ロケも合成も不要。最新のバーチャル撮影技術で、動画広告の最適解を“科学する”

2021.08.03

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今年6月、最新のバーチャル撮影手法「バーチャルプロダクション」を用いた広告映像が発表されました。海外ロケなどが困難となったコロナ禍において、スタジオ内で多様なシチュエーション撮影を可能にするこの技術が注目を集めるなか、「バーチャルプロダクションを使った映像制作には、撮影技術のDXをこえた価値がある」と語るのが、今回制作を手掛けた株式会社アイレップの平氏と米田氏。

インターネット広告で培ったデジタルマーケティングの知見を武器に、「科学するテレビCM」を開発するアイレップならではの視点と、映像広告の未来についてうかがいました。

関連記事:「科学するテレビCM」~デジタルの手法でマスに挑戦する

平 知己
株式会社アイレップ エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター

米田 雄史
株式会社アイレップ プランナー

※本記事は博報堂DYグループの「生活者データ・ドリブン・マーケティング通信」より転載しました。

リアルとバーチャルがシームレスに連動し、CGの中で撮影しているよう

−はじめに、「バーチャルプロダクション」という技術について教えてください

平:
CGでつくった背景データを大型のディスプレイに映し出して、その映像をバックに実際の演者が動いて撮影していく。8K/440インチという高精細大型ディスプレイと、背景とカメラの動きを同期させるリアルタイムエンジンなど、最新の技術が結集して実現したシステムです。今回は、ソニーPCLが提供するソリューションを使用しています。

以前はブルーバックやグリーンバックで撮影して、後に背景を合成するという処理が必要でしたが、「バーチャルプロダクション」では合成不要。リアルな空間とバーチャル空間がシームレスにつながっているので、CGの中で撮影をしているような効果が得られます。

ブルーバックではなく、実際の背景を映し出して撮影するので、仕上がりのイメージをリアルに再現できる。

米田:
技術的なことを言うと、これまでの合成では、髪の毛と背景の境界を区別して認識し、背景だけに綺麗に別の背景を合成するのが難しかったり、光を反射するものや透明のグラスに入った液体、なおかつシャンパンのように泡の立っているものは合成が困難であったりするため避けられていたのですが、この技術を使えば自然な映り込みも表現できるのが特徴です。

−実際この技術を使って広告を制作してみて、反響はいかがでしたか?

米田:
今回制作したのはアパレルブランドの春夏シーズン広告だったのですが、薄手の生地や麦わら帽子など、透け感のある素材も自然に背景になじみますし、映像が影響して洋服の色がブレることがない。ファッション広告では特に色の表現に気を使いますが、今回はクライアントからの色修正もほとんどなくフィニッシュしました。

平:
さきほど米田からもありましたが、これまで合成では避けられがちだった、サングラスの映り込みとか、透けた素材とか、グラスにシャンパンとか…。そういう今までできなかったことをいろいろ盛り込んでいるんです(笑)。細部がリアルに再現されているので、全体としても非常に自然な仕上がりになっていると思います。

「バーチャルプロダクション」はロケの代替品ではなく、勝ち筋を見つけるツール

−それだけリアルに表現できるとなれば、コロナ禍で海外ロケなどがむずかしくなっている今、多くの需要がありそうですね

平:
もちろん、実際ロケに行かなくてもさまざまなシチュエーションで撮影できるというのは大きな利点です。マジックアワーのように1日数十分しか狙えない時間帯も制限なく撮影できますし、天候に左右されることもない。でも、我々アイレップとしてもっと重要だと思っているのは“勝ち筋を見つけるためのテストができる”というところなんです。

−くわしくきかせていただけますか?

米田:
「バーチャルプロダクション」をロケ撮影の代替品として捉えるというよりは、広告を科学するためのツールとして使う、と考えると、広告業界にとってより大きな変化になりますよね。

平:
僕らはもともとインターネット広告を得意としている会社なので、ABテストなどデータにもとづく検証を繰り返して成果を出していくというのが本筋。例えば、同じリビングのシーンでも、大自然をバックにしたほうがいいのか、都会の高層階をイメージさせたほうがいいのか、何パターンもつくって試したいんです。でも実際の撮影では時間も予算も限られているのでむずかしい。「バーチャルプロダクション」の技術を使えば、30分程度のセットチェンジでまったく違うパターンを撮影することが可能になります。

−撮影技術としてのDXという側面と、広告クリエイティブのDXという側面があるんですね

米田:
クリエイティブのDXという意味では、僕らが手掛ける映像広告は「バーチャルプロダクション」以外にも複数のツールを駆使してつくられています。例えば、Google Analyticsで1秒ごとの視聴率を厳密にチェックして、どういうカットで離脱しているかを検証、改善したり、AIを使って人の視点の動きを予測したり。

平:
人の視点がどう動くか、どうすれば見て欲しいものを見てもらえるかがわかってきているので、狙い通りに視線を誘導するため「このビルをもう少し左に移動しよう」とか、「この電灯の光を点滅させよう」とか、現場で微妙な調整をしながら画をつくり込んでいけるのも魅力。実際のロケでは絶対にできませんから(笑)。

プロトタイプ的につくるという、実験室のような活用法

−本当に“科学”でCMをつくっているんですね

米田:
一見すごい画が撮れるツールに見えがちなんですが、いちばんにクライアント企業がよろこんでくれるのは“科学できる”こと。せっかくだからいろんなシチュエーションを試してみて、どれが最適かを探ってみたいと、運用手段として興味を持ってくださいます。

平:
運用型の思考をもっている方は、カスタマージャーニーのどの部分を描いたらいいか、1度ぜんぶやってみたい、と夢見ている。それが叶うツールだと思います。

僕らもどれが本当にユーザーさんに届く表現なのかわかるまでは、なるべく低予算でライトに回していくのがいいと思っているんです。プロトタイプ的にいろいろ試してみて、勝ち筋が見つかったらドンと予算をかけてロケに行ったり、タレントさんを起用したりすればいい。その手前の実験室のような活用の仕方にも、充分価値があると思っています。

科学を味方にできるクリエイターを育てたい

−スタートアップなど、予算を抑えながら動画マーケティングを行いたい企業にも向いていますね。さいごに、“科学”で広告をつくることで、クリエイター側にはどんな未来が待っているでしょうか?

米田:
僕たちは今、たくさんのデータや解析ツールを使ってクリエイティブをつくっていますが、それらひとつひとつを科学することが、クリエイターにとって大きな武器になると思っています。クライアントにちゃんと効果のある広告を提案しながら、自分の考えを組み込んでブラッシュアップできる能力を養っていきたいですね。

平:
僕はやっぱり、科学とアートのいいバランスでやっていこうよ、というのが基本。X線が発明されたとき、いろんな写真家やアーティストがそれをおもしろがって新たなアート分野ができたという話がありますが、そんな感じでとりあえずいろんなものを解析してみようぜ、みたいな気分でいい。僕らのつくっているツールが、どこまでクリエイターをアシストするインテリジェンスになり得るかを探っている最中ですし、そういう科学を味方にできるクリエイターをどれだけ育てられるか、今アイレップで実験しているところと言えるかもしれません。

 


平 知己 平 知己
 株式会社アイレップ
 エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター

 

 


2002年博報堂にコピーライターとして入社し、2017年からアイレップに参加。科学するテレビCM、AIを用いたオートクリエイティブなど、デジタル時代のマーケティングの再定義に挑戦する。

米田 雄史

 米田 雄史
 株式会社アイレップ プランナー

 

 

 

博報堂プロダクツで映像プロダクションマネージャーを務めた後、アイレップに入社。現在は動画制作を中心にプランナーとして活動する。

 

この記事の著者

DIGIFUL編集部

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