コロナ禍によるデジタルシフトは、リアルにおける生活者の購買行動も大きく変化させました。そうした中、リアル店舗を抱える企業は、生活者にどのようにアプローチしていけば良いのでしょうか?今回は、DOTZ CEO稲益仁氏を迎えて、近年小売・サービス業界を中心に大きな注目を集めている「LINEミニアプリ」について、注目されるに至った背景、既存のネイティブアプリとの比較、それを踏まえた活用メリットなどをお話しいただきます。
DOTZ株式会社 代表取締役CEO
稲益仁
1981年11月11日 福岡県生まれ
出版社でのデザイナー、人材エージェントでの営業を経て、2006年にサイバーエージェントへ入社。通販企業を中心にプランナーとして活動した後にCRM局、LINE局などを立ち上げ局⻑を歴任。LINE局にて3年で売上高を10倍に伸ばし、代理店シェア1位を獲得。2019年末に同社退職。
コロナ禍は生活者の購買行動を変えた
中野:
稲益さんは大手ネット広告代理店でEC業界の新規顧客獲得のマーケティングからCRMまでを長年担当されており、その後消費財メーカーのマーケティング、販促担当に転身し、通販・小売事情に精通されています。生活者の行動は、コロナ禍を経て、どのように変化したとお考えですか?
稲益:
「計画購買」の顧客が増えたと感じています。計画購買というのは、小売・流通業界独特の用語で、来店前に「このメーカーの、この商品の、このサイズ(色、香り、パッケージなど)を買う」と、事前に購入したい商品を明確に決めてから来店して購入する行動をいいます。
それを強く実感することが、2021年頃にありました。当時私は、大阪にあるライフスタイルショップの責任者をしており、AIカメラを活用して店前の通行量と入店者数をカウントして、どういったお客様が来店し、購買しているのかを計測しました。
計測データから判明したのは、入店率の低さと、入店数と購入者数で計算したCV率の高さでした。つまり、明らかに買う気のあるお客様しか入店していないということです。計画購買が多くのお客様の間で習慣化しつつある状況を目の当たりにした気がしました。また、同時期のドラッグストアでの消費行動も、やはり、事前にチラシを見て何を買うか決めて、必要なものだけ買うという計画購買のお客様が目立ちました。
計画購買と対になる言葉に「非計画購買」があります。何を買うか決めずに来店する顧客の購買行動の総称です。従来、小売の世界では、非計画購買の顧客をいかにお店に呼び込み、かつ衝動的に購買いただくかが、売上アップのひとつのカギでもありました。しかし、街をブラブラ歩いて、店頭の情報に気づいてふらりと入るという行為がコロナ禍で激減し、同時に計画購買が習慣化した顧客が増えた今、特に店舗をメインに事業展開する企業は、この変化に合わせた対応をしていく必要があると思っています。そのために必要なのが、店舗のデジタル化というわけです。
(図1:計画購買と非計画購買)
引用元:https://mag.sendenkaigi.com/hansoku/202103/key-to-impulsive-buying/020723.php
中野:
なるほど。購買行動の変化に対応するために「店舗のデジタル化が必要だ」というと、課題が具体的になりますね。具体的には、どの部分がポイントになりますか?
稲益:
店舗に来る前の情報収集の段階が最も大事なタッチポイントになるわけですから、これまで以上に、デジタルを活用した情報発信と、顧客との直接的なコミュニケーションが重要になると思っています。いかに、来店前の顧客に対して、伝えたい情報をしっかり伝えられるかがカギになるはずです。
ネイティブアプリの課題
中野:
顧客とのコミュニケーションにおいては、現状、ネイティブアプリ(スマートフォンやタブレットに、Google PlayやApp Storeなどのアプリストア経由でインストールして使うアプリ)が中心的な役割を担っています。ネイティブアプリの現状の課題について教えてください。
稲益:
コミュニケーション施策の実施に際しては、今なお、まずはネイティブアプリを作るところから始める企業は多いです。その一方、制作期間が長く、コストも大きくかかるというデメリットもあります。最大の課題は、今はアプリが飽和状態で、インストールハードルが非常に高いということです。
せっかくインストールしていただいたとしても、その先継続して使ってもらえる確率は非常に低い。例えば、NTTコムのプッシュ通知の許諾率に関する調査からは、ネイティブアプリをインストールしたユーザーのうち、プッシュ通知をオンにするユーザーは23%。つまり、アプリを介して顧客とリアルタイムな接点を持てるのは、アプリをインストールしたユーザーの2割程度ということです。
(図2:公式アプリのプッシュ通知設定)
また、リプロのデータによると、ネイティブアプリはダウンロード3日以内に77%のDAU(一日あたりのアクティブユーザー数)を失い、1カ月後の定着率は10%程にまで落ち込みます。せっかくインストールされても短期間でアンインストールされているのが現状ですので、高いコストに見合うだけの価値を維持していくのは非常に難しいプロダクトだと思っています。
中野:
アプリのインストールを促進する手段に、ASO(アプリストア最適化)という集客方法がありますが、実際はあまり劇的な効果は得られておらず、結局集客は、ユーザーのエンゲージメントや口コミ頼りが現状です。ただ、稲益さんもおっしゃるように、今はアプリが本当に飽和状態で、エンゲージメントも口コミも集まりづらくなっています。我われから見ても、ネイティブアプリの集客は、かなり厳しい状況にあると言えます。
稲益:
ネイティアプリの現状の課題をまとめると、以下の通りになります。
もちろん、これだけのコストをかけてもなおメリットがある場合もあります。しかし、こうした課題がハードルとなって、顧客とのコミュニケーション施策が不十分になってしまうのだとすれば、そこは検討しなくてはならないでしょう。そこで我われは、LINEミニアプリの活用を強くおすすめしています。
LINEミニアプリとは
中野:
LINEミニアプリの特長を教えてください。
稲益:
LINEミニアプリとは、LINE上で、無料で公開できるWebアプリケーションです。アプリ内アプリの形で起動し、顧客とコミュニケーションを取ることができます。
最大の特長は、国内ユーザー数9200万を誇る巨大プラットフォームである、LINE上で起動するということです。ネイティブアプリの課題のひとつである「インストールハードルが高い」も、LINEミニアプリならば、そのハードルはもうすでに解消されているわけです。
では、LINEミニアプリがネイティブアプリにすべて置き換わるべきかというと、そうではありません。私は、それぞれの特長を生かして、併用すべきだと考えています。
企業からすれば、これまではネイティブアプリで一律にコミュニケーション施策をおこなっていたところを、LINEミニアプリと併用することで、ネイティブアプリではロイヤルユーザー、LINEミニアプリではライト・ミドルユーザーと、きめ細やかなアプローチが可能になります。
(図3:ネイティブアプリとLINEミニアプリ ユーザー特性の違い)
例えば、店舗で何か買い物をする時に、会員登録の案内を受けることがあります。ネイティブアプリの場合、会員登録の際に必要情報を入力する手間がありますが、LINEミニアプリなら、そのアプリを「利用許諾」するだけで完了です。こうした導入の手軽さは、ネイティブアプリを使いこなせないライトユーザーには、圧倒的に刺さるポイントです。
(図4:ネイティブアプリとLINEミニアプリ 会員登録フローの違い)
LINEミニアプリの可能性
中野:
手軽に導入できるLINEミニアプリへの注目は大きくて、「LINE BIZ DAY 2022」での発表によると、2022年3月時点でのLINEミニアプリの導入企業/店舗は4000。2021年9月時点での600と比較しても増加スピードが桁違いです。
今後さらに増加していくと考えられますが、現状と比較して、今後はどんな業種を中心に、どんな使われ方をされていくと、想定されていますか?
稲益:
現在、LINEミニアプリを活用いただいているお客様の大半は、飲食店を中心とするオフライン店舗が中心です。主に、テイクアウトの受注、店内飲食時のテーブルオーダー、入店前の順番待ちのための整理券発行、会員証など、オフライン店舗のデジタル化を補完するために導入されているケースが目立ちます。
(図5:LINEミニアプリの活用イメージ)
その一方、すでに2017年からミニアプリを展開している中国のWeChatを見ると(WeChatでは、ミニプログラム[小程序]というソリューション名で展開している)、ソーシャルコマースとしての活用がメインで、LVMHやNIKEといった世界的ブランドがこぞってECアプリを展開するほか、TikTokのようなサービスがメディア展開するなど、オンライン領域のさまざまなサービスが参入しており、スーパーアプリ化しています。
LINEミニアプリでも、販促キャンペーン用のアプリを提供する事例なども出てきており、今後は、オンライン領域をターゲットとしたアプリが増えてくると思います。
将来的な話ですが、多くの企業にLINEミニアプリを使っていただくことでLINEがスーパーアプリ化していけば、小売の世界は、LINEミニアプリとLINE公式アカウントだけで完結し、Webサイトがいらない世界になるかもしれないと、私自身は考えています。日常生活に必要なことがLINEだけで完結する未来は、案外早くやってくるかもしれません。
ミニアプリメーカーをリリース
中野:
LINEミニアプリへの注目が高まる中、DOTZ社は「ミニアプリメーカー」を2022年4月にリリースしました。これはどういったプロダクトですか?
稲益:
「ミニアプリメーカー」は、LINEミニアプリとLINE公式アカウントの開発/運用をパッケージ化したSaaS型プロダクトです。月額5000円でLINEミニアプリがノーコードで開発できるうえ、LINE公式アカウントの運用もできるのが最大のウリで、今のところは、実店舗で展開する飲食・サービス業界を中心としたSMB(中堅中小企業)に最適なプロダクトだと思っています。
LINEミニアプリの開発会社は少なくありませんが、運用までをセットで提供できるのは、長年エンタープライズ企業のLINE公式アカウント運用をおこなってきた実績を持つ我われだからこそで、そこが一番の訴求ポイントでもあります。
また、ミドル・エンタープライズ向けに特化した「ミニアプリメーカープロ」を、2023年リリースに向けて現在準備中です。こちらはスクラッチ開発とセットになるので、予算が潤沢な大企業向けですし、そういった企業を多く顧客に抱えるアイレップにも、ぜひご協力いただければと思っています。「ミニアプリメーカー」「ミニアプリメーカープロ」の2つで、我われはLINEミニアプリのノーコードプラットフォームを作っていきたいと思っています。
中野:
エンタープライズ向けの「ミニアプリメーカープロ」は、我われにもお手伝いできる余地がありそうで、興味深いですね。LINEミニアプリを起点としたOMO(Online Merges with Offline)の提案など、さまざまな可能性が考えられそうです。
(図6:LINE中心の顧客体験(CX)とLINEミニアプリの領域)
DOTZ×アイレップのシナジー
中野:
LINEミニアプリもLINE公式アカウントも、リードナーチャリングのためのツールであり、ここに特化して事業展開しているのがDOTZの強みですよね。対してアイレップは、Google検索を中心に、リードジェネレーションの効果を最大化するノウハウを多数持っているところに強みがあると思っています。
この2社の強みを連携することで、クライアント企業の売上の最大化に貢献できると思っておりますが、稲益さんはこの2社のシナジーをどのようにお考えでしょうか?
稲益:
私も、お互いに得意領域が異なる2社だからこそ、そのシナジーはとても大きいと考えています。
例えば、DOTZはLINEに特化したマーケティング支援会社なので、LINE公式アカウントの「友だち」を増やすことがひとつの大きな目標であり、そのための手段としてLINEミニアプリや、LINE広告にも取り組んでいます。
ただ、LINE以外の媒体での集客ももちろん重要で、実際、Google検索やInstagram、ディスプレイ広告からLPを経由して、LINEに送客するという流れも最近目立っています。その集客部分を、Webの集客ノウハウを豊富に持つアイレップに担っていただくのは、非常に大きなシナジーが生まれるのではと思っています。
また、2019年のLINE社とZホールディングス社の経営統合により、さまざまなデータ統合施策が実施されていますが、こうしたデータ融合は今後さらに進んでいく予定です。そういう意味では、SEO周りに強いアイレップとは、検索面を活用したLINEとの共同運用も期待できると考えています。
今後は、LINEで配信していくオウンドメディアを展開していきたいとも思っているので、アイレップのSEOコンサルと絡めてセットでご提案していくなど、お互いの強みを組み合わせることで、連携シナジーを出していけるのではないかと考えています。
中野:
DOTZの他のサービスでも、我われの強みを生かしたお手伝いができそうなことが色々ありそうですし、今後の展開が楽しみですね。まずは、「ミニアプリメーカープロ」のリリースを楽しみにしております。
▼関連資料
LINEミニアプリ メリットと活用シーン
本資料では、LINEの中に内包されるウェブアプリケーション【LINEミニアプリ】をご紹介します。接客サービスのデジタル化や来店施策など、安価かつ効果的に店舗のデジタル化を実現します。
この記事の著者
中野 知己
2016年にアイレップへ入社。これまで、金融/求人/不動産/自動車/医療/保険など幅広い業種のサイトにおいてSEOコンサルを経験。順位改善による流入増加はもちろんのこと、ウェブ収益を約5,000万円から約2億円へ成長させた実績を持つ。
2019年にSEOを主軸としたSX(サーチエクスペリエンス)部署のマネージャーに就任。 2022年にSNS運用やCROを主軸としたCX(カスタマーエクスペリエンス)部署のマネージャーを兼任。
2016年にアイレップへ入社。これまで、金融/求人/不動産/...