伊吹とよへのタテガタ動画レシピ。vol.1 〜生活者はどんな動画がお好き??~<後篇>

2024.02.29

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「伊吹とよへ」のタテガタ動画レシピ 

レシピ其の1:あえて作り込まない。求められているのは自然な会話の延長線上。

伊吹:見てくれているユーザーに寄り添うことを最も意識しています。フォロワーが何を求めているのかを考え、その期待に沿った動画を作るように心がけています。視聴者の好みやトレンドは毎年、いや毎月のように変わりますから、常にアンテナを張り巡らせています。

例えばTikTokですが、メインユーザーのひとつであるZ世代ユーザーが何を求めているかを想像する必要があります。企業アカウントがTikTokで失敗する理由で多いのが、クオリティの高い作り込んだ映像を公開したものの、全く共感を得られず再生回数が伸びないという点です。なぜ共感を得られないのか、理由は簡単で「ユーザーが求めていない」からです。Instagramのストーリーズもそうですが、Z世代ユーザーは「その場の楽しいものを撮って、すぐに発信」しています。アングルや映りの良さなど気にせず、自然で身近なものを求めています。

だからこそ、僕たちは必要以上に作り込まないことを意識しています。コントではなく自然なトークで、日常のちょっとした面白さを発信していく。だからコンテンツとして面白くないと思っている動画も公開しています。ある程度、企画の骨組みは設定してはいるものの、撮影自体は全部ファーストテイクなんです。

江藤:超UGCだね

※UGC(User Generated Content)…企業ではなく、消費者であるユーザーによって制作・発信される、もしくはそれに近しいコンテンツを指す。

伊吹:そうそう!寄り添うことを大切にしつつも、完全に寄り添い過ぎてもいけません。縦型動画はトレンドの移り変わりが早くて、飽きられるスピードも早いプラットフォームだと感じています。飽きっぽい視聴者に寄り添いつつ、飽きられないようにトレンドに合わせた新コンテンツも加えていくことが大切です。

江藤:飽きられているというのは再生回数やコメント数から想像できると思うのだけど、次の手を打つ時はテストで何パターンか投稿するの?

伊吹:そうだね。トレンドを見ながら数パターン投稿してみて、反応を見るね。

例えば新しいジャンルの動画を毎日1本ずつ投稿したとして、1週間ずっと10万再生を超えないと、視聴者に求められてないと感じます。ですが、例えば再生数が、月曜日10万再生、火曜日10万再生、水曜日100万再生、木曜日10万再生、金曜日200万再生といくつかバズる結果が出たら、「このパターンはうまくいく」と経験則でわかります。自分が面白いと思う動画をアップして、視聴回数が伸びるか伸びないかを観察する。全部の動画がバズるはずはないのですから、本数を出しておくことの方が重要です。

コメントでもユーザーの反応がどうかを見ることができます。僕らは「面白い」と思って配信した動画が、女性ユーザーから「ふたりとも仲良くてカップルみたい」とネタ以外のところでの好反応が続いた時期がありました。「世の中はそういうものを求めているのか!」と感じて、コンテンツを「仲良し度を強調」した方向に寄せていったこともあります。

レシピ其の2:今は、「ジャンルに特化したクリエイター」に有利なアルゴリズムになっているのかも

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僕がTikTokをはじめた3年前は、どのユーザーにも「伊吹とよへ」の投稿がおすすめ欄に表示されていました。でも今はどんなに有名なクリエイターでもインフルエンサーでも、すべてのユーザーに自分のコンテンツを届けることはできません。

過去と比べて圧倒的に発信者も増えましたし、なによりプラットフォームの表示アルゴリズムの仕組みが大きく変わりました。現在の縦型動画プラットフォームは「ジャンルに特化したクリエイター」に有利なアルゴリズムになっていると分析しています。

美容コンテンツに特化したクリエイターの動画は、美容に興味ある人たちが好みます。トレーニングに特化したクリエイターの動画は、筋肉をこよなく愛する人たちが視聴します。僕らもハッシュタグランキングを参考に、ユーザーが求めていると想定される「料理」を織り交ぜたコンテンツを作りはじめました。

江藤:料理ジャンルは普遍的な最強コンテンツだからね。

伊吹:エンターテインメントジャンルは対象が広過ぎてしまい、面白いコンテンツを公開してもジャンルに紐づかないので、視聴回数が伸びない時代になっています。だからこそ、どこのジャンルに当てはめていくかを重要視しています。

江藤:僕もさまざまなクリエイターと話す機会があるのですが、トップを走っている人は公開してから検証しているスタイルが多いです。本質的に考えれば考えるほど、自分が面白いと思っているうえで、ユーザーが求めていそうなコンテンツを想定しながら公開し続けることを大切にしています。

レシピ其の3:「量から質。」1日100個企画を作れば、3つくらいは当たるかも。

江藤:この間、伊吹くんに「企画は何個作っているの?」って聞いたら「1日100 個は作っているよ」と言われてびっくりしました。「100個!?」って二回聞き直したから(笑)。とんでもないことなんですよ。

それにしても、毎日100個の企画を生み出すのは大変ですよ。100個あれば、3つぐらい当たるコンテンツが出てくるはずです。結局のところ「量から質」なんです。量より質ではなく量から質。

伊吹:すげぇいい言葉だ。

レシピ其の4:僕は『ユーザーに寄り添う』でも『寄り添いすぎない。』

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先ほども言ったように、ユーザーは親近感や自然な会話を求めています。
それは、もともとTikTokが「身近に感じる人々が、楽しげなノリで投稿した動画を見る場所」だからです。TikTokに憧れを探してるんじゃないんです。友人との楽しいやりとりの延長を探してるんです。

だから僕らも、映像の作り込みよりも、ユーザーに寄り添った自然体な会話を心がけてきました。しかし、ユーザーに寄り添うことも大事ですが、過度に寄り添い過ぎてもいけないと考えています。

理由は「親近感とリスペクトのバランス」です。親近感とリスペクトは、ある種、反比例の関係にあります。親近感が大きすぎるとリスペクトがなくなっていく傾向が強くなります。同じ悩みを持つクリエイターは他にもたくさんいると思います。TikTokのフォロワーはクリエイターに対して友達感覚で接していて、街を歩いていると「伊吹じゃん」とか「TikTokの人だ」とか、場合によっては「名前わかんないんだけど見たことある!」とか、気軽に声をかけてくれます。

それ自体は決して悪いことではなく、ありがたくもあります。ただ、有料のイベントを開催する場合には逆効果になることもあります。例えば、3,000人のリアルイベントをやろうとして、チケット価格を4,500円にしたとします。一般的な中高生からしてみたら4,500円は高額イベントの部類に入ると思います。そうすると「高いよ」や「500円にしてよ」という反応でコメント欄が埋まってしまいます。このようなコメントが出てくる時点で、残念ながら僕らのクリエイティブに対して価値を感じていないんです。単なる友人のひとりだと思っているんです。

江藤:憧れが作れないのかな?

伊吹:そうそう!「伊吹とよへ」は自分自身でもすごいと思っているからこそ、価値をどのような形でファンに届けていくのかを重視しています。

チャレンジ企画:新卒男子のタテガタ動画レシピ 

悩める新卒1年目、鈴木くん(仮名)。
もし、トップクリエイターの伊吹さんが、鈴木くんを料理するとしたら??
TikTokやYouTubeショートクリエイターとしての、鈴木くんが目指すべき方向性を議論します。

伊吹:周りと比べて自分が変わっていると実感することは、なにかあります?

鈴木:周りと比べて変わっているというよりも、人より大きな失敗をすることがよくあります。最近では社内研修のスケジュールをすっかり忘れていて、無断欠席してしまいました。猛省し、講師に謝罪 した際には、「しっかりリカバリーするように」とフィードバックを受け、社内の先輩たちからも励ましの言葉をもらいました。

それにもかかわらず、その翌日にあった大切な撮影の仕事に、寝坊して遅刻してしまいました。前日、猛省したのにも関わらず 、大きなミスを続けてしまうんです。

―普段は非常に真面目で一生懸命なのですが、時々、びっくりするようなポンコツエピソードがあるんです。

伊吹:それじゃないですかね!

「お前って珍しいよね」と言われる人間は最強です。会社では「そんなことをやらかすのは鈴木くんしかいない」と思われているかもしれませんが、同タイプの人間は日本にたくさんいると思っています。なぜなら僕も遅刻常習犯だし、注意散漫な人間で持ち物をよくなくすから共感できるんです。

「真面目に働いているのにやらかしてしまう」という感覚は、どの若者にも多かれ少なかれあると思っています。さらに新卒1年目にフォーカスしてコンテンツを作っていくことで差別化も可能です。

江藤:「弱み」は昔も今もコンテンツになりやすいですよね。

伊吹:「自分と同じだ」という共感は応援に変わるからね。さらに「やらかし」をいかに大げさに見せるかも大切です。冒頭の 1~2 秒で判断されてしまうのが縦型動画ですから、あまりにも自然体だと目立ちません。

僕が鈴木くんの状況だったら「寝癖だらけの髪型で、慌てて全力疾走している姿」を撮影します。寝癖を誇張することで、視聴者にインパクトを与えるというのもテクニックのひとつです。

―大げさなコントのようにした方が面白いのか、それとも「ポンコツ新卒の毎日」のような形でリアルさを重視した方がいいのか。どう思われますか?

伊吹:どっちでもいいと思っていますし、むしろ2パターンどっちもやればいいんですよ。特に広告案件は1 パターンに絞りたがる傾向が強いのですが、それは大きな間違いです。

動画を出せば視聴者が判断してくれるわけですから、アイデアが浮かんだのであればどっちも出せば良いんです。両方出してみて、再生数の多い方をシリーズとして採用すれば良い。毎回、広告案件を取り扱う時に企業さんに説明するんですが、全然わかってくれないんですよ。

本当にこれは声を大にして伝えたい!「両方やって良い方を選べ!!!」

伊吹:TikTokやYouTubeショートを代表とした縦型動画は  、実験できる環境がたくさんあります。例えば縦型動画に1,000万円の制作費をかけても、あまり再生数は伸びないと思います。むしろ制作費を下げて、いかに面白いコンテンツを生み出せるのかを「そのまま配信」した方が、共感を生み出すことができます。

テレビCM作家の話を聞くと「規模デカっ!」と思うんですが、縦型動画に規模感は必要ありません。しかしながら、 横型のCMを作る感覚で、縦型動画を作ろうとする企業もまだまだ多いです。

江藤:縦型動画を1本だけ出して、反応が鈍かったから失敗という短期的な視点でしか判断できない企業も多いですね。一回の失敗で終わらせてしまうのは非常にもったいない。

縦型動画を使った広告については1本の決め打ちではなく、複数パターンでのABテストを踏まえたうえで最大の効果を生み出していくプランが今後求められていると感じています。例えば「5回の効果検証フェーズを含んだ、全10回のSNS投稿プラン」といった複数投稿を前提とした提案が、クリエイターにもクライアントにとってもメリットが大きいのではないでしょうか?

鈴木くんが、目指すべきアカウントの方向性

・自分の欠点を存分に描いた「ポンコツ新卒社員アカウント」を作ろう
・社内ではたった一人でも、日本中、世界中には同じ境遇の共感者が存在する
・小さな「やらかし」でもわかりやく誇張する
・思い浮かんだアイデアは全部公開する
・反応が良かったシリーズを選択し、投稿し続ける

 

―そのままの自分のキャラクターを活かして共感を生むアカウントを作成し、まず発信してみる。そしてその結果を踏まえて、少しづつブラッシュアップしていくことが重要ですね。本日はありがとうございました。

この記事の著者

松尾 良馬

2018年にアイレップにプランナーとして入社。CM制作から大型コンペの統合提案まで幅広くおこなう。2020年から博報堂DYホールディングスにて、AD Plus VENTURE制度のもと、新規事業の共同責任者として事業の立ち上げに従事。事業計画から商品開発まで、幅広い領域を担当する。2023年からは再びアイレップにて、広告プランナー・新サービス開発に携わる。事業の立ち上げ経験とクリエイティブを掛け合わせ、スタートアップ事業や新サービス立ち上げ等のプロモーションを得意とする。

2018年にアイレップにプランナーとして入社。CM制作から大...

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