各社の若手クリエイターとAIの発想、どちらが人の心をつかむか?! ─「ad:tech tokyo 2024」レポート

2025.02.13

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ここ数年の間に、一気に身近なツールとなった生成AI。広告やマーケティングの業務においても、壁打ちや調べものなどに使っている人が増えています。ではクリエイティブの観点では、AIの発想の斬新さやおもしろさが人間のクリエイティブを上回ることがあるのでしょうか? JAAA(日本広告業協会)のインターネット広告委員会に所属する各社の若手社員が生成AIに挑みました。

本稿では2024年10月16~18日に開催されたアドテック東京2024のExhibition Stageでのセッション「『若手社員 VS 生成AI』~私はAIに勝てる~」の模様をお届けします。

※本記事は博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しています
元記事:https://seikatsusha-ddm.com/article/15389/

モデレーター
西村 大輔
株式会社東急エージェンシー
コンテクストメディアデザイン局 局長

AIサポート
中原 柊
株式会社Hakuhodo DY ONE
DXコンサルティング本部
チーフAIストラテジスト

奥 健太郎
株式会社東急エージェンシー
デジタルコンテクストデザイン部 デジタルメディアプランナー

常森 悠花
株式会社朝日広告社
プログラマティック第一部プランナー

秦 雄治
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
株式会社Hakuhodo DY ONE 出向

村木 廣太郎
IPG MEDIABRANDS
Performance Digital Unit

山田 萌
株式会社I&S BBDO
エンゲージメントソリューション部

広告業務における生成AI活用の現状

西村:
モデレーターを務めます、東急エージェンシーの西村です。本セッションではJAAAのインターネット広告委員会に所属する5名の若手社員を招いて、生成AIとクリエイティブで”対決”しながら、AIと人間の協業のあり方を考えていきます。AIサイドのクリエイティブを手掛けたHakuhodo DY ONEの中原さんに解説をいただきながら、進めていければと思います。

参加いただくのは、東急エージェンシーの奥さん、朝日広告社の常森さん、博報堂DYメディアパートナーズの秦さん、IPG MEDIABRANDSの村木さん、そしてI&S BBDOの山田さんです。

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西村:
生成AIは、私も日常的に使うようになりました。今回のセッションにあたり、ChatGPTに「インターネット広告業務に活用できる生成AIを教えて」と聞いたところ、8つくらい出てきました。そのうち知らないものもあったので、広がりを感じています。

ただ、例えばChatGPTに「JAAAとはどんな団体ですか」と質問してみたところ、おおむね合っていましたが決定的な誤りもありました。少し、ノイズのようなものが混ざることがありますね。

中原:
そうした誤りを、“ハルシネーション”と言います。現段階ではどうしても出てきてしまうので、生成AIをうまく使いながら、人の目でも確認することが大事です。

西村:
そうですね。生成AIには無料版と有料版を設けているものもありますが、やはり圧倒的に機能が違ったりするのですか?

中原:
総じて有料版のほうが最新のモデルが使われているなど、いろいろと差がありますが、企業が業務で使う場合はセキュリティ面で有料版が選ばれることも多いです。

西村:
なるほど。また、生成AIが提示するデザインなどを商用利用できるのか、という点も気になるところです。

中原:
重要な点ですね。生成AIによって違いますが、「学習データ」と呼ばれる参照データがそもそも著作権に抵触しないよう制限しているものもあります。企業ごとに、利用における条件やガイドラインをつくっていることが多いです。

西村:
たしかに、仮に生活者の目には触れないプレゼンやコンペの提案などにおいても、そうしたルール設定が必要ですね。

1億円で火星旅行、どんなコピー?

西村:
では、今日のメインである「若手プランナーvs生成AI デジタル広告大喜利対決」に参りましょう! 

ルールはシンプルで、仮の案件に対して、広告コピーやリスティング広告の広告文を考えてもらいます。生成AIのアウトプットは、あらかじめ中原さんに用意してもらっています。そして、若手5名の案がよかったか、それとも生成AIがよかったかを、会場の皆様の拍手で決めたいと思います。

早速1問目のお題は、バナー広告のコピーです。生成AIで用意したバナーの画像に、うまくコピーを載せて、クリックを促します。

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西村:
ちなみに、画像も中原さんに生成AIでつくってもらいました。コピーのほうは、どのような指示で用意したのですか?

中原:
指示の内容は、プランナーの皆さんに提示したものと同じです。ただ、ものの数分で100個くらい出してくるので、それを精査して発表する案を選びました。やはり、この量とスピードは人間が絶対に勝てない領域だと思います。

西村:
なるほど、そうすると人間は「いかに深さで勝負するか」になってきますね。

中原:
そう思います。そのときの世の中の空気感とか、気持ちを推し量った上での厚みみたいなものは、AIに頼って出すのは難しいです。

西村:
さて、皆さん回答が終わったようですね! 順番に、考えた背景とともに聞かせてもらえますか?

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奥:
はい。「100万ドルの夜景より1億円の空」としました。

旅行は、景色を見に行くのが目的のひとつになると思いますが、火星旅行だと「宇宙の景色」がいちばんの魅力になるかなと思ったので、アピールしました。

常森:
私は本当にシンプルなんですが、「まだ見ぬ火星の地へ」と。画像だけだと、どこへ行くのかわからないかなと思って「火星」を入れました。

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秦:
「地球を遊び尽くした人へ、刺激的火星旅」と書きました。遊び尽くした人だからこそ、火星に1億円を払えるのでは、と考えました。

村木:
僕は、「火星好きの皆さん、お待ちしております」としました。そもそも火星好きの人がいるのか? というところで興味を引ければと。

山田:
「余生は火星で」。ターゲットは20~60代男女とのことでしたが、1億円の価格設定だと、おそらく退職後の方々が対象になるのかなと思いました。

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西村:
皆さん、とんちが効いていていいですね! 100本もの案から厳選した生成AIが勝つのではと思っていましたが、意外と無理かもです。一方、中原さんが生成AIと考えたコピーがこちらです。

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中原:
「夕日が青い?それが火星。」
です。……補足すると、本当に火星では夕日が青いそうなんですね、太陽との距離が違うので。このワードを生成AIが出してきたので、一応、事実関係は調べました。

西村:
これも興味を引きますね。では、会場の皆さんに勝敗を聞いてみましょう、生成AIがよかったと思う方!

会場:
(拍手まばら)

西村:
おっと? では、若手プランナーの案がよかったと思う方!

会場:
(観客から多数の拍手)

西村:
これは、若手の皆さんの勝利ですね! 少し会場の方々にご意見を聞いてみましょうか。そちらの前列の方、どれがよかったですか?

来場者Aさん:
「100万ドルの夜景より~」がよかったです。聞き覚えがあるフレーズのあとに、知らない言葉が出てきたので、入りやすくて好きだなと思いました。

西村:
なるほど。ではこちらの方、どうですか? 

来場者Bさん:
私は「地球を遊び尽くした人」がよかったですね。本当に行くとしたら、そういう人なんだろうなとイメージできました。

西村:
ありがとうございます! いや、中原さん、正直いって我々もう少しAIが健闘すると思っていましたが、若手の方々のアイデアが総じて上回っている感がありますね。AIバージョンでほかの案もありますか?

中原:
はい、例えば「火星では、ジャンプが3倍楽しい。」とか。これはボディコピーもつけてみましたが、ボディコピーのような長い文章もパッと出してくるのも活用の余地がありますね。

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西村:
自分がまったく知らない知識や雑学を提案されるのも、思考の幅を広げてくれそうです。その上で、我々がしっかり考える、と。

何でもつくれるロボットシェフ、どんな広告文?

西村:
では2問目のお題に行ってみましょう。こちらは広告文の見出しで、検索したときにどのような文が出てくるとクリックしたくなるか、を考えてください。

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西村:
考えてもらっている間に中原さんに質問ですが、広告文の見出しの場合も、1問目と同じようにAIに指示するんですか? コピーは割と引っ掛かりが必要だと思うのですが、広告文だとわかりやすさやイメージしやすさのほうが有効なのかな、と。

中原:
そうですね。なので、そのような人間の思考方法を最初にAIに与えるような感じです。コピーなら「雑学をもじってつくってください」というバージョンを入れるとか、他の形式との違いを徹底的に言語化して教えてあげるとか。世の中のいい広告文をたくさん例に挙げるのも手です。
でも、先ほどの山田さんの「余生は火星で」のような、対象顧客から余生という言葉を引っ張ってきたり、それに韻を踏んだりするのは、指示を工夫してもAIには出せないと思いました。五感全体もフル稼働して考えるのは、人間ならではですね。

西村:
なるほど、同感です。では、皆さんの案と意図を見てみましょう。

秦:
「憧れのテレワークを飲食業界で」(ロボットを導入すれば飲食業の方もテレワークできる)

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常森:
「安定した飲食店シフトに 人間より確実なロボットシェフ」(検索されそうなワードを入れる+ロボットは絶対に出勤するし休まない)

奥:
「人手不足と技術不足を解消」(人手不足、というワードを入れてクリックを誘引)

山田:
「3つ星料理、完成します」(3つ星料理、で引きを作れればと)

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村木:
「従業員ゼロ、人件費ゼロで店舗は丸儲け」(従業員がいなくて済むなら人件費が浮くので儲けが増える)

西村:
ありがとうございます。では中原さん、AIの案はいかがでしょう?

中原:

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「人件費と味を同時改革」(結構シンプルに、かつ「人件費と味」という同時に成り立たないことを出してきた)

西村:
なるほど。ではこちらも会場の皆様に決めていただきましょう。
……今回もプランナーチームへの拍手のほうが多いですね! 中原さんとAI案を精査した身としては、ちょっと悔しいです。

ついに出た、空飛ぶ自動車! どんなコピー?

西村:
最後、5分あるので3問目もやりましょう!

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秦:
「竹とんぼで飛んでいた世界観を現実に」(フィクションだった「空を飛ぶ」ことが現実になる)

奥:
「空に赤信号はない」(スムーズに進める利点に気付いてもらう)

常森:
「毎日の移動も空なら渋滞なし」
(渋滞のストレスからの解放を提案)

村木:
「大事なことなので3回言いますね。空飛ぶ自動車誕生。空飛ぶ自動車誕生。空飛ぶ自動車誕生。」
(大事なことは3回言ったほうがいい、この商品はそれくらいの衝撃)

山田:
「空で渋滞知らず」(渋滞に煩わされない)

中原:
AI案はコチラです。

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「音のない空に流れ星が輝いた。」(電気自動車は音が静かなので+空にいながら流れ星が見える) 

西村:
電気自動車×空、なんですね。はい、では最後の拍手を。
……おお、圧倒的にプランナーチームですね!

渋滞への着眼は王道でありながら、利点を知ってもらうのは重要ですね。また、車という商品は夢やロマンと結びつきやすいのだな、とも感じました。

中原:
人間は過去の経験や世間のトレンドを盛り込んだり、韻を踏んだり雑学を用いたりすることができる。これはAIには難しいですが、一方でAIの出す案の量やスピードにはかないません。今後もうまくAIを活用しながら、いつかぜひリベンジしたいです。

西村:
そうですね。同時に、今日は若手の皆さんは緊張したと思いますが、それぞれのいい回答をありがとうございました! 今後もいろいろなシーンでAIをうまく使っていきたいですね。

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この記事は生成AIを使って作成した画像を使用しております

 

15382_ext_07_0西村 大輔
株式会社東急エージェンシー
コンテクストメディアデザイン局 局長

 

 

15383_ext_07_0中原 柊
株式会社Hakuhodo DY ONE
DXコンサルティング本部
チーフAIストラテジスト

 

15384_ext_07_0奥 健太郎
株式会社東急エージェンシー
デジタルコンテクストデザイン部 デジタルメディアプランナー

 

 

15385_ext_07_0常森 悠花
株式会社朝日広告社
プログラマティック第一部プランナー

 

 

15386_ext_07_0秦 雄治
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
株式会社Hakuhodo DY ONE 出向

 

 

15387_ext_07_0村木 廣太郎
IPG MEDIABRANDS
Performance Digital Unit

 

 

15388_ext_07_0山田 萌
株式会社I&S BBDO
エンゲージメントソリューション部

 

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