本稿では11月1日、2日に開催されたアドテック東京2021のセッション『デジマス最適化の幕開け「運用型マーケティング」の到来』の模様をお届けします。デジタル→マスへ展開するマーケター、マス→デジタルへ展開するマーケター、デジマスを推進するエージェンシー、そして制作会社という立場の異なる4人が登壇。それぞれの立場や知見から、デジマス最適化のポイントを紹介しました。
モデレーター
沢村 真治
フリー
スモールビジネス副事業部長
西谷 大蔵
ALPHABOAT LLC.,
社長
井上 朋子
ビー・エム・ダブリュー株式会社
ブランドコミュニケーション・マネジャー
青山 友樹
株式会社アイレップ
ストラテジックプランニング Division Divisionマネージャー
※本記事は博報堂DYグループの「生活者データ・ドリブン・マーケティング通信」より転載しました。
■さまざまな環境変化のもとデジマスをどう活用していくか
沢村
私は特にアクイジション周りからいかにマスに広げ獲得するかを考える立場、井上さんはBMWでマス中心からデジタルへの展開を考えられているクライアントサイド、青山さんはデジタル起点でマスも含めた支援をされているエージェンシー、そして西谷さんはデジタルのエキスパートとして本日お越しいただきました。我々立場の異なる4人それぞれが考える「デジマス最適化」のポイントについて、これからお話ししたいと思います。
最初のテーマは、変化するデジマス環境でどうゴールやKPIを設定し、予算配分し、計測していくかについてです。
井上
BMWはマスもデジタルも基本的には360度で重要なメディアと認識しています。そのうえで認知から購買に至る4つのファネルでメディアを分散させて活用しています。テレビというメディアは依然、有効な認知獲得手段と捉えているので、必然的に認知にかけるお金が非常に大きくなります。興味検討と購買に近づくにつれてデジタル領域が大きくなりますが、購買に至るところにおいてはオウンドメディア活用が増えるので、バジェットの投下量はスケールダウンします。KPIについてはもちろん全体で何台売るといった指標以外にも、認知ファネルならブランドのバリューを測るような調査を年に1度行ったり、検索数を含めBMWについてデジタル上でどれくらい会話されているかを計測したり、クオリティの高いリードを獲得し販売店に送客するためのキャプチャーリード、またフォワードリードといった指標も重要になってきます。
バジェットアロケーションを見てみると、デジタルにおいては、認知興味の段階で我々はオンラインビデオをテレビ同様に重視していて、投下量を大きくしています。そして検討購買に近づくにつれ、獲得系のバナーやソーシャル系広告、また自動車メディアなど第三者メディアが発行するような1to1のメール広告も大きくなります。このようにデジタル内でもファネルにより異なるメディアを使い、目的に応じて投下量も変えているのが現状です。
沢村
私からは弊社でデジタルからマスへ広げた実例についてお話します。
まず検索面やバナー面でめぼしい改善をやりきったのち、さらなる事業成長のためにミドルファネル攻略を目指しました。ミドルファネルについてはさまざまな定義がありますが、我々は認知から購買の間の、興味や購買検討といったところを想定しROIを設定していきました。というのもここがとれればブランドも中期的には育つし、短期的なビジネスとしても高いROIが可能になると考えたからです。よってゴールはシンプルにROASの最大化と設定しました。具体的にはブランドの指名検索数やそこからの流入数を重視し追いかけ、さらに結果的な指標としてブランドがどれだけ成長したかを図るということを実践しています。
難しさを感じていたのは、ロウワーはインハウスあるいはデジタル専門会社で、アッパーは大手広告会社でと分けてしまうと、結局ROASは自社で測ることになり煩雑だということ。さらに言うと、ミドルファネルだけを最適化させたいのではなく、ロウワーとミドルでそれぞれ何割ならビジネスが最大化できるかということに興味があり、青山さんのいるアイレップにお願いすることになりました。詳しくは青山さんからお願いします。
青山
ミドルとロウワーの予算配分においては共通のKPIを持つことがマストになりますから、我々はテレビやウェブ動画は直接売上やコンバージョンで見てはどうかと提案しました。
方法としては、テレビCMやYouTubeで数字は取れますがそれだけだと成果がわからないので、“もし広告しなかったらどうだったか”の予測値を出し、実際の成果との差分で効果を見るわけです。具体的には意図的にCMをやる地域とやらない地域をつくり、もしCMをやらなかったらこういう線になっていたはずという予測を立てる。こういう手法を反実仮想といいます。
結果的にテレビCMとYouTubeをやらなかった場合よりも非常に高い効果が得られました。テレビとYouTubeの予算配分についても、同じ手法でリフト値を計測し、我々博報堂DYグループが持つシミュレーターやGoogle社のリーチプランナーというツールを使い、いくら出すとどれくらいの効果があるかをモデリングし、そこから最適な予算配分を導き出しました。ロウワーで検索広告にどのくらいの影響を与えたかも、同じ手法で算出。ブランドキーワードと一般キーワードを分けて出してみたところ、ブランド名を入れると10%伸びることが判明。指名検索に加えクリック率もコンバージョンレートも上昇。ミドルファネルやアッパーのKPIとして指名検索を設定するケースは多いと思いますが、クリック率やコンバージョンレートといった指標も有効で、一般ワードにも影響があることが学べました。
ミドルとロウワーにおける最適な比率については、まずデジタルの獲得領域、検索広告に比べてどのくらい効果的だったかを試算。仮にテレビに1億円、デジタルに2000万円投下するのと、デジタルで1億2000万投じた場合の効果をシミュレーション予測し、テレビとYouTubeの実際の成果と比較。するとテレビに投じた場合のほうが良い結果になることがわかりました。そうするともっとロウワーよりもテレビに寄せよう、などと配分の検討ができるようになります。検索やリターゲティングだけでなく、このようにYouTubeなどの動画メディアも獲得型の選択肢に入れるのは有益だと思います。
西谷
私からはデジタルの環境変化についてお話します。施策としてYouTubeの活用は有効ですが、その場合どうしてもGoogle社が展開するアルゴリズムのグロスハックと不可分になる。そのうえでポイントは2つあり、1つは統合一体プランで考えること。2つはツール類が発展し選択肢も増えているので、少額キャンペーンでも使えるようなさまざまなツールを活用するということ。実際に我々は今回のアドテック東京2021のオンライン配信を行っていて、合計参加者数や最大同時接続端末数、平均視聴時間数などからオンライン視聴動向をはかっています。今回のようにオンラインとオフラインのハイブリッド型のイベントも統合して見ることができるので、B2Bのエンタープライズ向け企業のマーケティングなどにおいてはこうしたツールは非常に有効だと思います。
アメリカでも日本と同様若年層になればなるほどテレビだけでリーチできるオーディエンスターゲットが少なく、YouTubeも併用すべきとされています。ただ視聴率はあくまでも%で相対的指標であり、デジタルはインプレッションを基軸に取引していますから、デジマス統合にあたってはこの最大の障壁をどう乗り越えるかを最初に設計しなければならないと考えています。
沢村
ありがとうございます。確かにそうですね。皆さん何かご意見ありますか。
井上
弊社では3社のエージェンシーと長期契約していますが、何を目的にアサインするべきか、どういう役割を担っていただくべきなのかお聞きしたいです。
沢村
僕らはリソース面の事情から1社に絞りましたが、エージェンシー的にはどうでしょう。
青山
一括してお任せいただきたいというのはあります。我々はデジタル出自ですがクリエイティブもきちんとデリバリーできる。AIを活用すれば人手の問題もクリアできます。
西谷
バジェットの規模にもよるでしょうね。ただ結局ビッグクライアントだろうがスモールクライアントだろうがキャンペーンにメリハリがあるはずなので、実験的に小バジェットならここでやってみる、などのトライアルをしてもいいのでは。
井上
我々にとってはやはりブランドの根幹を知るエージェンシーの存在が重要になります。それから総合広告会社さんに対して、どこまで専門性を求めるかも悩ましいところです。
沢村
我々も同じところに悩みましたが、アイレップには博報堂DYグループからの出向者も多く、デジタルとマス両方に強いメンバーが融合したチームをつくっていただけたのは大きかったですね。
■時間とお金をかけて最適なクリエイティブを届ける
沢村
ではここから、クリエイティブやコンテンツをどう運用、展開していくかについてご意見をお願いします。
井上
今年弊社は日本法人設立40周年のブランドキャンペーンを行いました。
「世界はたいせつなものであふれている。」というキーメッセージのもとテレビに映像を流したところ、認知興味をしっかり獲得できた。そしてリッチ広告やバナーでも、キーのクリエイティブを派生させていきました。検討購買ファネルに向けては「世界は~」のテーマからまったく異なるコンテンツを作成。社員やセールスコンサルタントが、BMWが掲げる6つの価値について語るというもので、オウンドメディアだけで展開しました。検討層に最後の一押しをするための施策として、このライブラリーにはBMWの車に関する知識、歴史などブランドにまつわるさまざまなティップスをsnackableなコンテンツとしてプラットフォーム化し、集約させました。また、「世界は~」の言葉を使わずに試乗に誘導するためのコンテンツとして、ピアニストの反田恭平さんというインフルエンサーをブランドフレンドとして迎え、「駆けぬける歓び」というBMWのスローガンを実際に体験し、生の声や表情で伝えていただくというコンテンツをつくりました。メッセージとしてはこのように一気通貫していますが、変形させて伝えています。
沢村
逆にデジタル中心の事業主がマスに面を広げるとき、どういうことが言えるかを僕なりに整理してみました。ゴール、ターゲット、伝えること、予算、メディアプランをそれぞれ順に決め、クリエイティブやデザイナーに相談するということはデジもマスも同じですが、違うことが3点あります。1つは正しいだけじゃだめだということ。デジタルだと媒体自体ターゲティングが効くので、正しい情報を伝えていればそれなりに興味はひけますが、マスの場合大手企業やキャッチーな面白いCMの次に出てくる可能性もあり、何か引っかかるポイントを作らない限り流れていってしまう。そこで2つ目が、きちんとお金と時間をかけていいものをつくるということ。そして3つ目は優秀なクリエイティブディレクターが必須だということ。デジタルからマスに広げた際、タレントを決めて満足してしまうこともありますが、もっと面白いものをつくることに集中すべきです。さらにデジタル会社でありがちなのが、制作費をできるだけ削って媒体を最大化させようという考え。同じ媒体で同じ投下量でもクリエイティブによって効果は格段に変わるので、ここは意思をもって一定のバジェットをとっていいものをつくるべきだと思います。
青山
その大前提にあるのは、クリエイティブは戦略次第だということだと思います。誰にメッセージを届け、彼らをどう動かしたいのか。動かすためにどんなメッセージを伝えるのか。メディアの先にいる人が中心だということはデジマス共通です。ただ明確に両者は仕様と特徴が異なるため、その違いに基づいてクリエイティブを展開する必要がある。
たとえばTikTokなら若い世代、テレビだともう少し上の世代というようにオーディエンスが違います。視聴環境についてもリビングか電車内かで視聴態度も変わってくるでしょうし、表現の制約もフォーマットも考査の基準も違う。こうした違いに基づいてクリエイティブを展開することになります。するとたとえば、テレビCMと同じ素材をYouTubeで配信すると、YouTubeでも成果はとれるが、+10%リフト値があった。テレビCMと別素材をYouTubeに出すと、コンバージョンリフトが+19%になった。やっぱりメディアの先にいる人が違うので、そこに対してクリエイティブを最適化するだけで成果が変わってくるわけです。一方でこれは突き詰めていくときりがないのも事実。正解はないけど「時間とお金をどこまでかけてやりきるか」というのは、エージェンシーと広告主が考えるべきことですし、各広告主の色が出てくるところでもありますね。
西谷
YouTubeにおいては、いろんな企業がテレビCMをそのまま出しているケースが多いですが、再生回数はあまり多くありません。特にYouTubeは先述のとおりプラットフォーム側が設定するアルゴリズムがあり、これに対してインサイトを積み上げていくしかない。ペイドでたくさん回す目的のものとオーガニックで回すべきものは当然作り方も変えるべきだと思っています。いずれにしてもポイントとなるのはサムネイルと動画冒頭部分。そして自動再生。冒頭に引きのある映像と番組全体のハイライトを持ってくる手法、あおりコピーなどは非常に効果的です。一度自作の動画をYouTubeにアップしてみていただければすぐわかると思うのですが、検索をかけてもその動画は到底出てきません。これはアルゴリズムに乗っからないからです。次のおすすめ動画で出てくるものもアルゴリズムによるもの。これをご自身で体感してわかっておくことも大事だと思います。
沢村
4者4様の話でしたが、何かご意見はありますか。
井上
サムネイルについて、ブランドの世界観からどれだけ逸脱していいか、あるいはしてはならないか、悩ましいところですね。
西谷
非常にきれいにブランドの世界観が守られているサムネイルもありますし、必ずしもネオンサインのようにコピーを入れる必要もありません。ただそれで成功するかどうかは運もあるし、一貫性も非常に大事です。そうはいってもやはり、ネオンサインのような画の方が人の目にとまりやすいのも事実です。タレントのユーチューバーでも、プロの手によってあえて素人っぽいつくりにし、少しずつ上手に進化させているものもあったりと、サムネイルは奥の深いもの。もちろんブランドの決めの問題ではありますが。
青山
ちょっと刺激的な表現をしようというとき、いきなり市場に出すのはリスクがあるので、事前にアンケート調査やグループインタビューを行い感触を測るというのも有効です。
沢村
ペイドとオウンドの違いについては、我々としてはなるべく同じものでいきたいという気持ちはあります。同じものでも配信が伸びるようにするコツなどはありませんか。
西谷
結局プラットフォーマーにとってペイドが唯一のマネタイズポイントである限り、ペイドが最強になるのは当然なんです。ですからペイドに力をかけられるのであれば、オーガニック前提にせずに、ペイドに思い切り振りきるという考え方もあります。ただリーンフォワード、リーンバックなど、見る側の姿勢も当然異なるので、アルゴリズムに関係なくスキップされることも多々ある。そこでも見られる動画にするためには、やはり先ほどの作り方のポイントに集約される。サムネイルは重要ということになりますね。
沢村
なるほど。ありがとうございます。まだまだ話は尽きないのですが、時間なのでここまでとなります。どうもありがとうございました!
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沢村 真治
フリー
スモールビジネス副事業部長
freeeスモールビジネス副事業部長として、個人事業主、法人設立検討層、零細法人向けのマーケティング全般を担当。主に、戦略策定、運用広告によるアクイジション、オフライン・オンライン広告によるブランド強化、チャネル開発など。リクルート、ソフトバンク、楽天で戦略策定、lower~upperまでのコミュニケーションプラン・実行などを経験し、独立起業。会社設立freee、会計freeeの利用からfreeeとの縁が始まりその後入社ししばらく法人運営、社員を並行し現在はfreeeに専念。
西谷 大蔵
ALPHABOAT LLC.,
社長
住友商事株式会社メディア事業本部
メディアエンターテイメント事業部
Executive Producer
SCデジタルメディア株式会社 取締役
ALPHABOAT 社長
株式会社教育新聞社 社外取締役
株式会社日本海事新聞社 社外取締役
1997年新卒で電通入社後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、米VIACOMの日本法人であるバイアコムBS、コムスコア・ジャパン代表取締役社長、iMedia初代チェアマン、Apple JapanでiAdのゼネラル・マネージャー等を経て現職。広告、メディア、マーケティング領域で国内外の優良企業における25年もの豊富な経験を元に直近10年強は様々な会社の経営に従事。
井上 朋子
ビー・エム・ダブリュー株式会社
ブランドコミュニケーション・マネジャー
日系および外資系広告会社勤務を経て2017年より現職。BMWブランドコミュニケーションにおいて、ICM(Integrated Communication Management)を確立し、360度マーケティングを各キャンペーンにおいて実施。近年では日本マーケットにおける完全ローカル制作のコミュニケーションも積極的に実施している。
青山 友樹
株式会社アイレップ
ストラテジックプランニング
Division Divisionマネージャー
株式会社アイレップ、ストラテジックプランニング Division のDivisionマネージャーとして、クライアント企業の戦略立案、デジマスを横断したコミュニケーションやメディアプランニングと、その手法開発を担当。
2014年に株式会社アイレップに入社。広告運用業務からキャリアをスタートし、国内大手クライアント企業を担当。ダイレクト案件やブランド案件のプランニングや効果検証を行ってきた。2020年4月より現職。
この記事の著者
DIGIFUL編集部
「DIGIFUL(デジフル)」は、株式会社Hakuhodo DY ONEが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。
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