世界のデジタル化、DX化は、アメリカのメガテック「GAFA」(Google, Amazon, Facebook, Apple)と、中国のメガテック「BATH」(Baidu, Alibaba, Tencent, Huawei)が対抗するようにして推進しています。今回は、これまでユナイテッドで社外のエキスパートの方たちとおこなってきた対談をもとにした、日本企業に必要な視点やアクションについて解説します。
オンラインとオフラインを融合してデータを活用
日本では近年、自社がDX推進すべきかどうか、するとしたらどのように推進すべきかについて議論をおこなう企業が増えています。
一方、DX先進国・中国では、企業ごとの意思決定というよりは、国家主導で方針を変えられる体制にあるため、さまざまなデジタルサービスを一気に普及、浸透させることができています。そこでまずは、中国の事例を見てみましょう。
アリババは、EC事業から派生したさまざまなサービスを展開することにより、拡大を続けています。特に、スマートシティの建設に寄与するITインフラや人材を提供。行政手続き、交通、観光業などのスマート化に際して自治体と協業し、大きな影響を与えています。
テンセントはソーシャルプラットフォームとして成長してきましたが、技術力とサービス力を生かして「生活サービスのプラットフォーム」へと発展しています。
また、インスタントメッセージツール「WeChat」では、簡単にミニアプリを制作できるサービスを提供。これをマーケティングに活用する企業も数多くあります。これにより、大企業ではなくても自社で簡単にECサイトを構築することができるようになり、D2Cモデルが加速しました。
アリババやテンセントでは、上記のようなさまざまなサービスを統合した「スーパーアプリ」(ありとあらゆる場面で活用できるように、さまざまな機能をもつアプリを一元化した統合的スマホアプリ)を提供しています。スーパーアプリは、ユーザー基盤をもとにサービスを集約するものなので、大量のユーザーデータを集められる彼らのようなメガテック企業が圧倒的優位となります。
とはいえ、「オンラインとオフラインを融合したデータを集め、さらに活用していく」という考え方はDX化において重要な視点です。
中国企業と協業するためのポイント
DXにおいて重要なことは、積極的にスタートアップと協業することです。日本企業が持ちがちな「自前主義」はDXにおいて障壁となります。今後は、「連携」や「協業」がさらに重要になってくるでしょう。
中国のスタートアップエコシステムは、北京(バイドゥ)・上海・杭州(アリババ)・深圳(テンセント)と、4都市に分かれています。4都市は、それぞれ投資領域が異なり、時期によってトレンドも変化しますから、日本企業が中国企業と協業する際にはそれらを見極める必要があります。
協業するためのポイントのひとつは「協業目的を明確にすること」。お互いにWin-Winのスキームを見つけることができれば、それぞれの強みを生かした協業をすることができます。
ふたつ目のポイントは、「決裁権者の正しい理解」です。正しく理解し、スピーディーな意思決定をおこなうためには、現地に決済権者を派遣することが非常に重要です。最近では、各国のCVC(Corporate Venture Capital)担当者がシリコンバレーだけでなく中国にも派遣されるケースが増えているようです。
シリコンバレーで次々とユニコーンが誕生する背景
Incubate Fund US GP, L.L.C. Founder and General Partner 野津 一樹 氏との対談によると、デジタルツールの導入についてもひとつひとつ議論をおこなう日本企業に対し、DX先進国であるアメリカでは、デジタル化することは当たり前であり、「DX推進をするかどうか」という議論はされないことがほとんどです。だからこそ、スピード感のあるDXがおこなわれるとともに、テクノロジー企業への投資額が膨れ上がっています。
特に2021年上半期は、半年で2019年1年間と同水準の投資額となっており、コロナ禍を経て盛り上がっている様子が見受けられます。
特にBtoB SaaSの領域では、時価総額が6年で10倍に成長。年300件ペースでユニコーンが増えています。
資金調達で特に盛り上がっている領域としては、産業DXをおこなうバーティカルSaaS領域、ブロックチェーン領域、SDGs領域といったイノベーションのコアとなる領域などです。
特にバーティカルSaaSは一気に調達額が伸びています。飲食店やサロン、フィットネス、弁護士、保険、金融、警察署、消防署など、さまざまな分野の裏側のオペレーションを支援するようなSaaSスタートアップが軒並み成長しています。特に、ポテンシャルがありながらも、これまでなかなかチャレンジできなかった産業のDXが進んできているのです。
アメリカ企業と協業するためのポイント
アメリカの企業と連携したり、イノベーションを取り入れたりするためにまず必要なことは、事業と投資の両輪で協業していくことが重要です。事業だけでなく、「投資」を組み合わせることで、より影響力を高めることができるからです。
アメリカの事例を紹介します。保険・金融アプリのノーコード開発ツールを提供する「Unquok」は、ゴールドマン・サックスがファーストカスタマーになるとともに、出資を受けました。その後、増資により追加資金を獲得し、人材確保にも成功しました。
協業のキーポイントは、中国企業との協業と同じく、決裁権者の理解とコミットメントです。実際にアメリカで協業に向けて動いている日本企業の担当者が、本社の決裁権者の理解を得ることに苦戦し、思うように進まない、というケースが一定の割合で起こっています。
決裁権者がしっかり理解して意思決定するためには、やはり当人が現地に赴くことが重要です。それを示す事例があります。株式会社小松製作所では、アメリカに決裁権者を置いており、Skycatchというスタートアップ企業と出会って約5カ月でPoCまでこぎつけました。これを成功例として、他のスタートアップとの協業も進められているといいます。
スタートアップと協業するためには、ネットワークや信頼関係の構築も重要です。ただ、日本企業が新たにアメリカでネットワークをつくるには数年と時間がかかります。これが、現地に決裁権者を派遣または赴任させたほうがいい理由です。また、すでにアメリカにあるVCと連携することも効率的な協業につながります。
日本企業に必要な取り組み
日本でDXが遅れている背景には、社会構造も影響しています。現行の選挙制度では、(若年層と比較して)デジタルに弱い高齢者に配慮した政策とならざるを得ない現状があり、企業内でも若手が決済権を持てないことが多くなっています。
一方の中国やアメリカは、人口構成を見れば明らかなように、若年層でも決裁権を持てるケースが多くなっています。日本でも若年層に権限を与えられる企業が多く出てくれば、風向きが変わる可能性があります。
また、日本では教育現場で「文系」「理系」という区分けをしているため、プログラミングに触れたことのない人材が多数生まれています。アメリカではコンピューターサイエンスを全員に学ばせるため、ビジネスとテクノロジーの両方に一定程度知見やスキルを持つ人材が輩出できるのです。日本では特に、テクノロジー側の知見をより多くの人が身につける必要があるでしょう。
これらの背景があるとはいえ、今からでも日本企業に必要とされる取り組みとして、ふたつ考えられます。
ひとつ目はトライ&エラーの考え方を浸透させること。失敗に対して寛容であることは、イノベーションの種をつぶさないために大切です。どうしても抵抗がある場合は、例えば初めに中国でトライして、上手くいったらそのやり方を日本に持ち込むというやり方を検討してもよいのではないでしょうか。
ふたつ目は、テクノロジーで何ができるのかをきちんと理解すること。テクノロジーによって、現状の業務効率化以上に何ができるようになるのか、なかなかイメージできない方も多いので、特に日本企業は技術を持つ外部パートナーと連携し、多角的な視点を得ていくことがポイントです。
これらの取り組みを進めるために、まずは経営者自身が最新の技術に触れ、理解することから始めるといいでしょう。現場側では、新規事業プロジェクトに意欲のあるメンバーを複数人アサインすることで、経営方針に則ったプロジェクトをスピーディーに進めることができるようになります。
〈参考記事〉
・ユナイテッド、「元Googleシリコンバレーキャピタリストと 中国のアクセラレーター代表が語るアメリカ・中国から学ぶ “最先端のDX”」
・ユナイテッド、「アメリカ・中国の最先端DX事例」
この記事の著者
ユナイテッド株式会社
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