2023年5月からソウルドアウトに参画し、12月からチーフクリエイティブオフィサー(CCO)を務める、元・博報堂のクリエイティブディレクターの鷹觜 愛郎(たかのはし あいろう)。
これまで国際的な広告賞を多数受賞し、地域の課題解決をクリエイティブテーマとして活動してきた鷹觜。どうして地域に軸足をおいて活動を続けるのか、今後ソウルドアウトのCCOとしてどのような活動をしたいと考えているのか。取締役の北川 共史(きたがわ ともふみ)が伺います。
※本記事はソウルドアウト株式会社 公式noteより転載しています
元記事: https://note.com/soldout_official/n/nc0674f956582
ソウルドアウトへ参画した理由
一極集中ではなく多極交益へ。地域に価値を戻す活動を
北川:鷹觜さんはこれまで、博報堂のクリエイティブディレクターや、東北博報堂のエグゼクティブクリエイティブディレクターとしても活動されてきました。どのような経緯で、東京と地域拠点、両方で活動されるようになったのでしょうか?
鷹觜:私は1990年に盛岡博報堂(現 東北博報堂盛岡支社)にコピーライターとして入社しました。長年、東北博報堂でクリエイティブディレクターとして活動しており、その後、博報堂本体のクリエイティブディレクターも務めるようになった流れです。
きっかけとなったのは、東日本大震災が起きた2011年の「浜のミサンガ『環』」。とにかく地元の役に立ちたいという思いで、ゼロから仲間と立ち上げたプロジェクトです。震災で仕事を失った浜の女性の皆さんに「仕事をつくる」取り組みでした。
画像引用元:三陸に仕事を!プロジェクト
当時47歳だった私は、この業務を通じて「仕事とは、誰かの役に立つために神様が与えてくれたもの」という思いを、まるで雷に打たれたかのように体感しましたね。
博報堂本体のクリエイティブディレクターとして、大きな案件を担当する機会をいただくようにもなりました。しかし、限られた仕事人生において、最も誰かの役に立てる場所は、資金も人員も不足している「地域の未来を明るくする」ことなのではないか?と考え、東北から全国へエリアを広げて、地域課題に向き合う生き方を選びました。
北川:広告は受注型のビジネスですが、新しくビジネスを生み出す取り組みは斬新で非常におもしろいです。「浜のミサンガ『環』」が、鷹觜さんが地域の課題にコミットしたいと考えるようになったきっかけだったんですね。
鷹觜:そうです。
地域には地域の良さがあり、都会には都会の良さがあります。ですが今日では、富や人材、楽しみなどの価値は、都会に集中してしまっていて、すごくバランスが悪い。
理想は「一極集中」ではなく「多極交益」。あらゆる場所がフラットに、価値を共有しあえる世の中がつくれるといいと考えています。
北川:たしかに、地域から「多極交益」のビジネスモデルをつくれるといいですよね。私たちソウルドアウトも「地域発全国、日本発世界」を創業以来スローガンに掲げています。鷹觜さんと一緒に実現していきたいです。
鷹觜:広告は本来、ビジネスを成長させるものです。私たち広告会社は、それをどんな地域発でもやれるはずですし、私自身、人生の目的の一つだとも考えています。つくり手やモノが生まれる地域に、ちゃんと価値を呼び戻せるような活動をしたいですね。
私は東北出身で「地域が経済的に発展できていない、大きな成長ができていない」ということに、もどかしさや悔しさをずっと抱えています。自分のホームタウンに誇りをもち、地域のために状況を変えていきたいと思うのは、自然なことかと思います。
北川:私も北海道出身なので、鷹觜さんとはシンパシーを感じる部分もありました。そこを言語化していただき嬉しく思います。
鷹觜:私は、地場でがんばっている人たちが好きですし、そういった人たちを本気で応援したい。デジタルでビジネスを成長させる知恵や手段を、もっと地域に伝えていくことで、確実に状況を変えられると思っています。
また、地域には、「のれんを守る」ことを第一に考え、急激な成長やモデルチェンジをゴールにしていない企業さまも多くあります。生き残っていくための体質改善や、新しいやり方、売り方を、その土地、その企業さまの状況に合わせてご提案していくことを、常に意識しています。
ソウルドアウトと想いが重なりジョイン
北川:鷹觜さんが私たちソウルドアウトに参画してくださった理由を教えてください。
鷹觜:大きく三つあります。一つ目は、私の志と重なる想いをもつ、稀有な会社だと感じたことです。
広告代理ビジネスで効率的に利益を得ようとすると、どうしても予算の大きな大手企業の案件の方がいい。そんななか、地域企業や中小企業を応援し、一緒に汗をかいていく覚悟をもっている会社は、世の中にはなかなかないと思うんですよね。
二つ目は、人柄がすばらしいこと。昨年11月、ソウルドアウトの皆さんに向けてセミナーを行ないました。非常に歓迎していただき、人柄はもちろん、同じ目標や目的をもつ志の高い方ばかりで、一緒に仕事をしてみたいと感じましたね。
最後が決定的ではあるのですが(笑)、今年5月、博報堂在籍中にも関わらず、ソウルドアウトに参画するリリースが出た際、思いがけないほど多くの人から「絶対に合う」「最強のコンビネーション」と言われたことです。もしかすると、ご一緒できることは自分にとって最も良き未来なのではないかと期待しています。
北川:ありがとうございます!ソウルドアウトは、「中小・ベンチャー企業が咲き誇る国へ。」というミッションに共感した仲間が集まっている会社です。
この度、鷹觜さんに加わっていただき、また一歩、ミッションの体現に近づいたと感じています。
*昨年11月、鷹觜さんに登壇していただき、社員を対象に広告クリエイティブに関するセミナーを開催したときの様子です。
経営者に伴走する
ビジネスを議論のど真ん中におく
北川:私たちの一つの課題として、地方企業や中小企業に対して、マーケティングの中でも枝葉の部分である、デジタル広告の支援にとどまってしまっている現状があります。ですがこれからは、経営という幹の支援に近づいていきたいと考えています。
鷹觜さんはこれまで、経営者の隣でお仕事をされてきましたよね。いつ頃からそういったスタイルで取り組まれてきたのでしょうか?
鷹觜:20代後半だったと思います。当時の盛岡博報堂の中でも特に大きな予算の案件を担当させていただく機会があり、広告を担当していた取締役の方の隣の席に毎朝出社していました。
事業全体の業績を把握してコミュニケーションを図ったり、何のために広告をするのか各所に伝えたりと、企業内の一つのセクションのような役割をしていました。すごく勉強になりましたね。
北川:早い時期から、経営層に伴走するスタイルのお仕事をされていたんですね。
鷹觜:そうですね。
またあるときは、かなり大きな予算をお任せいただき、私が営業的な動きも含めて、ほぼ全てを担っていたこともありました。すごく怖かったことを覚えています。ですが、先輩のクリエイティブディレクターに、「一回背負えば怖くなくなる。とにかく背負ってみろ」と言われて。
若い頃からいろいろと経験値を積んだことが今につながっています。
北川:鷹觜さんが「背負う」ときに心がけていることを教えてください。
鷹觜:得意先のビジネスを、得意先目線で本気で把握することです。
ともすると広告クリエイティブは、自分たちの旗を立てるチャンスにしよう、という感覚で、得意先の商品や課題と向き合ってしまいます。こういった気持ちで臨むとき、数を打てばどこかで大当たりがある!といった、自分に都合のいい目線になってしまっているんです。「背負う」覚悟とは全く違う位置にいますよね。
得意先がどのような強みをもっていて、どのような構造で売上と利益をあげていて、この先どこへ向かおうとしているのか。最低でもこの点は解像度を上げ、同じ目線で向き合うこと。そのうえで、ときに土俵をはみ出すぐらいの専門性を発揮し、得意先の予想を超えられる提案をするように心がけています。
私たち広告エージェンシーは、どうしてもコミュニケーションの領域だけで喋ろうとしてしまいがちです。しかし、経営者はビジネスの話がしたい。ビジネスをど真ん中において、成長への投資を議論すべきだと考えています。
北川:鷹觜さんと取り組みを始めた頃に印象的だったのが「本質的なクリエイティブの役割は、ビジネスとしてしっかりと儲かり続けて、発展していくこと」とおっしゃっていたことです。
一般にクリエイティブの話をしようすると、かっこいいとか美しいとか、そういった表現の視点に寄りがちだと思うんです。そうではなく、ビジネスまで踏み込んで話をすることの重要性に改めて気づかされました。
インターネット時代のマーケティングに必要なこと
鷹觜:さらに、インターネットが普及した今日では、広告が担うべき領域は格段に広がっていると思います。
インターネット以前は、強いコンセプトを作り、テレビを中心にマスメディアを串刺しにするキャンペーン型の広告をアウトプットし、大量伝達、大量購入の仕組みで、広告費用を超える成果を大きく生み出せていました。
しかし現在では、商品の認知一つとっても、とても複雑です。予算が確実にワークしないケースも多い。
アッパー、ミドル、ローのファネルを全部やる必要があるのか。逆に、目先の成果だけで、細る獲得コンバージョンだけを回していていいのか。ベタなCRM施策はお客さまのためになっているのか。その施策は、本当にお客さまのロイヤリティを高められているのか。
一見、一つひとつのパートで成果が出ていたとしても、本質的にビジネスを成長させる話からブレているケースが結構多いんです。だからこそ、全体の設計を話せるようにならなければなりません。
人口減少が進み続ける日本において地域企業のビジネスを成長させる場合、ある程度の母数までお客さまを増やしたあとは、そのお客さまを大事にする。それが、最も効果が高いやり方になると僕は考えています。
北川:たしかにそうですね。広告の領域では「ブランディングと販促」や「マスとデジタル」というように、たびたび二項対立で語られるものがありますが、そうではなく、それぞれの良さを理解して、幅広く取り組んでいく必要があると思います。
鷹觜:おっしゃる通りです。
私はこれまで、北海道から九州まで全国各地の案件を担当させていただいてきました。地域に軸足をおくブランドは、共通の悩みをもっているように感じています。その一番大きな部分がデジタル、DXです。
地域の広告はとても大きな転換期に来ています。デジタルを取り入れることで、どのように未来の数字が変わるのか、どのくらいのスピードで変わるのか。こういった質問に、オールラウンドで経営層の相談に乗れる人が求められていますね。
都会では、各々の領域で専門性に磨きをかけながら仕事を進めていくので、オールラウンダーになりづらい。ですが地域では、ニッチな領域で高い専門性をもった人材よりも、あれこれできるオールラウンダーかつ、ケースに合わせていくつもの突破口を見出せる人材が好まれます。
食品産業×D2Cへのチャレンジ
食品産業が発展してこそ地域が豊かになる
北川:これからソウルドアウトで挑戦していきたい領域として、食品産業のD2Cビジネスがあげられます。私たちがこれまで取り組んできたデジタル広告の場合、送料の問題や捻出できる広告費の問題、原価の問題などで経済効率が合わないんですよね。鷹觜さんはどうしてこの難しい領域を支援されてきたのでしょうか?
鷹觜:食品産業の発展が、地域に富をもたらす一番の方法だと考えているからです。
産業は、一次、二次、三次と分類され、そのうち、地域経済が潤うための軸として強いのは一次産業です。二次産業も三次産業も、本社が大都市の企業が進出しているケースが多く、最終的な利益は地域に回ってきにくい。税金が納められるのは違う場所だからです。
地域の農業や漁業など一次産業をベースにした六次化が進み、食品産業が発展すれば、地域で還流するお金が増え経済成長につながります。
食品産業のネット化は4%。ポテンシャルに溢れている
北川:地域経済の成長の主軸は一次産業の六次化、つまり食品産業にあるということですね。
鷹觜:そうです。食品事業の市場は、60兆円規模で日本最大の産業だといわれています。そのネット化率はまだ4%程度ですが、右肩上がりで成長しています。地域の一次産品のD2Cには、大きな可能性があります。
また、地域では人口減少によってリアルなマーケットは縮小していますが、インターネットを活用して越境して売ることができれば、大きなマーケットにトライすることができます。生産地である地域が、直接顧客データをもつようになると、「一極集中」ではなく「多極交益」のビジネスモデルが確実に進化していきます。
北川:期待もかなり大きいんですね。
鷹觜:先ほど送料の話があがっていましたが、コロナ禍では、飲食店の宅配サービスが流行りましたよね。配送料を払ってでも、おいしいものを食べたい。食は、人の根源的な欲求に直結しているんです。食品産業は、送料のハードルさえも超えはじめています。
北川:たしかにそうですね。今リアルで売られているものが、どんどんインターネットで売られるようになっていくとしたら、食品産業にはものすごく大きな可能性が秘められていますね。
鷹觜:売り方にも様々な方法があります。
例えばサブスクです。おいしいものであれば、毎年、毎月のように定期的に買いますよね。サブスクを利用した人においしいと思ってもらえれば、ギフトとして買ってもらえるかもしれませんし、送られた人もまた自分で買って食べるかもしれません。そのような連鎖が起きやすいのが食品だと思っています。
今は、地域の中である程度有名な一次産品のD2Cにチャレンジしていますが、これからはまだ知られていないものを広めていく取り組みにも挑戦していきたいです。
▲「食品産業×D2C」のチャレンジの一事例です。
釜石の老舗水産加工会社の挑戦。D2Cブランド「子どもようおさかなさん」で新たな世界観をつくりあげる /【事例】岩手県・津田商店
地方企業、中小企業へ支援を広げていく
キーワードは「進化と継承」
北川:鷹觜さんは経営者からどのように覚悟を引き出してきたのか教えてください。
鷹觜:本当にケースバイケースですね。経営者のタイプや、企業の抱えている課題に同じものはありませんし、正解はありません。
ですが、そのなかで意識しているのは「進化と継承」という言葉です。何百年も続く企業には「これだけは変えない」という、代々継承してきたことがあります。一方、何も変えずに何百年も続いてきたわけではありません。
江戸時代であれば瓦版、現代であればインターネットという情報伝達の手段を使い、お客さまを増やし進化してきました。そうでなければ企業の成長は止まってしまいます。シンプルに、今の時代に進化するべきポイントはインターネットやデジタルの活用です。
北川:非常にわかりやすいです。お悩みや課題を伺い、進化させるべきポイントを整理して寄り添っていく支援の形が求められますね。
誰もが一歩踏み出せる仕組みづくり
鷹觜:予算を潤沢には用意できない多くの地方企業や中小企業に対しては、最初の一歩を踏み出せる仕組みができるといいと思います。
イメージは「グラミン銀行」。グラミン銀行は、バングラデシュに設立されたマイクロファイナンス機関で、貧困・生活困窮者の自立を支援する少額貸付の仕組みです。
年間数万円程度の予算で、人の手をかけずに、広告配信の実装だけでもいいのでシンプルなサポートの仕組みをつくれるといいと思います。
北川:いいですね。今後、ぜひ一緒にやっていきましょう!ソウルドアウトと一緒に取り組みを始めて、これからやりたいことや見えてきた課題を教えてください。
鷹觜:ソウルドアウトが今向き合っているのは、マーケティングのファネルでいうと、ミドルファネルから、コンバージョンに近いローワーファネルの部分だと思います。ですが、経営者と対峙して、企業のもつ大きな課題を解決していくためには、現状のままでは不十分です。
今後は、アッパーファネル部分の支援も求められるようになるでしょう。例えば、企業理念を一枚のグラフィックや一本のブランドムービーにまとめるなどといったイメージです。そういった、企業ブランディングのコンサルティング支援などは、これから研修や教育をしていくことで提供可能になると思います。
また、フルファネルで企業の支援を行なうには、CRM領域も強化していく必要があります。外部の企業とのパートナーシップでもいいですし、自社でシステムをつくることもできるかもしれません。
そして、企業が簡単に、安価に導入できる顧客管理システム(CDP)の支援ができるようになるとおもしろいと思います。
北川:私も課題に感じています。これまで多くの企業の支援をしてきましたが、その情報は分散してしまっている状態です。データを集約して、デジタルマーケティングの「勝ちパターン」がわかるようなシステムをつくりたいと思っています。
鷹觜:いいですね。ソウルドアウトの財産は、企業理念とモチベーションの高いメンバーです。そこにはとても大きな可能性を感じています。
北川:これからがとても楽しみです。今日はありがとうございました!
編集後記
12月からソウルドアウトのチーフクリエイティブオフィサー(CCO)を務める鷹觜さん。先日公式noteでも公開した、岩手県の水産加工会社との取り組み事例を皮切りに、全国でどんどん新しいチャレンジが生まれていくと思います。これからがとても楽しみです!
【執筆・編集:みやたけ(@udon_miyatake)】
この記事の著者
ソウルドアウト株式会社
ソウルドアウトグループは、地方を含む日本全国の中小・ベンチャー企業の成長をデジタルマーケティング、ソフトウェア、メディア制作・運営、DXの領域で支援しています。全国に23の拠点を持ち、対面サポートを重視する地域密着型で、地方中小企業の課題やその独自性を理解し、それぞれにマッチしたソリューションを提供。事業のスタートアップから既存事業のアクセラレートまで、テクノロジーを活用し、顧客の成長ステージに合わせた提案によって、日本全国の中小・ベンチャー企業が秘めている潜在能力を引き出し、寄り添うスタンスで共に挑戦しています。
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