本記事は株式会社セレブリックス 今井晶也氏が執筆した「シン・セールス理論の完全解説|ニューノーマルで選ばれる、購買体験とセールスコンテンツ」からの転載です。
新時代の営業スタイルである「シン・セールス理論」を徹底解説する全5回の連載となります。今回はその第3回「営業手法ごとの営業プロセスの設計」をご紹介いたします。
※シン・セールス理論では、「B2Bセールス」「新規顧客開拓」を攻略対象と定め提唱しています。予めご理解のほどお願い申し上げます。
前回までの記事はこちら
【全体】
ここからは購買体験を引き出すための営業プロセス設計について解説していきます。今回シン・セールス時代に描くジャーニーマップということで略して
#シンジャニ (シン・セールスジャーニー)
と呼ぶことにしました。皆さんもどうぞ #シンジャニ と呼んでください。
なお、営業プロセスの考え方や 顧客に抱いて欲しい購買体験は、商文化・業界・慣習・エリア・商材・ターゲットによって大きく異なります。
大切なことは、自社の商品・価値提供において、自社にフィットする #シンジャニを描くことだと覚えてください。
今回は商談経路別の代表的な #シンジャニ をご紹介します。
B2Bの新規開拓営業における代表的なシンジャニ
全体をまとめると上図のようになります。非常に細かいですが、後ほど商談チャネル(商談獲得経路)ごとのプロセスを細かく解説しますのでご安心ください。
まず、アポイント(商談機会)の獲得経路ごとに、描くプロセスが異なるという点に注目ください。
ご覧いただいたように、最適な購買体験を作るには、1社でひとつのシンジャニではなく、リードの獲得方法別に作成します。
細かく作れば作るほど、購買体験とコミュニケーションのマッチング精度は高まりますが、作るのに時間がかかります。
こうした取り組みは小さく始めて成功体験の輪を広げるのが最も社内浸透しやすいという側面を持ちます。そうした意味では、シンジャニ作成のトライとしては、商談獲得経路別に作成・見直す ことをおススメします。
【アウトバウンド】
アウトバウンドの商談獲得における #シンジャニ をご紹介します。
まだ接点のない企業に対して新たにリードを獲得するパターンと、既にリード(名刺や顧客情報)はあるが、フォローも何もしていないまだまだ客(まだまだ見込みの薄い客)に対して、こちらからアクションをしかけて商談機会を獲得する方法です。
商談機会の獲得は「商談機会の情報を収集」する前工程と、「商談機会を獲得」する後工程にわけて考えます。
また、新たな変化としては、リスト作成やリスト管理にテクノロジーの力を活用するケースが増える点は注目です。
例えばリスト作成。これまでの調達方法はリスト会社から購入する/自分で作成する等がありましたが、セールステックが発達した今では、優先してアプローチする企業を自動で提供してくれるツールもあります。
また、最近ではDMP(※)と呼ばれる“インターネット上に溜った様々なデータを管理するプラットフォーム”を活用することで、特定のWebサイトを見ている「今、購入を検討している」企業リストも手に入ります。
※Data Management Platform(データ マネジメント プラットフォーム)
そして商談機会を獲得するためのアタックの方法としては、最近勢いがあるのがフォームマーケティングツールです。いわゆる問合せフォームに効率的にアプローチできるセールステックなのですが、電話だけで接触ができにくいアフターコロナの営業活動では注目されています。
ただし、同じような手法でアポを取ろうとする企業が増えるという事ですので、見られにくくなったり、獲得率は下がる可能性があります。
重要ターゲットへのアタックは1to1でオリジナルメッセージを送るなど、信用される人になるためには、量と質のバランスは重要です。
また、アウトバウンドセールスでは、顧客の検討タイミングを把握することが獲得率に大きく影響しますが、営業パーソンが使えるマーケティングオートメーションやメール配信ツール、そして送付した資料の閲覧状況を可視化するセールステックツールも増えてきています。
このようなツールを活用して、ベストなタイミングで価値訴求することは、「この人から 今 買いたい」という購買体験を引き出す、とても大切な考え方となります。
ただしこのような話をすると必ず勘違いが起こってしまうのですが、決して営業電話がなくなるわけではありません。営業電話の活用の仕方が変わるのです。前提として多くの場合、PUSHの新規営業は買おうと思っていない顧客に対して、コミュニケーションを通して行動変容を促します。買おうと思っていればインバウンドが来ますし、すでに比較検討している筈です。
このように買おうと思っていない人に、新たな気付きを与えたり、購買に対する反論を覆すには直接対話ができる電話が強いのです。
テクノロジーやツールを活用するのは、購買意欲がある顧客に接触したり、顕在的なニーズを持つ企業に効率よくアタックする「確率」を上げるための取組みであり、PUSHの営業電話がなくなるという話や、コミュニケーション手法に優劣が付くという話ではありません。
【インバウンド】
続いての商談経路別の #シンジャニ 解説はインバウンド(反響型)です。
いわゆる 「ファネル型」とも呼ばれる、SaaS・IT系・サブスクリプション型のビジネスモデルのBtoBマーケティングで良く取り入れられる手法です。
アウトバウンドとの最大の違いは、インバウンドが「購買者側がいずれかの興味・関心があって問い合わせやアクション」を行っているのに対して、アウトバウンドはアクションを行うのが営業サイドであるという点です。
しかし反響営業であれば必ずしも成約率が高いかといえば、今の時代は一概には言えません。サービス提供者は、少しでも早くニーズのある顧客、または将来的に見込みのある顧客に接触しようとし、購買検討中の企業以外の顧客情報(リード)も集めようとします。
そのため、獲得できた沢山のリードの中から「今すぐ客」「そのうち客」「まだまだこれから客」「見込み無し」「ターゲット外」といったリードの選定が重要になります。
※リード(見込み案件情報)のスコアリングの名称は企業それぞれです
まずリード獲得で重要になるのは、マーケティングコンテンツの活用です。
企業の温度感を確かめたり、検討ステージに応じた様々なコミュニケーションを仕掛けるには、顧客と接点を持つコンテンツに、それぞれ意味を持たせることが重要です。
例えば、自社(売り手側)で調査した業界動向や研究データなどの資料が閲覧されていたとします、この場合、閲覧者(買い手)に購買意欲は高くなく、単純に勉強や情報収集の可能性があります。そのような状態の人にいきなり電話をかけて「アポ下さい!」とアタックしても、顧客はゲンナリしますし、効率面で見れば良くありません。
一方で、〇〇商品の競合比較表/他社との違い というダウンロードコンテンツを閲覧されたとします。この場合、閲覧者(買い手)の購買意欲は高い可能性があり、商品の比較検討をしている可能性があります。
こうした場合は、「デモンストレーションや事例集など、比較検討の材料をお持ちしますのでより短い時間でご検討いただけます」といった形でアポイントにするのが良いでしょう。
これがコンテンツに意味を持たせるということです。
そしてインバウンド営業においても、コミュニケーションの取り方にテクノロジーミックスが浸透してくるのは間違いないでしょう。
テクノロジーでいえば、引き続き マーケティングオートメーションやコンテンツマーケティングなど顧客育成をサポートするツールと方法に注目が集まります。競合も沢山コンテンツマーケティングを仕掛ける中で、一人ひとりの顧客にとって、今、価値のあるコンテンツ( for you メッセージ )を届けられるかどうかが肝心です。
【ソーシャルセリング】
会話経済を助長する新たな取り組みのひとつとして注目されてるのがソーシャルセリングです。いわゆる「人脈営業」のことで、ネットワークを活かした紹介営業やリレーション営業自体は古くからありました。
進化した点はSNSやオンラインサロンといったコミュニティの築き方の変化と、「まだ直接会ってない人」とも関係性をつくれる点です。
上図はソーシャルセリングによる商談機会獲得のための営業プロセスとなりますが、コミュニティづくりの方法は上記だけでは網羅しきれません。
SNSやチャットも特徴をもったツールが沢山出てきています。
自社または業界の啓蒙活動や認知促進を図る上で、ベストなプラットフォームを選択すると良いでしょう。
ただし、ソーシャルでの関係作りやセールス活動は手軽に始められる反面、プライベートでの利用者が多いため、私たちが発信する内容・コミュニケーションの取り方を間違えると悪い方に作用していきます。
特にSNSは口コミや炎上といったリスクも常に潜んでいます。
シン・セールス理論の考え方にもあるように、SNSなどを闇雲にアタックするリストとして活用するのではなく、相手が 役に立つ・意味がある・価値を感じる といった情報やコンテンツを届け、ファン作りや「信じられる人」になるためのコミュニティづくりを目的にしましょう。
< ワンポイントアドバイス > ソーシャルセリングとしてのSNS活用、およびコミュニティを築く上で、私が大切にしている点をまとめました。 ・読み手、視聴者の立場にたって想像する。配慮をする ※上記は一例です ちなみに、ある程度の認知や応援してくれる方が増えていくと、ニーズがありそうな企業に「商談しませんか??」という提案をすると何故か喜ばれたりします。まさにカンバセーションエコノミー、信じられる人から買いたいとはこういう事なのかもしれません。 |
【ABM・大手企業】
続いての解説はこれまでとは少し切り口が異なる、ABMやエンタープライズ(大手企業)攻略についてのプロセス設計です。
考え方として、インバウンドやアウトバウンドが接触の「手法」を切り口に分類(PUSHかPULLか)されているのに対して、大手企業の攻略等に関しては「顧客アカウント別」に割り振られていると考えましょう。
攻略対象が必ずしも新規顧客に限られなかったり、大手企業から売り込まずに反響を獲得するPULLの仕組みを作っても良いわけです。
大手企業の攻略は導入や運用に利害関係者が多くなることがポイントです。
一度に不特定多数の方が参加した商談では、ヒアリングや課題設定の精度が落ちます。これを防ぐためには顧客の利害関係者をカテゴライズして個別(最小人数)に攻略して課題設定と反論対応をしていくことです。
< 利害関係者のカテゴライズ例 > 決裁者…最終決定者や意思決定が行われる会議体 ※上記は推進者と助言者が同じ人のように役割が被ることもあります |
※キーパーソン分類は、分かりやすさを重視して日本語にしています
いずれにしても大切なことは、利害関係者を把握することではありません。
導入したいと考えているキーパーソン(推進者)が、社内営業や調整をする際に出てくる「反論」「買わない理由」を無くすことです。
利害関係者それぞれが抱く、異なる「買わない理由」を直接的にまたはキーパーソンと協力して、個別に解消していくことが大切です。
【商談】
ここからは、いよいよ商談プロセスです。
商談のプロセスをおおまかにデザインすると下図のようになります。
大切な点を解説いたします。
前述したとおり、シン・セールスでの商談は、「顧客の現状や顕在課題の下調べは商談前に、商談本番では事前情報を基に、より深い問いかけやディスカッションの場」と位置付ける必要があります。
そのため、商談前に事前にアンケートや資料を共有し、当日ディスカッションする内容を決めておく…という手段は有効です。
そして、再三登場していますが、商談のコミュニケーションが「会うことが前提」から「必要な時に会う」に変わっていきます。
例えば、
初回商談は非対面(オンライン)で、具体的な提案時に訪問する
こちらは、企画した内容に対して意見交換やディスカッションをする際に有効なプロセスの設計だと言えるでしょう。
また、ターゲット顧客の購買スタイルにおいて、社内において意思決定者が会うことにこだわりをもっていたり、高額な商品を扱う際にも取り入れたい考え方です。
すべてオンラインで商談する
電話やオンラインなどの非対面で営業活動を行うスタイルがこちらです。CTI、オンライン商談システム、動画といったセールステックツールの活用でリモートで働く営業パーソンのスキル統一やオペレーションを最適化することが重要です。
初回商談は対面商談で、具体的な提案時は非対面(オンライン)する
この営業プロセスは、顧客にニーズがまだ定まっておらず、深いヒアリング(ファクトファインディング)による課題発見が必要な商談や、顧客のニーズに合わせて多種多様のソリューションを提案できる商談に向いています。
難易度の高い課題発見はフェイストゥーフェイスで実行し、企画内容が決まったプレゼンテーションはオンラインで実施するというパターンです。
全て対面で商談を実施する
勿論対面商談がなくなるという極論ではありません。
ただ説明はあえて必要ないと思いますので、割愛させていただきます。
そして、具体的なオンライン商談の勝ちパターンのつくり方と、セールスコンテンツの解説については、連載の第5回で説明させていただきます。
次回は「【第4回】新時代の営業スタイル「シン・セールス理論」~オンライン商談の勝ちパターンを作る~」をご紹介します。
この記事の著者
今井 晶也
株式会社セレブリックス
営業企画本部 本部長
セールスエバンジェリスト
セレブリックスの首席エバンジェリストとして、セールスモデルの研究、開発、講演を行う。商品内容に依存されない、B2Bセールスの普遍のバイブルとなる“顧客開拓メソッド™”を執筆、制作。
Everything DiSC®️の認定トレーナーであり、専門は営業、プレゼンテーション、コミュニケーションスタイルと多岐に渡る。
現在は営業企画本部 本部長として、セレブリックスのコーポレートブランディング、事業企画、マーケティング、営業の統括責任者を兼任。代表的な活動(講演内容)として、長野県の中小企業振興センターとの製造業向け新規開拓講座や、宣伝会議主催のセールスコンテンツ講義、営業の№1を決める大会であるS1グランプリの審査員等、多方面で活躍する。
株式会社セレブリックス
営業企画本部 本部長
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