなりバズりました。
江藤:あったあった!懐かしい~、その動画(爆笑)
伊吹:それがTikTokをはじめた初期の初期です。その後もゆるくてクスッとした笑いを投稿し続けていたら、フォロワーが30~40万人ほどになりました。次のステップとして、会話しながらボケたり突っ込んだりできる動画を作りたくなりました。そこで昔からの友人で、世界一の笑いの天才だと思っている「よへ」を相方に迎え、コンビを結成しました。ありがたいことに、「伊吹とよへ」としての一発目の動画も、大きくバズらせることができました。
市場拡大のために、あえてカップルチャンネルをモチーフにする!
伊吹:その後も順調にフォロワーは増え続け、60万人ほどになりました。でも2019年ぐらいにフォロワーが全く増えない時期に突入しました。再生数はいい、コメントも伸びる、でもフォロワーが増えない。なぜだろうと。
調べてみた結果、僕らと同じエンタメ系コンテンツをメインに発信しているクリエイターは、みんな60万人ぐらいのフォロワー数で停滞しているケースが多いことに気づきました。ということは、「コメディを求めている視聴者」層はそもそも60万人くらいの畑なのかもしれない。これからもっとフォロワーを増やしていくためには、視聴者層の幅を広げていく必要があると感じました。
その頃、僕らが停滞していた時期でもコンスタントにバズっていたのが「男女カップル」のジャンルでした。そこに視聴者ニーズを感じた僕らは、カップルに寄せたコンテンツを配信しはじめました。僕らはふたりとも男性ですから、純粋なカップルコンテンツではありません。例えば「彼女がショートパンツで外に出ようとしたら、嫉妬深い彼氏が止める」といった題材でも、彼女役が「よへ」ですから僕は全く嫉妬しないで放置する。そして放置された「よへ」がキレる、というオチですね。
カップルコンテンツに寄せてはいるものの、最終的にはクスッとした笑いを狙っていく。この施策が当たって一気に100万フォロワーまで増えました。要は、エンタメという市場だけで戦うのではなく、トレンドと自分らしさ(僕らでいうとエンタメ感)を掛け合わせて、ファンを広げていく、という考え方が正しいんだと思います。そうすると、視聴者としても真新しいし、僕らとしても色々とチャレンジできるんですよね。
視聴者が求めているトレンドに、少しだけ「伊吹とよへのオリジナリティ」をトッピングする
伊吹:一時期僕らの象徴コンテンツだったいたずら企画もそうですね。YouTubeでは20分ほどの長さのドッキリ動画はたくさんありました。「たくさん動画が存在する=視聴者ニーズがある」ということです。
この長尺動画を短尺にできないかと思い、編集して試してみました。やってみると90秒の動画でも話の流れは問題ないし、むしろテンポよく面白くまとめられる。さらにTikTokで縦型動画ドッキリは誰もやっていない。これは勝てると思いました。もちろんゆるくてクスッとした笑いの軸はブラしません。最初に公開したドッキリ企画は「テレビのリモコンの電池を、おやつのカルパスに変えてリアクションを見る」ですから。しょうもないでしょ?
@ibukitoyohedayo 腹立つけど、いいとこつくよな。1 #ドッキリ #最高の相棒 いや#最悪の相棒
♬ オリジナル楽曲 - 伊吹 - 伊吹とよへ
江藤:これまで多くのクリエイターをサポートしてきましたが、自分たちのアイデアを出し続け、リサーチ、そしてトライ・アンド・エラーによって200万を超えるフォロワーを生み出しているのは「伊吹とよへ」だけじゃないかな。縦型動画の認知度が上がってきた現在であれば、先駆者にインスパイアされたネタを発信することも十分可能です。
TikTokからYouTubeへ。まずは、1日100本投稿!
伊吹:数年後、TikTokで頑張りきったので、次はYouTubeチャンネルの運用もはじめました。
僕らの強みを生かした最初のトライ、それはYouTubeショートのジャックでした。
視聴者のショートをジャックしたいなと(笑)。
具体的には1日100 本投稿です。
もちろん、過去にTikTok で公開した動画を再利用したのですが、それがとても勉強になりました。
100本アップロードした結果どうなったのか。これが全く視聴回数増えないんですよ(笑)。落ち着いて考えてみると、同じクリエイターの動画が100 本表示されたら、視聴者からしたら鬱陶しいですよね。結果、チャンネル登録者が4~5,000人減りました。これはやばいと思いましたね。視聴者に求められていない。賭けに負けたなと。
でも3日後に100本の縦型動画のうち、ひとつの視聴回数が増えはじめました。それ以降、他の動画が雪だるま式に視聴されだして、一気にチャンネル登録者が5万ぐらい増えました。施策に失敗したと思っていたので、さすがにこの時はホッとしました。
フォロワーからファンへ!熱量をもった関係性を、視聴者と僕らで作りたい。
伊吹:ありがたいことに、多くの方にフォローいただき僕たちの動画を見てもらっています。昔はフォロワーを伸ばすことに集中していましたが、数字ばかりを追い求めて、残ったものはフォロワー数という「箔」しか残らないと気づいてしまった瞬間がありました。「箔」には熱量がありません。認知だけは広まったものの、実際に足を運んでくれる熱量の高いファンがどれだけいるのか見えてこない。
アーティストのライブで感じるのは、歌やトークで来場者を沸かせたり泣かせたり、とにかく場のエネルギーが凝縮され、そして爆発している点です。リアルな現場を自分たちが中心で開催するためには、まだまだ力が足りない。だからこそ、これまで通りの「伊吹とよへ」ではなく、常に新しいことにチャレンジしていく「伊吹とよへ」になる必要性をひしひしと感じています。
後篇へと続く。
この記事の著者
松尾 良馬
2018年にアイレップにプランナーとして入社。CM制作から大型コンペの統合提案まで幅広くおこなう。2020年から博報堂DYホールディングスにて、AD Plus VENTURE制度のもと、新規事業の共同責任者として事業の立ち上げに従事。事業計画から商品開発まで、幅広い領域を担当する。2023年からは再びアイレップにて、広告プランナー・新サービス開発に携わる。事業の立ち上げ経験とクリエイティブを掛け合わせ、スタートアップ事業や新サービス立ち上げ等のプロモーションを得意とする。
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