- 今回は「TimeTree」のインフルエンサーマーケティング施策について伺っていきます。まずはTimeTreeというアプリの概要やターゲットとしている層を教えてください。
TimeTree 古賀旺人(以下、古賀):TimeTreeは共有・コミュニケーションをコンセプトにしたカレンダーシェアアプリです。現在は主に家族間や恋人同士で利用されている方が多く、相手の予定を見てその活躍を応援したり、空いている日に合わせて出かける予定を立てたり、親しい方同士で予定調整するシーンで広く使われています。
TimeTreeは、2024年にサービス開始から10周年を迎えました。日本発のアプリでありながら、6,000万人以上いるユーザーのうち、半数以上は海外ユーザーという特徴を持つ、他にはあまり例のない規模のアプリです。
公式Webサイトより
- 古賀さんは2024年からマーケティングプロジェクトに参画されたそうですが、そのプロジェクトはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。
古賀:私たちは直近の目標として「1億ユーザー到達」を掲げています。おかげさまで現在6,000万人のユーザーに支えられていますが、1億ユーザーに到達するにはそれなりの時間がかかることが予想されます。新規ユーザーを大きく増やし、できるだけ早く目標を達成するためにマーケティングプロジェクトを立ち上げました。
前述の通りTimeTreeは日本発のアプリですが、国内のユーザー数にはまだまだ伸びしろがあります。約5年前に行ったテレビCM施策において、家族や新婚カップルをターゲットにしたことから、現在では家族間の利用が大きく伸びています。しかし、「1億人ユーザー達成」を実現するためには、新たなターゲット層へのアプローチを検討する必要がありました。
そこで、Hakuhodo DY ONEさんには、コミュニケーション戦略からご協力いただき、若年層を新たなメインターゲットとして施策を進めることになりました。
- TimeTreeからの相談を受け、Hakuhodo DY ONEではどのような戦略を提案したのかお聞かせください。
Hakuhodo DY ONE 横田晴香(以下、横田):目標ユーザー数を伺った際、単純なダウンロード目的の広告施策では目標到達までにコストも時間もかかってしまうと感じました。より有効なアプローチを検討するために立ち返ったのは、TimeTreeが持つ、誰かとスケジュールを共有・相談できるという提供価値です。その特徴を活かした「誰かと一緒に使い始める」「誰かと一緒に予定を共有したいから使う」というムーブメントが起これば、ダウンロードや利用が波及していくはずと考えました。特に今回のメインターゲットである若年層、とりわけ「学生」に目を向けると、クラスや部活、サークルなど「2人以上で使うニーズがある」とわかり、そこでムーブメントが起こせないかと考えたのです。
第二コンサルティング部 チームリーダー 横田晴香氏
横田:またTimeTreeのダウンロードの属性データを確認すると、学生の方に関しては大きな見込みがあること、さらに家族間での共有を行うユーザー層の中では、主婦の方にも訴求する余地があることがわかりました。そこで、メインターゲットを学生の若年層に置きつつ、サブターゲットとして新規ユーザー獲得の余地がある主婦層にもアプローチすることにしました。
若年層向け施策を展開する場として選んだのは、やはり10代〜20代に広く普及しているTikTokです。TimeTreeとの相性が良いことも古賀さんのチームから伺っており、ここで若年層に支持されているクリエイターの方からTimeTreeについて発信していただくことで、「若年層の間で盛り上がり」を醸成できればと考えました。もちろんサブターゲットである主婦層については別軸で考え、単にカレンダー共有だけでないTimeTreeが持つ生活への利便性について理解を促進し、利用意向を高めることを目指しました。
今回の施策では若年層の盛り上がりを醸成するため、ABEMAでの番組タイアップ企画や、インフルエンサー施策を中心に実施しました。
その中でもムーブメントを起こすための要がTikTokを活用したインフルエンサー施策だったため、Hakuhodo DY ONEのインフルエンサーチームと組んで施策の企画・実行に取り組むことになりました。
- TikTokでの具体的な企画内容と狙いについても伺いたいです。まずは若年層向けの企画についてお聞かせください。
Hakuhodo DY ONE 柴﨑祥汰(以下、柴﨑):若年層向け施策では、「友だちと叶えたい予定」をTikTokに投稿することで、予定を叶えるチャンスをゲットできるキャンペーン「その予定、#タイムツリーが叶えます」を立案・実施しました。
第二クリエイティブ局吉田部 柴﨑祥汰氏
柴﨑:このキャンペーンでは、まずTimeTreeをダウンロードしてカレンダーに友だちを招待していただきます。友だち同士で叶えたい予定を決めたらTimeTreeにそれを登録する様子の動画や友だち全員の予定のスクリーンショットを撮っていただき、さらにその動画や画像をTikTokにハッシュタグ付きで投稿していただくことで応募が完了します。そして当選したユーザーの「叶えたい予定」をTimeTreeが実現する、というインセンティブキャンペーンになります。また、予定を叶えるだけではなく、「叶えたい予定」の当日に撮影クルーも同行させていただき、「予定」の様子を撮影。その思い出のエモーショナルなムービーもプレゼントする、というものです。
ギフト券やお金のような直接的なインセンティブと異なり、夢を叶える・思い出を作るというインセンティブはユーザーにとって良い印象が残りますし、何より「その後もグループの中で使い続けていく」というきっかけになります。
企画の肝は、キャンペーン参加の必須条件に「誰かを誘う」という要素を入れたこと。この条件を必須にすることで、TimeTreeの利用の輪が広がることを狙いました。当時はBeReal.が「仲良しグループで使うアプリ」として話題になり、TikTok上でもムーブメントを起こしていたことから、「コミュニティ単位」で巻き込む企画が重要だと考えました。
このムーブメントの文脈で、TimeTreeでも「仲間内で予定を立てている動画」を見てもらい、「自分も使ってみよう」と思ってもらうことで、ムーブメントが起こることを期待していました。
- キャスティング面の工夫についても伺えますか?
SPプランニング部 チームリーダー 渡邊彩芽氏
Hakuhodo DY ONE 渡邊彩芽(以下、渡邊):企画のポイントである「誘い合ってTimeTreeを使う 」という点を視聴者に自分ごと化してもらうため、クリエイターにも単なるキャンペーン告知ではなく、クリエイター同士で誘い合いTimeTreeを使う様子を発信してほしいと考えました。そのため、誰とどんなシーンで使うのか、ターゲットである若年層のインサイトを掘り起こし、最終的にカップル・友だち同士・仲の良いグループなど想定利用シーンに合致し、なおかつ利用促進の効果に期待できる4組のクリエイターさんを起用しました。
金子みゆさんの投稿(水野舞菜さんコラボ出演)、ウンパルンパさんの投稿(伊吹とよへさんコラボ出演)、
ニシコリ_Nishikoriさんの投稿
渡邊:キャスティングのポイントは、ターゲット世代に人気なクリエイター同士のコラボを実現したこと。仲の良いクリエイター同士でTimeTreeを使う様子を描くことでターゲット層の関心を高め、自分ごと化してもらうことを狙いました。
制作段階では、各クリエイターに対してそれぞれ「こういうシーンを見せて欲しい」「こんなメッセージを伝えたい」という意図は細かくディレクションしています。一方、クリエイターさんは視聴者の心をつかむプロなので、演出や見せ方についてはクリエイターさんの意思を尊重しながら一緒に制作に当たりました。
- もう一つのサブターゲットである主婦層向けの施策についても教えてください。
柴﨑:主婦層に関しては既にTimeTreeの認知が取れていたので、今回はあまり知られていないタスク管理などのライフハック機能を「#わたしのタイムツリーチュートリアル」として訴求することにしました。というのも、主婦層からはお得情報や効率化などライフハック系動画が支持されているからです。そこで人気がある主婦クリエイターによるTimeTreeの使い方動画の制作やその動画を活用した広告配信をすることにしました。
ポイントは、クリエイターの動画だけでなく、「#わたしのタイムツリーチュートリアル」として公募の形を取り、実際のユーザーの方に使い方を発信していただいたことです。公募型でUGCを募ることで、「夫婦やカップルでの使い方を発信する」というムーブメントの自然発生を狙いました。
渡邊:キャスティング面では、TimeTreeの利便性をコンテンツにしっかり落とし込むために、主婦クリエイターの中でもライフハック系の発信を強みとされている方に協力をお願いしました。実際にTimeTreeのユーザーであるクリエイターの起用が叶い、ご夫婦同士でメモ共有やチェックリストなどの予定管理以外の機能を実際にどのように生活に取り入れているかを動画にしていただきました。
公募施策でもユニークなアイデアが集まりました。たとえば、義母とTimeTreeでの予定共有を始めた方からは、「お互いの予定が把握ができたことで家族の時間を作りやすくなり、家族の絆が深まった」というストーリーが投稿されました。TimeTreeにより絆が深まるという情緒的なストーリーが投稿されたことは、私としても驚きと、発見がありました。公募型の施策を通じて、ユーザーのリアルな声を集めることができ、我々では思いつかなかったような多様なTimeTreeの活用方法をアピールできたと感じています。
- 両キャンペーンの成果について教えてください。
古賀:認知の拡大・ダウンロード数を注視していましたが、どちらも非常に高い成果を得られました。動画視聴やサイト流入は、結果的に1,000万回再生の動画が複数本生まれ、若年層向けでは計3,000万視聴、主婦層では計1,000万視聴、両キャンペーンを合わせると4,000万回超の視聴機会を作ることができました。特に若年層向けの「その予定、#タイムツリーが叶えます」のLPには17万人が来訪し、注目度も非常に高かったと思います。
またTikTok内のブランドリフト調査を行ったところ、広告認知が7.8%上昇したことがわかりました。ダウンロードも、CPIを低く維持しながら万単位で増加。2024年春から半年強にわたってマーケティング施策を展開してきましたが、この数値は最も高いレベルです。こうしたインフルエンサー施策は成功例として引き続き展開したいと考えています。
一般的に、ダウンロード数が増えるとすぐに使わなくなる人も増え、結果的にMAU率は下がりがちです。しかし今回のキャンペーンにおいてはユーザーの利用継続率が高く、予定追加の数からも、日ごろから「よく使われている」傾向が強いです。
またターゲットへのリーチも大きな成果がありました。TimeTreeの自然流入におけるユーザーの年齢分布、TikTokからの流入ユーザーの年齢分布を見ると、11〜15歳では3倍、16〜20歳で2倍となる効果がありました。狙い通りに若年層に訴求できたと考えています。
- 定性面での効果はいかがですか。
古賀:インフルエンサーの投稿に多数のコメントが寄せられていますが、既存ユーザーの方から「私も使っている」「このアプリ良いよね」といったコメントもたくさんありました。そのため当初期待していた「若年層の間で盛り上がり」も、より強く出たと思います。
渡邊:クリエイターのコラボを実現させた狙いの一つには、「このコラボを見られて嬉しい」といったユーザーからのポジティブな反応を引き出しつつ、それをきっかけにコメント欄でのコミュニケーションを活性化させることもありました。予想通りにTimeTreeに対するポジティブなコメントが寄せられ、盛り上がりを醸成できたことは、大変喜ばしいことでした。
- 施策を設計、実行されたHakuhodo DY ONEとしては、どのように振り返りますか。
横田:「認知」と「ダウンロード」の二つに関してはそれぞれに最適化した広告配信を実施しました。素材は同じなのですが、この配信の工夫によって二つの目標が達成でき、全体として良い結果になったと考えています。
渡邊:今回の成功要因の一つに、戦略立案から具体的な企画、キャスティングとスムーズに連携できた点が挙げられると思います。
これまで、DACは幅広いデジタルメディアの知見やキャスティングノウハウを強みとしてサービス支援を行い、アイレップはコミュニケーションプランニングやクリエイティブを強みとしてサービス支援を行ってきました。DACとアイレップがHakuhodo DY ONEとして一つのチームになったことにより、インフルエンサー領域においても支援体制や納品クオリティの強化を実現できたと感じています。
今回のような施策の場合、メディアプランニングと制作、キャスティングは別会社が担うことが多い中、当社はこれらすべてを内製化しているのが強みだと思います。各部門にプロフェッショナルが在籍し、ご与件に応じて最適なチームを組成、ワンストップでハイクオリティな成果を提供します。
柴﨑:そうですね。戦略を立てて企画プランに落とし込み、キャスティングして施策実行するまでのすべてのプロセスを、シームレスかつスピーディーに実現できたことが成功を後押ししたと考えています。
- 最後に、今後の展望や構想についてそれぞれお願いいたします。
古賀:カレンダー共有アプリは、新しい人と出会い、予定を立てるすべての方にご活用いただける可能性があるものだと考えています。今後も引き続きTimeTreeを知っていただくこと、そして理解していただくまでのプロセスに力を入れていきます。
TimeTreeは特定のグループだけでなく、様々なシーンで活用できるアプリです。あらゆる予定管理のデファクトスタンダードのような存在を目指したいと考えています。こうしたメッセージをコミュニケーションしていく際には、インフルエンサーの方々による紹介のパワーは非常に大きいですし、起点の一つとして活用を進めたいと思います。
横田:TimeTreeさんと当社ではDSPソリューションの共同開発を進めており、その価値向上にもユーザー数は重要な観点です。TimeTreeさんの多角的な事業成長に伴走するため、今後も引き続き幅広い戦略、施策をご提案したいと考えています。