2020年は未曽有の事態により、日本のデジタル化が進んだと言われます。マーケティングにおいても再考せざるを得ない年だったのではないでしょうか。コロナ禍がもたらしたマーケティングの変革は、2021年もあらゆる企業に求められる重要なテーマであると考えられます。
今回は、ソーシャルメディアはどのように変わるかについて、フォロワーとファンの関係から考えてみたいと思います。
ソーシャルメディアマーケティングの成熟期を経て
ソーシャルメディアにおいては、Twitter、Facebook、Instagram、TikTokなどプラットフォームの増加と目的別に併用するフェーズを辿ってきました。同時に、アカウントを開設するだけでなく、フォロワー、エンゲージメント、UGC※1などのKPIもマーケティングが進化するとともに変遷してきたのではないでしょうか。
※1 UGC:UGCとは、「User Generated Contents(ユーザー生成コンテンツ)」の略称。ソーシャルメディア上で企業ではなく一般生活者が作成したコンテンツを指す。
2021年はプラットフォームの併用やKPIの変遷をもちろん生かしつつ、再考していくべきところがあるのではと考えています。そのひとつがフォロワーです。ソーシャルメディアマーケティングの第1フェーズに「フォロワーを増やす」というKPIを設定することが多く見受けられ、「とりあえずフォロワーを〇〇人にしよう!」という状況にある企業も少なくないのではないかと思います。
2020年の未曽有の事態を経て、消費者のソーシャルメディアへの関わり方は、大きく変化し、日本のデジタル化は急速に進みました。企業のマーケティングに関わる読者のみなさんも、いち消費者としてEC、フードデリバリー、オンライン会議、直近では音声SNSのClubhouseなど、デジタルやソーシャルメディアに可処分時間を多く割くようになったと思います。 となると、やはり企業はこの機会にソーシャルメディアを改めて活用し、ファンベースを作っておこうと考えるのではないでしょうか。本記事ではTwitterを軸に、ソーシャルメディアマーケティングのファンベースシフトを考えていきます。
まず考えたいのが、フォロワー=ファンなのかという議論です。ここからはデータにもとづくものではない、読者のみなさんの感覚値になってしまうのですが、みなさんは何のファンですか?そして最近購入したものは何ですか?
そのうえで問いたいのが、「ファンだから」、「購入したから」という理由で、その該当商品やブランドのアカウントをフォローしていますか?ましてやUGCを投稿しているでしょうか?
・ファンであってもアカウントをフォローしているとは限らない
・ファンであってもUGCを自らが生んでいるとは限らない
この2点を踏まえたときに、改めてフォロワーとファンベースの関係を問うことが重要なのではないかと思っています。
ファンベースマーケティングの誤解
本来のファンベースマーケティングとは情報が行き届かなくなった時代、コアファンこそが売り上げのベース(20%の人が80%の売上を作るパレートの法則に近しい)を支えており、そのファンの情緒的価値を高める定常施策を実施し、キャンペーン施策で潜在層を掘り出すマーケティングを平行しておこないベースアップしていく考え方です。
出典元:日経BP「ファンベースなひとたち」(2020年11月) P.36の図より
(図1:キャンペーン施策によるファンの支持基盤遷移図)
しかし、ソーシャルメディアマーケティングにおいて、フォロワーという数字で可視化しやすい指標があるため、つい「フォロワー=ファン」と語られてしまい、ソーシャルメディアマーケティング≒ファンベースマーケティング≒フォロワーベースマーケティングを「ファンベース」として捉えてしまう傾向にあります。
実際、私は"日本グミ協会"というお菓子のグミのコミュニティ運営の活動をおこなっています。Twitterにおいてフォロワーが69,000人ほどいるのですが、彼らにアンケートを取ったところ、グミを年間に100個以上買うと回答した人は16%で、たしかにパレートの法則に近いデータが出ました。一方で、アンケート(Twitterのアンケート機能で実施)に回答してくれた人は1,199人しかいません。フォロワーの1.7%ほどしか反応してくれてなかったのです。
サンプルが自身のアカウントだけなので、エビデンスとして正しいとは言い切れませんが、SNSマーケティングではTwitterのエンゲージメント率をフォロワーの1~2%と定められることが多々あります。そのためこの結果が一般論と大きくズレてはいないのではないかと考えています。(Instagramの場合、エンゲージメント率は5~10%)
さて、話を元に戻すと、フォロワーがファンとは限りませんし、ファンがフォローしているとも限りません。目先のフォロワー数をファンベースとして考えてしまうと本当のファンが見えなくなってしまう危険性があります。結果として簡易的にフォロワーを獲得することができるインセンティブフックのキャンペーンが増えてしまっていないでしょうか?
かく言う私の日本グミ協会のアカウントもキャンペーンによる獲得を繰り返したため、フォロワーが階段状の増加になっています。
(図2:日本グミ協会のフォロワー推移)
キャンペーンで簡易的に獲得したフォロワーは、キャンペーン終了後に一定数の離脱が発生します。フォロワー数が減るわけです。「フォロワーが減る=ファンが減る」と誤認してしまうので、次なるキャンペーンを実施し、またフォロワーを獲得するというサイクルの運用になってしまうのです。
また、キャンペーン投稿以外で、一番反応してほしい投稿に対して反応をしてくれないことが多く、通常投稿に対するエンゲージメントに寄与することも難しいという現象も発生します。
まとめると、ファンベースマーケティングとフォロワーベースマーケティングを混同してしまうと、大きな間違いが起きる可能性があります。
もちろんファンだからフォローしている、応援しているという形式も成り立ちます。サッカークラブのアカウントや芸能人のアカウントなど、コンテンツが明確なものはその傾向が強いと思います。(コンテンツファンとの向き合い方についてはまた機会があれば書いていきたいと思います)
UGCの本質的な価値
それでは次に「UGC」 について考えてみましょう。先ほどファンだからといってUGCを生んでいるとは限らないということを書きましたが、ここでも安易に"UGCが発生するとものが売れる"という言葉だけが独り歩きする傾向があると考えます。ゆえに、どうしたらUGCが発生するかという点から運用を考えてしまい、その結果として無理矢理にハッシュタグ投稿キャンペーンなどでUGCを発生させるような運用が生まれてしまいます。
UGCは「運用UGC」と「プロモーションUGC」に分類されると考えます。日々の運用においてUGCを狙って発生させ、KPIとして管理していくものが運用UGC、一方で管理下ではないがプロモーション時に半ば偶発的に圧倒的なリーチや影響を与えるUGCがプロモーションUGCです。
企業としてコントローラブルな運用UGCを生むためには、フォロワーに対してアプローチをすることが求められます。しかし、フォロワー=ファンではない場合に、安易にUGCを生む企画をおこなってUGCを生んでも、売上に結びつかないということがこちらのマクドナルドの例でも語られています。
参照元:Web担当者Forum 2017年10月6日 「プレバズのKPI化」「話題化を軸にした商品設計」マクドナルド足立氏が明かすマーケティングのツボ
またグミの話になりますが、2020年は2019年と比べてキャンペーン数が多く、実はグミのUGC数は圧倒的に多かったです。しかし、市場としては比例した大きな成長はなく、やや下降していると記事に出ていました。(メーカー内訳では売上が上がっているグミもあります。業界1位の果汁グミが下降したことが要因のひとつのようです)
参照元:BUSINESS INSIDER 2020年12月30日 「製菓メーカー5社が語る「コロナ禍のビジネス戦略」 売れた菓子、売れなかった菓子は?」
参照元:株式会社シェアコト 独自調査
(図3:グミを含むツイート数(UGC数)推移)
一方で商品やブランドが愛されていて、フォロワーではないがトピックスがあったときにUGCが増えるというパターンもあります。スターバックスのUGCは新商品が発売時に増えるという傾向があります。これはフォロワーに呼びかけてフォロワーが作っているのではなく、勝手に増えていくという構図になっていると考えます。
参照元:株式会社シェアコト 独自調査
(図4:スタバを含むツイート数(UGC数)推移)
フォロワーを動かす運用とは
ここまで、フォロワーとUGCをファンという視点でネガティブに語ってきましたが、ではどうすればいいのか。私としては「フォロワーを動かす運用」が有効ではないかと思っています。一般的にファンがいる企業の場合、ファンが動いた結果、意図した以上のUGCが生まれるという傾向があります。そのため、「フォロワーを動かす運用」でフォロワーの中に埋もれているファンを見つけることが重要です。
「フォロワーを動かす運用」はある意味振るいにかけるようなものであるため、フォロワーが減る可能性も多分にあります。しかし、そもそも動くことを拒んでいる時点でファンではないので気にしないことが大切だと思います。以降、「フォロワーを動かす運用」で使えるTwitterのテクニックについてまとめていきます。
(1)リプライ
フォロワーが返信をしたくなる余地を考えた投稿です。疑問文で投げかけるなどは定番としてありですが、ファンが存在するのであれば、プロダクトやサービスの魅力を伝えたり、匂わせなどをおこなったりすることでフォロワーが返信をしてくれる状態を作りましょう。挨拶投稿などはあまり意味がありません。
https://twitter.com/japan_gummy/status/1341954024443023360
(2)引用リツイート
エゴサーチや関連投稿のサーチをおこない、良いと思ったものをしっかり紹介していくことで、紹介された側との関係値が高まります。ファンしかわからないくらいのコアなコミュニケーションでも良いと思います。
https://twitter.com/japan_gummy/status/1334683505238757376?s=20
(3)コミュニケーションハッシュタグ
オリジナルのハッシュタグを設定します。この際、ブランド名や商品名のハッシュタグはほとんど意味がないと考えます。フォロワーが参加できるコミュニケーション用のハッシュタグを設定するとともに、コミュニケーションの仕方や、どうやったら自走するかをコミュニティ運営の視点から考えましょう。
https://twitter.com/search?q=%23%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%B0%E3%83%9F%E5%8D%94%E4%BC%9A&src=typed_query&f=live
(4)アンケート
簡易的にフォロワーを動かすために有効です。しかし、ある程度フォロワーが温まっていることが前提で、アンケートに参加させるだけでなく、アンケート結果を見たくなるような内容である必要があります。そして、結果の活用方法まで事前に決めて公開することが重要です。また、何度か自身でリツイートして参加数を増やすことも有効です。
https://twitter.com/japan_gummy/status/1344497641841823744?s=20
(5)カンバセーショナルカード
フォロワー内における議論を生む投稿形式です。フォロワーが考えて意見を伝えたくなる投げかけと選択肢、そのあとにシェアされる投稿がフォロワーじゃない人に届いた際に価値があるのかまで考えましょう。キャンペーン用UGCを生むテクニックとして使われることが多く、今後はより深い議論を生むための機能として広告ではない使い方が有効になってくると考えます。※広告投稿以外でも使用可能
(6)トレンドリサーチ/トレンドハック
「動くフォロワー」のベースができたのであれば、フォロワーの動きを利用してTwitterのトレンドを活用した新しい価値あるリーチに繋げることができます。トレンドに入っている時世やイベントのハッシュタグを使った投稿を作ることで、「動くフォロワー」が即座に反応し、トレンド内で検索したときに話題の投稿に掲載されることが期待できます。これにより、トレンドを検索している人の目に止まり、価値があればフォローまで繋げることが可能です。
また、「動くフォロワー」の協力を活用して、届けたいプロモーションのハッシュタグをトレンドに入れることもコントロール可能です。この際にキャンペーンインセンティブは必要になるかもしれませんが、金券などではなく、あくまで自社商品であることが重要です。ただし、トレンドに入れるワードは企業の一方的なものではなく、届いてしまった人が喜ぶか、場合によってはそこから二次的な波及投稿が生まれるか、などのコミュニケーション波及も考えて設計する必要があると考えます。
日本グミ協会では、こどもの日にコロナ関連などのネガティブなハッシュタグを上位にしたくないという思いから「動くフォロワー」の協力を得て、「#わくわくグミグミ」というハッシュタグをトレンドに入れてもらうことをお願いし、日本中のこどもが喜ぶであろうワクワクする楽しいグミをインセンティブにしました。
https://twitter.com/japan_gummy/status/1257461040352309250
結果として、「こどもの日」、「子どもの日」に続いて「#わくわくグミグミ」は3位のトレンドを取ることができました。
いま一度ファンのための統合
ソーシャルメディアマーケティングが成熟し、独自進化を遂げた結果、専門部署やプラットフォーム別など細分化され、全体マーケティングや顧客から分断されてしまっているのではないか、そういった危機感をコロナ禍と共に感じています。いま一度企業としてソーシャルメディアの位置づけを顧客視点と企業が本当に伝えたいことで考えた時に、フォロワーベースになってしまっていないか、ソーシャルメディアで数字が出ればきっと何かに繋がるはずという、なんとなくの期待感から狭く向き合ってしまっていないでしょうか。
これまで「ソーシャルメディアといえば拡散性がある」、「フォロワー数こそ戦闘力」という考えが先行していましたが、2021年以降、ますます商圏が小さくなり、スモールマスをどれだけ作っていけるかというパーソナライズされたマーケティングや市場作りが主流になってくると考えています。消費者はより狭くなり、その趣味嗜好をすべて網羅することはできません。ゆえに、いま顔が見えて動いてくれるフォロワーを大切にし、そこから真のファンベースマーケティングに繋げていくことが、これからの時代に求められるソーシャルメディアマーケティングだと考えます。
この記事の著者
DIGIFUL編集部
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