生活者のアクションを促す動画広告の作り方とは

2024.04.01

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株式会社アイレップはYouTube Works Awards Japan 2023において、「Action Driver部門」の部門賞を受賞しました。受賞したのは三井住友カードの広告動画「学パ、あげてこ⤴︎」。今回は本動画の制作チームの主要メンバーである米田 雄史、岡田 宙輝の二人に、制作過程について、さらに制作の裏付けとなるMade for Mediaの思想を中心に語ってもらいました。

※Action Driver部門賞とは:YouTube広告を活用して生活者の意思決定を後押しすることで行動を促すことに成功し、ビジネス目標を達成したキャンペーンを表彰する賞

ぱっと見で印象に残るグラフィカルな動画を目指した。

まず今回の「学パ、あげてこ⤴︎」の動画制作において、どんな役割を果たしたか教えてください。

米田:

私はクリエイティブディレクターとして、企画の方針や設計、全体のプランニングを担当しました。インフルエンサーのキャスティングも今回は重要な要素だったので、社内のスペシャリストに参画してもらい、舵取りを進めました。

岡田:

私はアートディレクターとして、提案段階でのアイキャッチの制作から動画全体のグラフィックまで、アート面全体を担当しました。

今回受賞した動画を初めてみたとき、メガバンクグループ発行しているクレジットカードのプロモーション動画としては非常にとがっていると感じました。なぜこのようなクリエイティブになったのでしょうか。

米田:

まず今回重視したのが、動画を見て好きになってもらうことでした。学生向けのファーストカードなので、そもそもターゲット自身がサービスについて詳しくないし、他社との比較もできない。社会に出て年数が経っている人なら、ポイント還元率を重視する人が多いと思いますが、学生の場合はそうしたものを強く訴求しても刺さりません。だから、まずは学生に刺さりやすい「学パ(学生生活のパフォーマンス)」というテーマを設定し、「三井住友カード(NL)を持つことで、コスパ(コストパフォーマンス)とタイパ(タイムパフォーマンス)が上がり学パが上がる」ことを印象づける動画を提案しました。

何本かニュアンスの異なるクリエイティブを提案したのですが、基本的には全部とがったものだったと思います。今回は情報処理能力の高いデジタルネイティブの学生を対象にしていたので、最初の数秒で「どういうものなのか」「何が良いのか」を強くインパクトとして残すことを重視しました。具体的にはサービス概要やカードを保有するメリットに対する強いインパクトを残せるように、全てのクリエイティブを統一しました。

岡田:

そうですね。私も最初の入り口は、やはり若者に興味を持ってもらうのが一番大事だと思います。だから、カードの細かい情報は後から自分で調べてもらう前提で、記憶に残るクリエイティブに振り切りました。

制作サイドとしてはクリエイティブで思いっきり遊べたなと思っています。動画だと演出やタレントの表情に焦点が当たりがちですが、ぱっと見で世界観がわかるようにゴリゴリにグラフィックを展開したのが特徴です。提案資料のキービジュアルが次の動画編集でそのまま動き出したぐらい、最初のコンセプトがブレることなくグラフィカルなものになりました。

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岡田 宙輝

Made for Mediaの視点でどんな工夫がありましたか?

岡田:

Made for Mediaという言葉を表面的に捉えると、「媒体ごとに最適なクリエイティブを作る」となりますが、そこから一歩進むことが大切です。今のデジタルネイティブの若者はYouTubeだけ、Instagramだけという見方で媒体を活用していない。複数の媒体間を回遊しています。だから、ターゲットの生活様式を考えた上で設計をする必要があり、今回もそれを意識しながら複数媒体向けの制作をおこないました。

米田:

メディアごとの制作ノウハウとしてよく語られる「YouTubeは冒頭5秒でスキップだから頭に大切なことを入れましょう」とか「TikTokは1秒」とかあるじゃないですか。でも、それを単にノウハウとして使うとすごく浅いものになると思うんですよね。なぜその冒頭で入れることが必要なのかというと、そもそも若者の情報処理能力が非常に高くなっているからです。だから、冒頭で必要な情報を伝えることも大切だけど、こちらが言いたいことだけを一方的に詰め込んでしまうと、「はいはい、広告ね」となって見る気が失せてしまう。だから、今回の動画でもインパクトは重視しましたが、コンテンツとしての面白さを感じてもらえるように、見た結果好きになってくれるようにというのはすごく重視しました。

岡田:

あとはデータをどう使うかというのも重要でしたね。当社はデジタルマーケティングエージェンシーなので、媒体ごとに存在するさまざまなデータをあらゆる観点で分析し、最適解を導きだすことができます。クリエイティブを制作する際もそういったデータも加味しながら形にしていくのですが、あまりとらわれすぎないのも重要だと思っていて。データにとらわれすぎたクリエイティブってすごく保守的なものができ上がるんです。そういったものが求められる場面もありますが、今回のようなとがったプロジェクトだとデータの活用方法は特に重要です。だから、ある程度は自身の経験値や直感を信じ感覚的に作って、作った後の答え合わせ的な感覚でデータを活用しました。

特定の層に刺さるキャスティングをどう実現するか。

くれいじーまぐねっとを起用した理由について教えてください。

米田:

ターゲットが学生で「ファーストカード」というテーマがあったので、身近な友達からおすすめしてもらうくらいの立ち位置がいいんじゃないかな、と。つまり、親近感を持てるYouTubeクリエイターという観点で何候補かピックアップしました。

その中でくれいじーまぐねっとは友達感覚で見られるYouTubeクリエイターでありつつ、すごくキャラ立ちしていて、まさに企画イメージにピッタリでした。

岡田:

今回は最初にすごく派手でグラフィカルな動画にするというコンセプトがあり、それに合わせて見た目に一定の派手さがあるキャスティングを並走しておこなっていました。適切なキャスティングでないと、グラフィックに埋もれてしまう懸念がありましたが、その点、くれいじーまぐねっとは持ち前の華やかさで、グラフィックをよりインパクトの強いものにしてくれました。

米田:

すごく絵映えしていますよね。あと、くれいじーまぐねっとはファンからの好感度がとても高いYouTubeクリエイターです。一般的に好感度の高いタレントを起用することで、商材や企業イメージにも好印象を与えることができるといわれています。くれいじーまぐねっとを起用することで、三井住友カードのブランドイメージに良い影響をもたらすことが見込めたこともキャスティングの大きな後押しとなりました。

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米田 雄史

良いキャスティングはどうしたら実現できるのでしょう?

岡田:

タレントに関する詳細な情報を持っていることが大前提になるかなと。アイレップの場合は、キャスティングチームがいることで、数値以外の情報量やキャスト側に対してのグリップ力などが非常に強くなっていて、結果、クライアント企業にも安心して起用をご決断いただける状況になっていると思います。これまでキャスティングしたことのないタレントやインフルエンサーの起用を検討する時でも、提案段階でかなり正確な情報が手に入るのは強みです。

米田:

私たちのような業界の人間でも、さまざまなジャンルごとに、数多く存在するインフルエンサーを細かく把握し、適切なキャスティングを自力でおこなうことは非常に難しいです。そのため、キャスティングチームの存在は本当にありがたいですね。例えばテレビCMのようなマス広告だと、ターゲットが幅広いので起用する候補者も広く設定できるんですが、デジタル広告の場合、その世代や層に刺さる人ってかなり狭まるんです。ピンポイントで満たすキャスティングとなると実はそんなに選択肢がないですし、世代を外れると全く知られていないということも珍しくありません。でもMade for Mediaという文脈では、媒体のターゲットにピンポイントで刺さるキャスティングをすることは、動画広告制作と切り離せないんです。

そのためありがちなのが、ターゲット層にすごく知られていても提案する側の僕らが知らない、さらにそれを提案した先の事業会社の担当者も知らない、当然決裁を仰ぐ先である上長も知らないという状況です。

この状態で提案を通すのはすごく難しいですよね。フォロワー数などわかりやすい数値の後ろ盾ももちろん用意して話しますが、提案される側としては知らないものを数字だけ出されても、ちょっと怖いじゃないですか。踏み出す勇気をクライアント企業に強いるようなことになってしまう。

でも当社の場合は業界を知り尽くしたキャスティングチームがいるので、より肌感覚で納得いただけるような材料を提供できていると思います。

広告動画でもブランドを好きになってもらえる時代がきた。

今回の制作で刺激的だったことはありますか?

岡田:

今回「Action Driver部門」の部門賞を受賞したことで、自分達の動画がクライアントの事業成長に寄与することができたと同時に、作品としても認められたというのが一番の刺激になりました。いかに面白いものを世の中に生み出すか、広告で遊ぶかをベースにやってきたので、「これで、これからももっと広告で遊べるぞ」という自信になったかなと。ひとつのターニングポイントになったのではないでしょうか。

米田:

媒体ごとに最適な形の制作物を作るのがMade for Mediaですが、必ずしも狙ったとおりの結果が出るとは限りません。今回の施策では、配信するメディアを広げる中で、良い意味で予想外の効果が出た媒体がありました。PDCAをどんなに回して知見を貯めていっても、毎回予想外のことや新しい発見が必ずあって面白いですね。Made for Mediaは奥が深いな、と。

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左:米田 雄史/右:岡田 宙輝

今後注目しているテクノロジーや手法はありますか?

米田:

注目の手法はミドルファネル×ブランド観点、注目のテクノロジーはAI×動画クリエイティブです。

一般的にはミドルファネルはユーザーが情報収集をしている段階を指しますが、単に知ってもらうだけではなく購入検討まで持っていくことが動画であれば可能なのではないかと。なぜなら、動画ではストーリーを伝えられるからです。広告コンテンツだけど好きになってもらえる、面白いと思って全部見てもらえることでブランドに興味を持ってもらえるという流れが生まれると考えています。

これまでのデジタル広告は内容も費用も効率化されていて、そこがマス広告とは違う魅力だったのは事実です。ただ、逆にいうと視聴者を楽しませようという考えがすっぽり抜け落ちていたり、効率化しすぎて広告として言いたいことだけを表現していたりすることもあります。

この現状を変える可能性があるのが生成AIだと思っていて。生成AIを活用すると大量にちょっとワクワクする映像を作ることができます。

岡田:

生成AIを使うと大量に平均点のクオリティのものを生み出せるのが魅力です。でも、それって均点だからワクワクはしないですよね。食べ物で例えると、食べられるけどお腹を満たすぐらいのもの。いかにクリエイティブをジャンプアップさせるかっていうのは、やっぱりクリエイターの個の力だと思います。2023年は特にAIの技術が急激に進歩しました。既に、素人でも生成AIの活用によりグラフィックぽいものを作れるようになってきましたが、プロの技術はAIに越されることはないです。今後は生成AIやデータをどれだけ上手に扱う側になるかが大切だと思います。

 

プロフィール

株式会社アイレップ
米田 雄史

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広告映像制作会社を経て、株式会社アイレップへ入社。 テレビCM、ミュージックビデオ、Web広告動画などの広告制作経験を活かし、プランナーに転進後はテレビ・Web動画を中心とした動画広告のプランニングに従事。ミドルファネル施策・運用型動画広告における、戦略・企画から設計まで広くプランニングを手がける。Made for Mediaなクリエイティブの企画・設計を得意とする。

 

株式会社アイレップ
岡田 宙輝

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グラフィックの制作会社に4年間、Web制作会社に6年間、デジタルの広告会社に2年間というキャリアを積み、2021年に株式会社アイレップへ入社。アートディレクターとして幅広いクリエイティブの領域を担い、コンセプト設計から最終的なアウトプット制作まで、フルファネルで一貫した提案を得意とする。「深く、永く」愛され続けられるデザインを、日々追求している。

この記事の著者

DIGIFUL編集部

「DIGIFUL(デジフル)」は、株式会社Hakuhodo DY ONEが運営する「デジタル時代におけるマーケティング」をテーマにした、企業で活躍するマーケティング担当者のためのメディアです。

当社がこれまでに得たデータや経験から、具体的事例・将来展望・業界の最新注目ニュースなどについて情報を発信しています。ニュースやコラムだけでなく、日常業務や将来のマーケティング施策を考えるときに役立つダウンロード資料や、動画で学べるウェビナーコンテンツも随時追加していきます。

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